EPILOGUE
あの日から、パージェは好んで戦場に出るようになった。
「ねえ、クラウン」
「何ですか、マイロード?」
「君は僕を裏切らないと、誓ってくれるよね?」
「勿論です」
イスタラの返事はパージェの希望通りだ。
希望通りにいかないのは、体を重ねた時だけだった。
イスタラは伯母ラアニのようにパージェを甚振りもしなかったし、見下してもくれなかったし、パージェに意地悪をされても、じらされても、文句ひとつ言わなかった。
従順な人形。その言葉がぴったりと当てはまった。
「じゃあ……」
その夜も、体を交わしたあとだった。パージェはイスタラを抱きしめて、囁いた。
「僕を、殺してくれないかい?」
「え……」
「この戦に乗じるんだ。僕をこっそり戦死させてくれないかい」
「そんな……」
一瞬戸惑うイスタラだったが、すぐに頷いた。
「分かりました、マイロード。ご命令を遂行いたします」
その答えを聞いて、パージェは微笑み、焦点の合わない瞳を上方に向けた。
「これで僕は、伯母様とやっと、一緒になれるんだね……」
死者の国で。
永遠に。
それが、パージェの出した答えだった。
戦場の混乱に紛れ、命令通りに、イスタラがパージェを襲う。
薔薇の香りの血を流しながら、倒れゆくパージェ。
覆いかぶさるように、倒れていくイスタラ。
主人を殺せば、寄生虫に取りつかれて操られていた下僕も、死ぬ。
イスタラはその仕組みを全く知らされないまま、自らの命綱を切ってしまった。
仮面が外れて、ころころと斜面を転げ落ちる。
イスタラの眉間からしゅうしゅうと煙のように、細かい蟲が這い出して来る。
そして。
二人は、最後に手を握り合い、ゆっくりと指を絡め合って、こと切れた。
――大人篇・完
まずは、拙い作品をご高覧いただき、有難うございました。特に大人篇は、諸事情で表現力が激減した後にリハビリで書いたものなので、お目汚しで大変申し訳なく思っております。
子供篇は、ワープロ時代に好き放題書いたものなので、描写が冗長に感じられるかもしれません。
でも、とにかく、パージェのメンタル的な変遷を、比喩や暗喩も使って、出来るだけ丁寧に描きたかったのです。
助けを求めながらも、差し延ばされた手を振り払ってしまう独特の心理など、可能な限り詰め込んだつもりです。
大人篇は、あの二人のすれ違いの結果を、さらりと描くだけにとどめました。
子供の時に歪んでしまっているので、パージェは大人になっても、アダルトチャイルドです。
騎士としての訓練や枕事は学べても、真の意味で彼女を愛してくれる存在は、彼女を愛で包み込んでくれる人は、最後まで現れませんでした。
それゆえにずっと「伯母様」に拘り続けていますし、ある意味、外せない桎梏となっています。
愛を知らずに朽ちた一輪の薔薇の生涯を見届けて頂き、有難うございました。




