番外編 長女はお城で働いてます
お読み頂き有り難う御座います。
デアシラの長女ドロメラの番外編で御座います。
裏事情が載ってますので、本編ラストを若干損なう可能性が御座います。お気をつけの程を。
「うっうっうっうっ、酷いいいい」
「離して欲しいんですけれど」
「レーメちゃんんんん!!何で俺を捨てたんだよお」
「その鬱陶しさでは?」
「ドロメラ酷うおおおお」
酔っぱらいの相手ってウザいですやねえ。
単なる同じ職場だけど顔見知りに過ぎないヒラ侍女私に、何を求めているのやら。何故私のファーストネームを知ってるんでしょうね。
あ、私は下級侍女のドロメラです。主に廊下の清掃業務に携わっております。只今、柱に巣食ったクモの巣を取り去ろうとしてるのに邪魔されておかんむりです。
ウチは……ちょっとした訳が有って、叔母様の子爵家にお世話になってます。子爵家と言ってもお金と地位と領地が無い、兼業貴族なタイプですけどね……。
昔はもう少しお高い爵位有ったそうなんですけれど、私の子供の頃に起こった日照り&大雪害による経営破綻で領地を失い、爵位をダウンさせ狭苦しいタウンハウスに引っ越してきた貴族なんです……。それなのに、血縁関係の無い姪の私を住まわせてくれるその優しさガチ大貴族級なんですよ。
大貴族と縁が無いので単なるスケールの大きいものの例えですけど。
「俺と結婚してくれるってえええうえおえ」
大丈夫ですかこの人。泣きすぎて廊下を汚さないようお手洗いとかでやって欲しいですねえ。
えー、旅の一座にレーメと言う歌って踊れるセイレーンさんがいらしたんですってよ。いや大型魚系の獣人さん?何せご本人にお会いしてないものだから、違いがよく解らなくて。
で、この泣いてるおバカさん貴族のボンボン、えーと名前なんだっけ。陸軍の……チャーキートン伯爵家の五男か七男だったかしら。
よく裏庭で泣いてる人なんで、か・な・り邪魔です。
「あんなにデッカい花束を捧げたのに!!結構大変だったのに!!」
「でしょうね大変な出費ですね」
此処にお勤めが決まる前、ご近所の花屋でバイトしてたから知ってます。デッカい花束ってお高いんですよね。都会のお値段ビックリですよ。あんなのド田舎で買ったらお幾らに。……いや、そもそもあんな洒落た花、ド田舎で買えませんけどね。野花オンリーです。
まあ兎に角、このフラれ殿方さんが渡せなかった花束を偶に貰ったから、良いの買ってたの知ってますわ。横流しするなですよ。
まあ、お花に罪はないから貰いましたし干してドライフラワーにしてポプリにして砕いて袋に入れてお風呂に入れ……まあまあお役立ちでしたね。
「レーメちゃああん!!俺、周りに結婚するんだって触れ回ったのに!!」
「まあ大変なご迷惑」
「式場も予約したのに!!」
「キャンセル料が発生するからお早めが良いでしょうね」
ここに来る前叔母様のご親戚筋の結婚式場でバイトした事があるから知ってます。不運にも直前でのキャンセルは高額になってモメるんですってよ。
まあ、実家が伯爵家だか侯爵家だか忘れましたが、お金は有るでしょう。良いなあお金持ち爵位有りの親御さん。
我が家の両親は健在ですし大好きですけど、何せ兄弟が多いのでそんなに裕福でもありません。
領地とお金が有ると裕福に暮らせて好きなものが買えますしねえ。ヒラヒラの素敵な飾りの御帽子とか欲しかったものです。
「結婚したいよおおお」
「ご親戚にご紹介された縁談をお受けになっては?」
「スペアの地位からも程遠い七男の俺に誰も来ねえよおおお!!」
「あ、そうなんですか、存じ上げませんで」
「ドロメラ、俺に興味……無いよね」
何の興味をお持ちすれば良いのかしら。
失恋して脇目も振らず泣いてる殿方に……何を?うん、普通に不愉快ですわね。迷惑料を徴収したいですよ。
「ドロメラ。俺と結婚してくれないか。明後日親戚一同に紹介しなきゃならないんだ」
「まあ、現状を正直かつお早めにネタバラシがよう御座いますね」
突っ込む気も起こらないんですが。何ですかその変なキメ顔。
親戚一同に、結婚したい相手にフラれましたのでその辺で偽造を頼んだ結婚相手を連れてきた、と宣うのですか?私なら死にたいだろーなあという感想しか湧いてきません。
あ、向こうの柱に煌めくのはクモの巣ですか。雨の後は美しいですねえ。こんな誰も幸せにならない不毛な話とは大違い。
