第12話 その名は――――――
「あれが―――?」
「うん……このダンジョン――『愚者の迷宮』の『ダンジョン・コア』だよ」
ステラフィアの背から降り、彼女の隣へと立ったリィドが『それ』を見つめながら答える。
『ブラックネス・ゴーレム』がいた空間の、その先。
先程までの広大さとは打って変わり4、5メートル四方程の広さしかない空間の部屋に―――ガラス管のようなものが存在していた。
そのガラス管の中には一枚のカードが浮かんでおり、不可思議な光を放ちながらクルクルと回り続けていた。
そのカードこそが、このダンジョンの核。
数多のモンスターを生み出し、『魔法式』といった『ダンジョンギミック』を動かすためのエネルギー源―――『ダンジョン・コア』であった。
「私も今まで何度かダンジョンを攻略したことがあるが……あんな形をしている『ダンジョン・コア』は初めて見たぞ」
「うん、大抵の『ダンジョン・コア』は水晶みたいな結晶体であることが多いね」
ちなみに―――その結晶体は特殊な『マジックアイテム』の原材料になり、これまで人類に様々な恩恵をもたらして来た。
それこそが、この世界の人々が『冒険者』となりダンジョンに挑む何よりもの理由である。
「でもそれは『上級ダンジョン』までの話で、『超上級ダンジョン』の『ダンジョン・コア』はあの通りカードの形をしているんだ。
少なくとも僕が『勇者パーティ』にいた頃に攻略してきた『超上級ダンジョン』は全てそうだった」
「ああそうか、お前は10回以上『超上級ダンジョン』を攻略してきた『勇者パーティ』の元メンバーだったな。
私がいた時の『魔王軍』はお前達が言うところの『超上級ダンジョン』にはまだ手を伸ばしていなかったからな……まあ、手柄に逸った奴が勝手に挑戦して勝手に行方不明になることはよくあったが」
と、そんなことを話し合っていた2人であったが―――
「まあ、それはともかく―――リィド」
ステラフィアはリィドの方へと振り向き―――ハッキリと告げる。
「これでこのダンジョンが攻略される以上―――もう我々が慣れ合う必要は無くなった訳だな」
「………………」
その言葉を受け、リィドは一瞬黙り込む。
やがて、彼もまたステラフィアの方へ振り向き―――
「ねえステラ……『デス・グラスホッパー』が強襲してきたあの時、言ったよね。
僕には『夢』があるって」
改めて、その女魔族へと語りかけた。
「僕の『夢』は―――『あるダンジョン』を攻略すること。
この『アルヴァー大陸』で存在を確認されている、21の『超上級ダンジョン』……その全てを攻略することで出現すると言われている『原初のダンジョン』―――『世界の果て』」
『あの時』のように、リィドはその女魔族の目を真っ直ぐに見つめたままに―――
「僕はそこに辿り着くために『冒険者』になって、『勇者パーティ』の一員としてダンジョンに挑戦してきて―――そして、追放されてしまった。
それが僕、リィド=アリアードだ」
自らの『意志』を、伝える。
「ねえステラ……君とはここで初めて出会ったばかりで……
ただその場の流れで一緒に戦うことになっただけで……
それでこんなことを言っても、君を困らせるだけかもしれないけど―――」
グッ……と掌を握りしめ―――リィドは、告げる。
「僕の『夢』が叶う時には―――君が隣にいて欲しい」
ステラフィアはすぐには答えず、「ふっ……」と小さく笑った。
「要するに―――お前の『夢』を叶える為に私の力を利用したい、ということか」
「…………………」
リィドはその返答に対し、何も言わない。
否定も言い訳も口にせず、ただステラフィアのことを見つめ続けた。
そして、「ふぅ……」という溜息が彼女の口から洩れると―――
「私も『約束』があると、『あの時』に言ったな」
ステラフィアもまた、語り始める。
「私は―――たった1人の家族と、ある『約束』をした」
リィドと同じく、彼の目を真っ直ぐに見つめ―――
「それは『あるモンスター』を見つけ出し、その『支配権』を得ること。
そのモンスターがどこにいるのかは分かってはいないが―――ダンジョンにいる可能性が一番高かった」
決して、偽る事なく―――
「故に私は『四天王』として『魔王軍』に与し、ダンジョンに潜り続け―――そして、追放されてしまった。
それが私、ステラフィアだ」
自身の『意志』を、伝える。
「リィド、私の『約束』を果たす為に―――どうかお前の力を、貸して欲しい」
そして、その手を―――リィドへと差し出した。
それを見たリィドは、満面の笑みを浮かべ―――
「うん!!
