第4話 そんなこと
「さぁて!
それじゃ準備も済んだことだし―――!」
「ああ――行くぞ!」
その言葉と共に、リィドを乗せたステラフィアは『長槍』を手に携え―――
―――ヒュバッッッッッ!!!!
街外れの森の中から、一瞬にしてその姿を消した。
2人は目指す。
次なる目的地―――『魔族領』を。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『アルヴァー大陸』西側―――通称『魔族領』。
『領』と付いてはいるがこれはあくまで人間側からの呼称であり、人間社会のように魔族による統治がされているわけという訳ではなく、実体は単に魔族が多く暮らしている領域という意味でしかなかった。
だが『魔王』の出現と『魔王軍』の勢力拡大によりその認識も徐々に改められていき―――今では実質的に『魔王軍』が支配する土地、というのが今の人類における共通認識となっていた。
迂闊に人間がその土地に入り込めば命の保証は出来ない『危険域』―――
それが『魔族領』である、と―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「っていうのが、僕達人間側からの認識だった訳だけど―――ステラからの話を聞いた限り、そこまで危険視するような場所ではないのかな?」
凄まじいスピードで地を駆けるステラフィアへ、その背の上に乗るリィドは声をかける。
「どうだろうな。
先程『一般的な魔族』は人間を見かけただけでは攻撃はしないとは言ったが、『魔王軍』の勢力は日々拡大の一途を辿っている。
それはつまり、人間に対して敵対意志を持つ魔族が増えているという証でもある。
不用意に干渉しない方がいいのは間違いないだろう」
「………………」
そんなステラフィアからの返答に、少しの間黙り込んだリィドは―――改めて口を開いた。
「あのさ……ステラは、どうだったの……?」
「私……?」
ステラフィアはチラリとリィドの方へ目を向けた。
「『魔王軍』に入ったのは人類と争う為じゃなく、ダンジョン攻略の為だっていうのは聞いたけど……『四天王』として人間の『冒険者』と戦うことはあったんだよね……?
君自身は人間のことを―――どう思ってる?」
「………………」
少しだけ不安が混じったようなその声色に、今度はステラフィアが少しだけ押し黙り―――やがて語り出した。
「私個人としては、特に人間に対して敵対感情を抱いてはいない。
むしろ、幼い頃は同族である魔族に対して敵意を向けることの方が多かったな。
前に話したことがあったろう。私は自信の体質を同族に馬鹿にされてきたと」
「ああ……そういえば聞いたね、そんな話」
初めてステラフィアと出会い、彼女の途轍もない低『ステータス』を知った時、確かにそんなことを話していたのをリィドは思い出した。
「『魔王軍四天王』の名を冠するようになってからは、お前の言う通り『冒険者』が私を討ち取ろうと挑んでくるようになったが―――それは至極当然のことだとも認識していたよ。
人類に敵対する組織に所属している以上、こちらを攻撃してくる大義名分は十分ある。
それをとやかく言うのは逆恨みもいい所だろう」
「……そっか」
ステラフィアのそんな返答を聞いたリィドは―――
「うん、それなら良かったよ!」
と、すっかり安心した様子を見せた。
もしもステラフィアが人間に敵意を持っていて、自身と行動を共にすることを内心疎んでいたら―――そんな心配が杞憂だったことに対する安堵であった。
だが―――
「………………」
「え……あ、あれ、ステラ?」
ステラフィアはビタッと脚を止め―――何の言葉を返さずにリィドのことをじっ、と見つめていた。
リィドは何故彼女が突然そんな反応を見せたのか分からず、途端に心に不安が湧きあがった。
「あ、あの! 僕、なんか勘違いしちゃってた!?
やっぱり君も人間の事は―――」
「リィド―――お前の方はどうなんだ?」
「え――?」
リィドの焦り声を切り裂くように、ステラフィアから疑問の声があがった。
「お前に言った通り、これまで何人もの『冒険者』が私を討ち取ろうとし―――そして、私はそれらを全て返り討ちにしてきた」
ステラフィアはリィドの目を真っ直ぐに見つめながら問いかける。
「私がこれまで、どれだけの『冒険者』の命に手をかけたのか―――お前は気にならないのか?」
リィドを瞳を射抜くかのような鋭さを持つ視線と共に投げかけられたその言葉に対し、リィドは―――
「うん、別に気にならないよ」
なんの躊躇もなく、さらりとそう答えた。
そのあまりの即答に、ステラフィアは思わず目を丸くして口をぽかんと開けてしまった。
「いやだって、その『冒険者』達は君の命を狙ってきたんでしょ?
