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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第30話 謎のひな

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(四)助けた話

◆ 見えないもの


うちの人間は、離れた場所から木を見た。


「親、ちゃんといたんだね」


いた可能性は、最初からあった。


人間と猫が近くにいたから、姿を見せなかっただけである。


見えないものは、いないとは限らない。


声を出さないものが、何も考えていないとも限らない。


人間が気づいていないところで、親鳥はひなの様子を見ていたのだろう。


うちの人間はシジミを見た。


「シジミ、食べ物じゃないからね」


誘拐しそうになった人間に言われたくない。


シジミは最初から、このひなを食べようとしていない。


親が近くにいる可能性も考えた。


人間や猫がいれば、親が戻れないことも理解していた。


地面より高い位置。


上からも下からも見えにくい場所。


仮の巣を置くなら、そのような場所がよいことも分かっていた。


一方、うちの人間はひなを見つけるなり、


「うちに連れていこう」


とした。


親を探すより先に、家へ持ち帰ろうとした。


その者が、シジミへ、


「食べ物じゃない」


と注意する。


ずいぶん納得がいかない。


◆ 善意で誘拐するところ


少なくともシジミは、連れ去ろうとはしていない。


うちの人間は、再び離れた場所から木を見た。


「危なかったなあ。知らなかったら連れて帰ってた」


本当に危なかった。


善意で誘拐するところだった。


人間は、知らないことそのものより、知らないまま行動することのほうが危険である。


分からない。


ならば調べる。


詳しい者へ聞く。


自分で判断できないなら、勝手に連れていかない。


そこまでできれば、大きな間違いは減る。


だが、人間は最初に手を出す。


あとから調べる。


そして、間違いを止められれば、


「助けられてよかった」


と言う。


自分が作りかけた問題を、自分で止めただけかもしれない。


しばらくすると、親鳥がまた戻ってきた。


今度も食事をくわえている。


仮の巣へ止まる。


ひなへ与える。


すぐに飛び去る。


うちの人間は、うれしそうにその様子を見ていた。


「ちゃんとお世話してる」


親なのだから、当然である。


人間が見ていないあいだにも、親は子を育てている。


人間が助けなければ、何もできないわけではない。


むしろ、人間が近くにいないほうが、うまくいくこともある。


うちの人間は小さく息を吐いた。


「連れて帰らなくて本当によかった」


その判断については、正しい。


最初に連れて帰ろうとしたことも含めて、覚えておいてほしい。


次に同じようなひなを見つけたとき、すぐに持ち上げない。


親が近くにいる可能性を考える。


巣が見えなくても、ないと決めつけない。


分からないなら調べる。


それができれば、今回の経験にも意味がある。


◆ 親へ任せる


帰り道。


うちの人間は何度も後ろを振り返った。


「大丈夫かな」


親鳥は戻った。


食事も与えた。


今は任せるしかない。


振り返っても状況は変わらない。


近づけば、また親鳥を遠ざけるだけである。


シジミは先へ進んだ。


うちの人間も、ようやくあとをついてきた。


「シジミも心配だった?」


心配というより、うちの人間が余計なことをしないか見張っていた。


結果として、ひなは親のもとへ戻れた。


仮の巣もできた。


悪くない。


ただし、それを最初から正しく進めたわけではない。


連れて帰る。


飼う。


食事を与える。


自分が助ける。


うちの人間の頭には、まずその考えが浮かんだ。


相手には相手の親がいる。


相手の暮らしがある。


人間が見えないところで続いていた関係がある。


そこへ善意で入り込み、すべて自分が引き受けようとする。


人間は、自分が助ける側になるのが好きらしい。


ただ離れる。


親へ任せる。


それでは、自分が何もしていないように感じるのだろう。


だが、今回は離れたことで親が戻った。


何もしなかったから、親子が再会できた。


本当に必要だったのは、人間が活躍することではない。


人間が邪魔をしないことである。


◆ 助けた話


うちの人間は家へ戻ると、姉へ今日の出来事を話し始めた。


「鳥のひなが落ちてて、仮の巣を作って助けたの」


少し違う。


最初に誘拐しそうになった部分が抜けている。


話の中では、最初から正しく判断したようになっている。


調べた。


役所へ聞いた。


仮の巣を作った。


親鳥が戻った。


たしかに、最終的にはそうである。


だが、


「とりあえず、うちに連れていこうか」


と言ったことは話さない。


人間は自分の失敗を語るとき、修正した部分を中心に話す。


危うく何をしそうになったかは、小さくなる。


そして最後には、よいことをした話になる。


話し終えたうちの人間は、満足そうにシジミを見た。


「シジミが食べなくてよかった」


まだ言う。


食べようとしていない。


ひなを持ち帰ろうとしたのは、うちの人間である。


親から引き離しそうになったのも、うちの人間である。


それでも最後に警戒されるのは猫だった。


シジミは猫語でつぶやく。


「本当に人間ってあさはかな生き物だよね」



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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