よろしくね、ステラ!!」
その手を、しっかりと握った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2人は光を放つカードが浮かぶガラス管の手前に存在する、不可思議な紋様が刻まれた台座のようなモノの前に立った。
「さて……後はこの『コア・スタンド』に乗ればこのダンジョンの攻略が完了する訳、なんだけど―――」
リィドは、隣に立つステラフィアをチラリと見た。
人間が台座に乗れば、ただ『ダンジョン・コア』を手に入れるだけで終わる。
だが、それが魔族であった場合―――もう一つの『特権』が得られる。
それこそが、ダンジョンに生息しているモンスターの『支配権』の会得であった。
「ねえステラ……本当にこのダンジョンは僕が攻略しちゃっていいの?」
「別に構わん。
さっきも言った通り、私が『支配権』を会得したいのは『あるモンスター』だけだ。
私がこれから先、1人でダンジョン攻略を進めるのであれば戦力として確保するつもりではあったが―――今となっては、もう不要だ」
「そっか……
うん、それじゃあ―――」
ステラフィアの返答を聞いたリィドは、改めてガラス管の前の台座――『コア・スタンド』へと歩き出し―――
その台座の上へリィドが乗った瞬間―――
―――ヴンッ………!
ガラス管が、一瞬にして消え―――
―――ヒラ………
その中で浮かんでいたカードが、自然とリィドの眼前へと舞い落ち―――そして、それを掴み取った。
1人の旅人と1匹の犬の絵、そして『0』という数字がふられたそのカードを、リィドはそっと懐へとしまい込んだ。
「さて……これにて攻略完了、と―――」
そう呟いたリィドが台座から離れようとした時―――
―――『新規ID名をご登録ください』
突然、この空間内に『声』が響き渡った。
「あっ、そうか……最後に『これ』が必要なんだっけ。
いつもはフィリオンさんに任せてたからすっかり忘れてたや」
「ああ、そういえばあったな」
リィドとステラフィアは、共にその『声』の存在を思い出す。
ダンジョンを攻略すると必ずどこからともなく聞こえてくる『声』。
この『声』が一体どこから響いてるのか、『ID名』とは一体何のことなのか、それは未だに何も分かっていない。
ただリィド達が知っているのは、ダンジョンを攻略すると最後に何かしらの『名前』の登録とやらが必要になる、ということであった。
「うーん、どうしよ……いつもならここで『パーティ名』を登録する所なんだけど……」
「別にお前の名前でいいんじゃないか?
我々魔族はそうしているぞ」
ステラフィアにそう促されるも、リィドは何やら考え込んでいた。
「ねえステラ、折角僕達2人で一緒にダンジョンを攻略していこうって決めたんだからさ……
どうせならここで僕達の『パーティ名』を決めちゃわない?」
「お前と私の―――『パーティ名』?」
「うん……ダメ?」
上目遣いで反応を窺うリィドに対し「……別に好きにしろ」とステラフィアは興味なさげに返答すると、彼は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「いやー、実はさ!
ステラとダンジョン攻略始めた時から、ずっと考えてたんだ!」
『それはつまり、その時点で既にお前は今後も私と共に行動を続けるつもりだった、ということか……』とステラフィアは思ったが、あえて口にはせず「……それで?」と続きを促した。
リィドは―――『その名』を口にする。
「『――――――――』なんて、どう?」
『それ』を聞いたステラフィアは、半眼になりながら呟いた。
「まあ、別にいいが……
お前、案外嫌味ったらしい性格だったりするのか?」
「えっ!?」
渾身の出来だと思っていた『その名』にそんなダメ出しをくらい、割と本気でショックを受ける少年の姿があった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『新規ID名―――
『ダブル・バニッシュメント』
登録完了しました』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
人間と魔族。
元『勇者パーティ』と元『魔王軍』。
そして、『追放者』と『追放者』。
異なる立場で同じ境遇を辿った『人魔混合パーティ』の物語。
これが、その最初の第一歩であった―――
ここまでお読みいただきありがとうございます。
運命に導かれるように出会った2人の追放者。
果たしてこれからどんな物語が紡がれていくのか。
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