それなら、逆に自分の命が奪われることになったとしてもしょうがない事だと思うよ。
自分からダンジョンに挑んで命を落としても、それは自己責任なのと一緒だよ」
ステラフィアが返す言葉を探している内に、リィドはすらすらと答えていった。
「そんなことより、ステラが人間に―――というか、僕に対して何か忌避感のようなものを持っているんじゃないかって思って、かなり焦っちゃったよ……
初めて会った頃からステラには結構馴れ馴れしく接してきちゃったし、気が付かない内に君の気分を害してしまってたのかとか、そういう―――」
「………………」
ほっとした様子でそんな事を述べるリィドを、ステラフィアはただ無言のままに見つめ―――心の中で独りごちる。
(こいつ……こんな割り切った考え方が出来る奴だったのか……?
それとも私が知らなかっただけで人間の『冒険者』達は皆『これ』が普通なのか……?)
自身と行動を共にする者が人の命を奪ったかもしれない――それを『そんなこと』で済ませてしまう少年に対し、ステラフィアは若干の戸惑いを覚えてしまうのだった。
(……思えば、私はリィドのことを殆ど知らないのだな……
分かっている事といえば、『勇者パーティ』を追放されたという事と、『原初のダンジョン』に辿り着くという『夢』を持っているという事だけ……
さっきも思ったことだが……その『夢』とやらにについて、私は何も―――)
「なあリィド、お前は―――」
と、口を開きかけた所で―――彼女は気付く。
『それ』は自分も同じだということに。
(そうだ―――私がリィドのことを知らないのと同じように、リィドも私のことなど何も知らない。
私は―――私の『約束』のことを―――リィドに、何一つとして―――)
「ん? なに、ステラ」
「―――いや、何でもない。
無駄に時間を取らせて済まなかったな。
行くぞ!」
ステラフィアは心の中に浮かび上がった疑問を口にはせず一方的に会話を切り上げると、大地を蹴り出した。
「わっ!?」と驚きの声をあげるリィドを無視し―――ステラフィアは再び次の目的地へと駆ける。
(………行動を共にするからといって、互いの全てを知っていなければならない訳ではない。
リィドの『夢』や、私の『約束』のことなど……互いに知らずとも、別に何の支障もないだろう)
そんなことを考えながら―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そうして、数日後―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――ダッ、ダッ、ダッッ!!!
太陽が地平線の向こう側へ沈みかけ、もうすぐ夜が訪れようとしている夕暮れ時の山岳地帯。
足を踏み外せば絶命を免れないであろう断崖絶壁を、ステラフィアは軽快に飛び跳ねていく。
「もう『魔族領』には入ってると思うけど―――そこまで『人間領』と雰囲気は変わらないね」
「ここはまだ『人間領』に近いうえ、この通り僻地だ。
魔族だって殆ど足を踏み入れたりはしないだろう」
『魔力の鎖』を握りしめるリィドとそんな会話をしながら、ステラフィアはほぼ垂直に近い崖を駆け上り―――
―――ダンッッッ!!
崖の頂上へ、その4つ脚が降り立った。
「もしここに来る者がいるとすれば―――『アレ』以外の目的はないだろうな」
そう言いながらステラフィアはある方向へ視線を向け、その背に乗るリィドもまた見つめた。
数キロメートル先にそびえ立つ―――橙色の『宮殿』を。
ステラフィアが背後へと顔を向けると、リィドは黙ってコクリと頷き―――
―――ダッッ!
その『超上級ダンジョン』―――『太陽の宮殿』へと、リィドを乗せたステラフィアは駆け出すのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 ??? 》
「―――っ……!
今……誰か、入った……!
場所は……ここ……!」
「そぉかい。
んじゃ―――行ってくらぁ」
短いですがここでまた一旦更新終了。
続きは出来れば今月中に。




