第7話 僕の名前は / 私の名は
「えーっと……つまり……
僕達は『勇者』と『魔王』、それぞれからほぼ同時に『追放』を言い渡されて―――」
「同じ目的地にほぼ同時に辿り着いていた―――と、いうことになるな……」
リィドとステラフィア。
『タイラント・サイクロプス』強襲による危機を脱した2人はお互いにここに至るまでの経緯を説明し合い―――そしてお互いに困惑の極致に至る。
『勇者パーティ』と『魔王軍』。
かつて対極の立場にいた2人の『追放者』。
これは一体どれだけの天文学的確率で起こり得た邂逅だったのだろうか。
もはや何者かの意図すら感じてしまいかねないこの『巡り合わせ』に少年と女魔族はしばし閉口してしまっていたが―――
「「「ギチギチギチギチギチギチ……!!」」」
「「―――っ!!」」
そんな2人の都合などお構い無しに、『超上級ダンジョン』は侵入者の排除へとかかる。
突然聞こえてきた大量のおぞましい鳴き声。
通路の奥より新たにモンスターが―――大顎を噛み鳴らす、赤色の巨大肉食飛蝗。
『レベル75』――『デス・グラスホッパー』の大群が現れる。
この圧倒的な数の『死の気配』を前に―――
「ステラフィアさん!」
「っ!?」
少年は女魔族へと、力強く呼びかけた。
「僕の名前は、リィド!
リィド=アリアードです!」
その女魔族の目を、真っ直ぐに見つめながら。
「僕には『夢』があります!
『勇者パーティ』から追放されても!
使いづらい『力』しか持っていなくても!
絶対に諦めきれない『夢』が!」
巨大飛蝗の群れが、今にもこちらへと飛び掛かろうとしているのを知りながら。
「僕は貴女のことを人伝にしか知らない!
不必要な殺傷はしない温和な魔族なのか!
容赦なく人間を殺す冷酷な魔族なのか!
何も知らない!」
それでも、自分の『意志』を目の前の相手に伝えることを何よりも優先させるように。
「それでも今は―――せめて今だけは!
どうか貴女の力を貸して欲しい!」
少年は―――呼びかけた。
「代わりに僕も―――僕の力の全てを、貴女に捧げます!」
―――ジャリィッッ!!
その『鎖』の音が鳴るのと同時に―――
「「「ギイィィイイイイィィイッッ!!!!」」」
血肉に飢えた巨大な飛蝗の大群が―――羽音を響かせ、2体の『獲物』に向かって群がった。
あっという間に『獲物』は雪崩の如く押し寄せる飛蝗の群れに飲み込まれ―――
―――ザシュッッッッッ!!!!
次の瞬間―――その群れが『大剣』の一刀のもと、吹き散らされた。
「「「ギッッッ!!??」」」
『獲物』からの距離が離れていた為、運良く『大剣』の餌食にならずに済んだ後方の『デス・グラスホッパー』から驚愕の鳴き声があがる。
「全く……自分だけ好き勝手に喚き散らしてくれたものだ」
声が響いた。
「私の名は、ステラフィア」
銀色に光る『大剣』を振るった女魔族が、告げる。
「私には『約束』がある。
『魔王軍』を追放されようが……
たった一度魔法を唱えただけで倒れてしまうような身体であろうが……
絶対に果たさねばならない『約束』が」
銀色に光る『鎖』を自身へと伸ばす少年に向かって、告げる。
「私はお前のことを知らない。
魔族を殺すことのできない軟弱な人間なのか。
『勇者パーティ』の使命に従い、容赦なく魔族を葬って来た人間なのか」
先ほどの少年に倣うように―――真っ直ぐにその少年の目を見つめながら、告げる。
「だが今だけは―――お前の助力を乞う」
そして―――
「代わりに―――私の力を、お前に捧げよう」
その半人半馬の女魔族は馬の胴体部分をリィドの方へと近づけ――― 一言告げる。
「―――乗れ」
「っ! はい!!
失礼します!!」
―――バッッ……!
リィドは地面を蹴り、ステラフィアへと飛び乗り―――
―――ジャリィッッッ!!!
彼女の身体に巻き付けた『鎖』を、手綱の如く構えた。
「それと、もう一つ。
私のことを呼ぶときは―――『ステラ』でいい」
「――うん! 分かった!
よろしく、ステラ!」




