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その日は朝からよく晴れていた。
レイラは朝からモンタールド邸の使用人たちとばたばた慌ただしく駆け回っている。
「今日はいつも以上に気合いが入ってるな…」
弟なのに招待状を渡されたトマは、中庭で青い空を眩しそうに見上げた。
「今回はお母様も誘ってもらえたの!うれしいわぁ~」
「あはは、おもしろいなぁ。いつもこんなことしてるの?」
同じように招待状を手にした父と母が、うふふきゃっきゃっとはしゃいでいる。
レイラの指示でドレスアップされた母は、ふわふわ膨らませたエアリーな髪に、大粒の天然石を連ねたネックレス。スカートが大きく膨らんだシックな水玉のドレスに、つま先が三角になったポインテッドトゥのパンプスを履いている。
そしていつになく華やかでぱっちりとしたメイクを施されている。
父も父でしっかりと髪を撫で付け、きりっとしたストライプのスーツ姿だ。ちなみにノーネクタイ。
「うふふ素敵よ、あ・な・た」
「ははは。き・み・も」
お花畑な父と母は放っておいて。
「トマ、もうすぐリーサも来るから着崩さないでね」
「今日の趣向はなんだよ。これでいいのか?」
「いいのいいの。それからこれね」
父同様に髪を梳かれたトマは、黒い半袖シャツに明るい赤のネクタイ、黒いジレに、黒いズボンを身につけている。
そしてレイラはやたらカラフルなマドラーが添えられたグラスを二つ、トマに手渡した。
「片方はリーサのよ。いい?リーサが来るまで飲んじゃだめだからね?」
「あ!ちょ、待っ…!?」
さっさと行ってしまう姉を見送ったトマは、そして次に大きく目を見開いた。
「リーサ…」
「トマ様、その、おかしくないかしら?」
リーサは長いストレートの髪を高い位置でポニーテールにして、天然石で飾られたカチューシャをしている。鮮やかな黄色のドレスはセクシーなベアトップタイプで、腰には黒いサテンのサッシュベルト。それにしてもスカート丈が短い。そしてラブリーなピンクベージュのリップが眩しい。
「えっと、うん、なんていうか…」
トマの煮えきらない返事に、リーサはじわじわと視線が落ちていく。
―――挑発的すぎるドレスだと思ったのよ。
レイラは膝上10センチは正義!とか、意味わからない呪文唱えてたけど…。
「んんっ!」とトマの咳払いがして、リーサははっと顔をあげた。
トマは照れとはにかみが混じりあった見慣れた表情で、すこし興奮したように言う。
「す…っごい、めっちゃかわいい…!」
「めっちゃ…って、やだなにそれ。ふふっ」
「へへ。はい、リーサ。飲み物どうぞ」
「ありがとう、トマ」
お互い見つめあい、うふふと微笑みあう弟カップルを、レイラはすこし離れたところから「眼福眼福」と眺めていた。
ああんもう呼び捨てあっちゃって!
「完璧だわ。これで背景が夕暮れの海とかだと間違いないんだけど。…ああもう、なんでカメラないのかしら」
「カメ…?それはいったいなんだ?」
「カメラよ。カメラっていうのは、」
背後からの声に振り返ったレイラは「まあ!」と声をあげた。
「素敵ね、マルセル様。よく似合ってるわ!」
「そ、うだろうか?着慣れなくてよくわからないんだ」
マルセルは短い金髪を固めて、派手な柄のアロハシャツ、白いハーフパンツにサンダルだ。
立派な夏男姿になっている。
「みんなそうよ。そうそう、仕上げはこれね」
レイラは試作品のサングラスを渡し、かけてみてと促す。
「うわっ視界が暗い!?」
「眩しくなくていいでしょ?さああの石壁の前に立って。ちょっと凭れるくらいがいいわね」
「え、あんな場所に?」
マルセルを中庭の端まで追いやると、レイラはパッと去って行ってしまう。
困惑したマルセルが大人しくそこに立っていると――。
「あら、マルセル様?待っていてくださったの?」
さらにその奥からイリスが現れた。
「支度してくれたメイドがね、奥から出てくださいって言うんだけど、どう行ったら中庭に出るのかわからなくて困っていたの」
イリスはうふふとうれしそうに笑う。
マルセルもサングラスの下で表情を緩めた。
「あら、お揃いね」
「そうですね」
イリスはマルセルと同じ柄のサマードレス姿だった。髪は下ろしており、靴もあまり踵の高くないオープントゥのミュール。涼しげな装いに、天然石のバングルが眩しく光る。
ただまつげはばちばちと長く、濃い。
「暑くないですか?日陰に行きますか?」
「そうね、ではもう少しここにいましょう?」
楽しそうな二人をレイラはすこし離れたところからこっそり見つめていた。
「うふふ。あの身長差、堪らないわね…!」
やっぱりカメラが必要よ。永久保存しておきたいわ。
レイラはそれから屋敷の中に戻ると、エマを見つけた。
「エマ!」
「レイラ。どうかしら、似合う?」
「決まってるじゃない、もちろんよ!」
エマはカラフルな布をたっぷり使ったロングドレスだ。首の後ろで結ぶタイプで、大きくデコルテが開いている。巻いた髪を右サイドに流して、大きな天然石の耳飾りがゆらゆら揺れている。
「素敵よ。そのままそこの出窓に肘をついて。ああいいわ!最高!とっても優雅よ」
「ええと、これはなんなのかしら?」
「目の保養ね」
形に残しておく術がないっていうのが悔しくて堪らないわね!
レイラはそう憤慨する。
「あらまあ」
「もうすぐ中庭にお茶の用意ができるわ。待っててね!」
パタパタと駆けて行くレイラの後ろ姿を見送って、エマは。
「…ずいぶんストレスが溜まってるみたいだわ」
ぽつんと呟いた。