「あー、高いところのクモの巣を発見。箒じゃ届かないわあ。踏み台持って来なきゃ」
「何でもするから結婚してくれええええ!」
「では、迷惑料として、私と結婚しないでください」
「違あう!!」
ハイ解決。あー渡り廊下にも葉っぱの多いこと。もうすぐ冬ですものねー。忙しい忙しい。
「では、業務の為に用具を取りに参りますので此れで。真実を明かす良い機会の明後日をお過ごしくださいまし」
はあー肩凝るわー。
全く、業務妨害で侍女長様に報告してやろうかしら。あ、それこそ明後日まで休暇を取られてておられないんだった。
帰りに肩揉み屋さん行こうかしら。癒されないとやってらんないわ。私の欲しかった素敵なお帽子が遠ざかりー……はあ、辛い。
「諦めないぞおおお!ドロメラ!!君と結婚してやる!!」
「無理です。本命を口説いてください。既婚者に言い寄るのは罪ですが、大人として責任を持って頑張ってくださいね」
他に頼める女性が居られないのかしら。即断るでしょうけど、情かお金で動いて始まる恋愛も有ると思うのよね。
読み物としてなら面白いと思うのですが。
まあ、ギャラリー集まってましたけど勿論私の話題なんてゼロで秒解散、無視ですよ。
どうせ明日になれば、高貴な方々のロマンスで持ちきりですって。こんな場末の廊下掃きの木っ端侍女が絡まれてても世間はクール&シビアなもんですわ。
「ちょっと、ミューン嬢って本当にゴードン殿下をフラれたのかしら」
「何時ものジャレ合いよぉ」
帰りに、侍女仲間と集団で着替えていても、だーれもコメント無かったですしね。いやもう第三王子殿下のロマンス?にアレヤコレヤギャースカワーワーと。
個人的に、あの方のスキャンダルぶりはちょっとなあですけどね。大人しいお嬢さんばかりが毒牙に掛かっているようですし、侍女仲間で泣いてる子もいましたし。
私は全く絡まれた事皆無ですけどね。
この素朴な割に生意気なツリ目と老け顔がお気に召さないんでしょう。未だ16なのですが。
さーて帰るか。
早く抜け出さないと、駅馬車に間に合わなくなります。
「ドロメラ!!キーチャートン伯爵家七男シン様より婚約申し込みが来たぞ!」
「まあ、誤配でしょうね」
「え、誤配?」
「ええ、彼には愛する美人な人妻がおられるんですって。その方への恋文を誤配されたんですわ」
「何なんだそれは!!普通にクズ男じゃないか!!」
叔母様のお兄様は家族を重んじる良き父親かつ良き方ですのよ。親戚の小娘が邪険にされた事すらも激怒されました優しい方です。
あの野郎、本気で出してどうする。そんな罵りを呑み込んで、……こっそりと地団駄は踏んでおきます。
出勤前に誤配として配達所にお返して申し出ましたとも。ウチに使用人は侍女のばあやさんと執事のじいやさんしか居りませんしね。自分のことは自分で始末をつけるのですよ。
なーのーに。それで終わりにしてくださればいーいのにー。
「お願いしますドロメラ!!結婚して!!」
「これだけ騒いでいれば、ご親族へも急場凌ぎの嘘だってバレバレだと思いますよ」
案外廊下って声響きますからね。
噂話を拾いたい暇な方々に自ら身を投げ出してネタ提供、ご苦労様ですわ。
「嘘で良いから!!親族にも仮面夫婦頼み込んでるって言ったから!!」
「まあ、嘘ならいっそ突き詰める為にプロの方にどうぞ。高速船乗り場によろず代行サービスのチラシが貼ってありましたわね」
お掃除とかがメインみたいでしたけど、仮面夫婦代行も可能なのかしら。幅広いニーズにお答えしてくださったら良いのに。
「ドロメラあああ!!何でもするううう!!」
大体の女性は嘘婚?偽造婚?仮初めの婚姻?って言うと今流行りの~奥方様劇場・お飾り妻の昼下がりなのに閨~な雰囲気ですわね。
兎に角、世間一般ではテキトーな安請け合いで婚姻歴バツ持ちになるの、相当嫌がられると思うのですけどねー。未だ未だ若輩者ですけど同じくそう思いますわー。
「お嬢ちゃま、またお手紙ですよ」
「イヤあねえばあやさん、また読まないとダメ?」
「伯爵家からのお手紙をスルーするのは、難しいでしょうねえ」
「何々……。噂も広がり、最早貴女の名誉にも関わるので婚姻を……誰のせいだと思ってらっしゃるのかしら」
と言うか、嫁ぎ先の宛も無い子爵家ながらも木っ端侍女、に名誉もプライドも有るのかしら。持っておりませわねー。
