何も無い部屋
三人は雪合戦を抜け出し、旧館に潜り込んでいた。パージェが先導する形で薄暗い廊下を歩いていく。
「ひー。なんか、離れと違ってダイブ暗ぇとこだなぁ」
うすら怖いのか、ソロスコはクーイの背中にぴったりと貼りついている。
「ここだよ」
パージェは自室の扉を開けた。続いて踏み込んだソロスコは茫然とした。
殺風景で何もない部屋。隙間風がびゅうびゅうと吹き込み、カーテンが激しく揺れている。暖房器具は何もなく、外と全く変わらない気温に吐く息が白い。板を渡しただけの堅いベッドには、毛布やクッション等が申し訳程度に置かれている。豪奢な離れからは想像もつかないみすぼらしい部屋だ。これならまだ、使用人の部屋のほうが立派に見える。
「姫さん……こんなとこに住んでたのかよ……」
ソロスコはかなりのショックを受けていた。彼は貴族の子供とはもっと贅沢な部屋に住んでいるものだと信じていたのだ。
「これでも僕、本当に伯母様に大事にされているのかな?」
パージェはぽつりと少し自嘲気味に呟いた。クーイは壁にかけられた裏返しの絵に目を留め、そっと外してその絵を眺めた。が、すぐに絵を元通り裏返しの状態でかけ直した。
「ごめん、姫さん。オレ、ひどいこと言っちまった」
ソロスコは半分涙声で頭を下げた。
「それにしても、ひでー伯母はんだよなー。こんなとこじゃ、姫さんが風邪ひーちまうじゃねーか。そんなことも分からねーのかよ? ご自分は避寒されるから、姫さんのことはどーでもいいと思ってやがんのか?」
「それ以上伯母様を悪く言うと許さないよ」
ぶつぶつと文句を言い始めたソロスコに、パージェが厳しい視線を投げた。ソロスコは怯えて押し黙った。
「パージェ様。お母様のお部屋はどちらになります?」
それまで静かに周囲を見まわしていたクーイが、つと振り向いた。パージェはソロスコをもう一度睨みつけると、クーイにぴたりと寄り添った。
「母様のお部屋はもう無くなっちゃったんだよ。伯母様が新館をお作りになった時に、潰してしまわれたそうなんだ」
「ということは……」
クーイはゆっくりと薄暗い廊下を進み、パージェの知らない通路を幾つか曲がったところで壁をノックした。コンコン、と明るい音が薄闇に響く。
「新館の下あたりというと、ここらになりますね」
「どういう……こと?」
パージェはこわごわ尋ねた。クーイはにこっと微笑んだ。
「このお屋敷の作りは面白いなと常々感じていたんです。だって、ラアニ様は足がお悪くていらっしゃるのに、新館が築山の上に建っているんですよ? どう見たって一階部分に土を盛って埋めたようにしか見えないじゃないですか」
そう言うとクーイは出入り口を探すべく、壁に手を走らせた。




