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レイラは頭を捻る。黒い商人からの報告についてだ。



地方領の紡績工場の経営者はブノワトの長姉で、評判の悪かった元伯爵の実子だが、彼女はとても真面目で従業員からの信頼も厚かった…はずだ。報告書では。


それが商品を二倍の価格で卸すだなんて、相手を謀るような真似をするだろうか。



レイラは父に相談した。



「なんかこの流れ、既視感あるなあ」


「お父様?」


訝しげな様子の娘に「ああごめん」と侯爵は笑みを作る。



「地方領からの報告書によると、工場の経営も順調だし、地元の民たちの生活環境も順調に改善されている。まだいろいろ足りないところはあるようだけど、要望が上がってくるということはいい変化だと思っているよ」


「…そうなの」


「どうした?不満そうだね」


「だって、なんだか騙された気分で。地方領全体の景気が落ち込んでいるなら、また元伯爵が何かしているのかとも考えるけど、これじゃ紡績工場の人を疑わないといけないじゃない?」


「そうだねえ」



侯爵は顎をさする。


ちなみに彼は威厳を見せるため、髭をたくわえたいと思っているが、夢はまた夢。叶いそうになかった。



「元伯爵の動向だけど、疑わしいところは確かにあるんだ」


「そうなの?」


「彼らはいま収入がないはずなのに、どうしてだか普通に暮らしが出来ている」


「働いてないの?」


「働いてないね」



レイラの問いに頷いて続ける。



「考えられるのは、彼らの娘たちに援助を受けていること。長女は紡績工場の経営者だし、三女もそこで働いている」


「それに、ブノワト!」



レイラはハッとした。



「ハンナから、ブノワトは横領の理由を『両親からお金を無心されている』と言ってたと聞いたわ。でまかせだと思ってたけど…」


もしかしたら事実だったのかもしれない。


レイラが父を見ると、彼も目線で強く頷いた。



「そう。それは私も聞いている。辻褄は合うんだ。クロフォード卿はいまでもブノワトに給金を与えているし、ブノワトも地方領に毎回送金している」



送金の写しはもう手に入れている、と事も無げに言う父に、レイラは少し引いた。



「もう?」


「やだな、当然だよ。元伯爵の動向はすべて報告するよう指示を出している。金の出入りなんかは特にね」



そういうものなのね、とレイラは大人の事情を右から左へ…。



「ブノワトは給金の全額を送金してる。これはクロフォード卿とも情報共有しているから、間違いないかな」


「まあ!」


大人って、大人って!


レイラは拳を握ってぷるぷると震えた。



「ははは。でもね、辿れるのはブノワトからの送金だけなんだ。長女と三女からなにか金銭のやり取りがあっても、直接渡されていたらこっちは何もわからない」



お手上げだ、と父は言う。



「ブノワト同様、長女も両親から金を無心されているとしたら…。レイラパピヨンへの不審な請求も、なきにしもあらず、かな」



「そんな…」


レイラは肩を落とした。


紡績工場の人たちを、ブノワトの長姉を、どこかで信じていたから。



「これからどうする?請求額が誤魔化されていないか、調べてみるかい?」


「それは…すこし考えさせてください」



紡績事業を疑うとなると、地方領の民たちの暮らしが脅かされるのではないかと恐怖した。せっかく順調に行っているようなのに。


首を横に振るレイラに、父は目を瞬かせる。



「そうかい?でもこういったことは早い方がいい。なにかあったらすぐに言うんだよ」


「ええ。わかりました」



レイラはぱたりと静かに書斎の扉を閉めた。


侯爵はそんな娘の後ろ姿を目を眇めて見送る。



「それ以上のことはまだなにも言えないしなあ…」



そして手元の報告書をぺらりと捲った。


そこには、地方領にまで赴き、繰り返し元伯爵を訪ねる人物について伝えられていた。




***

「お嬢様、ご友人とのお茶会も結構ですが、パーティーの準備も怠らないでくださいね」



マリーの小言にレイラは頭を抱える。



「ええ、わかってるわ」



―――招待状を配って、料理やお菓子のプロデュースでしょ、会場の飾りつけと当日の衣装の仕上げ。それからえっと…。



こだわりが強くて他人に投げることができないのだ。


ああもう。ブノワトがどうとか、いまはそんなこと考えていられないわね。



「大変ねえ、レイラ」



それでもレイラは毎週のようにお茶会を開いては、友人たちを招いていた。


モンタールド邸のサンルームやレイラパピヨンの店で、男性陣は呼ばず、できるだけ身軽に。



それはまるで放課後に女子グループだけで遊びに行くような感覚で。



ルチアーノは拗ねるが、レイラもハンナも気安くて楽だった。



「ううん、大丈夫よ。好きでやっているから」


「ハンナもなかなか様になってきたわよね」


「やっぱり心構えが変われば変わるのよ」



エマとリーサがそうハンナを評価する横で、ハンナはパニエで膨らんだスカートに苦心していた。



「おしりが、ふわふわで、座れな…!?」


「ぎゅっと腰を落とすのよ、ああだめ!スカートのラインが崩れるわ!」


「そんな、どうしたらいいのおおお」



イリスに叱られて半泣きになっている。


3人の中で、おっとりとしたイリスが一番マナーに厳しいなんて。さすが元王族。頼りになるわね。

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