おじさまの娘であるモリーユが、平民と婚姻してもいいなーそうしようかーと言うお話が毎回上がる位、此方の財政は底辺ですのに。更に、輪を掛けて何せ我が実家は辺境のド田舎の宿屋ですから貧乏です。
「此処まで望まれているのだから、どうだいドロメラ……。ご両親に相談してみては」
激怒してたおじさまはどちらへ……。
いえ、プレッシャーですわよね。お仕事先に超立派な馬車が押し掛けた衝撃、下っ端侍女にまで伝わっております。申し訳ありません。
「手紙を書いてみます」
私の秘密を知って尚、偽の婚姻を持ち込む根性が有るかどうか……。
逃げるでしょうねえ。
シン様のお立場が私なら即お断りすると思いますよ。
そして、田舎の割に素早く父から来た返信は……何をしたんでしょうね。地味に我が父ながら得体が知れないと言うか。母はよく受け入れているものです。
『寂しいけど、ドロメラの意思を尊重するよ……。恋の秘密を打ち明けたいなんて、お年頃になったんだね。恋は、急に突き落とされたものだから』
……母に見られてもおかしくない、平叙な中庸……に見せかけた悪意たっぷりな文章でした。
……変な惚気とロマンチストも入ってますね。止めて欲しいです。
テキパキが信条の母と違って、ポヤヤヤーンとしてますし、実際ドジでノロマな面も有るんですけど。ああ見えて……魔獣子爵ソラニ家当主ですものね。あ、勝手に私へ譲られましたので前当主でしたっけ。
黄金のガサガサ、と通称で呼ばれている魔獣の一般的な知識は……間違ってもいませんが、合ってもいません。
そもそも、魔獣の姿で産まれませんから成体になる確率が低い……なーんて迷信が生まれたんです。
幼獣は、伴侶と同じ姿で育ちます。
今の私のように。それから変身するかしないかですね。まあ、過去には魔力を無理矢理ねじ曲げて叔父様が変身させられたこともありましたが、報いは受けた事でしょう。
ああ、そうだ。報いと言えば。力有る魔物は……呪いを掛けることが出来るのでしたね。
眷属と決めた生き物を……黄金のガサガサの幼生とかに似せたあり得ない生き物、に姿を変える事、とかね。出来るのです。
勿論、呪いを掛けたものは呪いを解かないと、何年経っても姿は戻りません。眷属とはいえ違う生き物ですもの。人とは違う生活に馴染めなければ、ある程度で命尽きて野垂れ死ぬだけです。呪いの解き方を探りつつ生きるのは大変ですね。
爵位を頂く貴族とは言え、魔獣人に領地は有りません。
基本的に年頃になると番である伴侶を探し歩いてますので、得ないと定住しない質なのです。ですから、様々な職に就いていますね。
教師とか、吟遊詩人とか、商人とか、移動農家とか。
そう言えば父の弟である叔父が、魔獣子爵のルールを知らない男爵家に捕まってしまい、男爵家の庶子が村に押し入ったそうです。
その騒ぎを利用して、父が母をドサクサゲットした話が有りましたか。
今でも母は叔父が呪いを男爵家の庶子に移して、『黄金のガサガサ』が消えたと信じているようです。
移りませんって呪いなんて。呪いは掛けて解くものです。
そもそも、変身出来るか出来ないかの違いはあれど、全員魔獣として産まれてますのに何を委譲しますのよ。
体ごと譲るようなもんですよ。物理的に無理です。
そう言えば、母には何故か人生をやり直している記憶?が有るそうで。其処から薬草の知識を得ている……とお伽噺みたいに謎なこと言ってましたね。父は未来を見て今を変えてきたと世迷い言を。
ウチの両親変わってますよね。
まあ、それは兎も角。
父まで賛成気味の反対……いえ、逆?
「……侍女長様にご相談するしか有りませんね」
……披露して、受け入れるか受け入れないか。
まあ、受け入れないでしょう。
美しい見目が多めの幻獣人と違い、我々魔獣人は大きい・ヤバイ・生理的に無理!と三拍子揃った見目が多いのです。
中身の残酷さはそんなに変わらないのですが。
何せ、辺境ではフツーに討伐対象になる魔獣、その獣人ですからね。
魔獣と魔獣人。何が違うかと聞かれると……変身出来るか出来ないか、ですかね。
理性は……変身したら即物的にはなりますから、要注意です。
「……」
憂鬱だなあ。
何故って。
理由が理由ですし……それでも仮にでも嫁にしてくれようとした殿方に、態々バケモノ呼ばわりされに行くんですよ……?
……他の女に現を抜かして、渡せなかった花束をくれるようなデリカシーゼロ男ですけど。
自分のメンツの為にひとの婚姻歴を傷付けようとする不届き者ですけど。
……そうです、悪い奴なんですから、一泡吹かせてやっても、良い筈なんです。
だけど……悪いひとでは、無い……良いところも……粘り強い?……有った、かしら?
……情が移りましたかしら。あんなに迷惑を掛けられていたのに。
彼は番ではないと……頭では分かっていますのに。
……私は、初めて彼に対して手紙を書きました。最後の手紙になるでしょう。
……何だ私って……何なんでしょう。嫌がってましたのに。
『シン・キーチャートン伯爵子息様。
明日、裏庭に来てください。ドロメラ』
それだけ書くのに、どれだけ時間を費やすのでしょう。
封をして、届け人に託すのに……どれだけ掛かるのでしょう。
お陰で深夜料金まで払って、馬鹿みたいです。
託した後も寝れずに白んだ空を見たなんて……本当にどうかしてます。
「格好いい!!何だこの格好いい生き物!!デカイ!!めっちゃゴールド!!乗れます!?いや、危ない!?乗せてくれ!!」
……何だこいつ。
「なあ、喋れるか?!まさか巷で噂の魔獣子爵殿か!?うわー、流浪癖が有るって聞いたのに会えてラッキーです!!」
いや、本当に何だこいつですよ。
侍女長様にご事情をお話しして、裏庭を貸し切り、このいい歳をしてはしゃぐ男をお呼び立てして。
……何だこいつ。そして何だ私は。
「いや、失礼。ドロメラは何処に?まさかプロポーズを断りたいから貴方に協力を?でも俺は貴方のような巨大魔獣大好きなんですよ」
どうかしてます。
私の事を得体も知れない魔獣に聞くなんて。
「余所の女性を切っ掛けでは有るんですけど、あの娘真面目で素朴で可愛いですよね。しっかりしてるし」
「……」
ふざけた初対面なのは、自覚してるみたいですね。
「はあー、でけえ。格好いいですねー。あの、ふざけてるようにお思いでしょうけど、俺はあの娘が好きなんですよ。つい、何か……マジで言うのが恥ずかしくて無駄に変な嘘まで吐いちゃって引けなくなって情けないんですけど」
……どう言う事ですかこの男。嘘?
「デカイ花も、二回目はドロメラの為に買ったのに……何か照れ臭くて。婚約への打診も大嫌いな親父に頼み込んで、やっと用意したと思ったらダメで、偽装したんですけどね」
おい!あの手紙、偽装なんです!?全く気付きませんでしたけど!!よくも堂々と送って来られましたね!?ビックリですよ!!
お花はビックリですけど!!私の好みでは無かったからてっきり横流しだと信じ込んでましたけど!!
「ですから、その。ダメかな……。本気で俺、情けない奴だし、多分君と一緒になったら親父に絶縁されるというか、今でも居ないも同然だけど」
……何故そんな目で見るんです?
私が好きでたまらない、みたいな目で。
「ドロメラ・ソラニ嬢、頼むよ。俺と結婚してやってくれよ」
はあ!?我ながらこの姿で怖い私の……前足が取られて、唇が……!!
な、な、なあっ!!恋愛沙汰に縁の無い、田舎者に何をしてくださるの!?この方は!!
「どわわわわわわわ!!」
「あ、戻った!」
こここここの男!!
あの、巨大魔獣が……私だと、分かっていて!?
「何で私だと分かったんですか!?」
「俺、魔獣図鑑持ってるから。それに、珍しいだろ?その綺麗な金髪」
「ききき貴族としては、そんなに珍しい訳では!!」
何で、そんな所に目を付けるんですか!!
「伯爵家以上は珍しくないけど、子爵以下って結構地味な色合いの頭が多くないか?
特殊な場合を除いて」
いや、手を……手を!!沸騰しそうですよ!!何なんですかこの積極性!!
「ドロメラ、照れが先行しすぎて好意を向けるのが遅すぎたのは謝るよ。でも、魔獣好きな俺ではどうかな?子供が魔獣な可能性も俺は大歓迎なんだけど」
「あ、うわ、いえ」
「魔獣子爵の事情も、頑張って覚える。嫌なら喰い殺してくれていいから、頼むよ」
お父さん……どうしましょう。
こんな、こんなの。予定に、無かったんですけど、どうしたら!!急に、何でこんな展開に!!
ああ、お父さんのドヤ顔が何故か脳裏に……腹が立ちますね!!
結果はお父さんの読み通りのようですね。




