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レティシア・ノーズフィーリアは平凡でいたい  作者: 睦月始
第五章:敵の影
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 とは言え、この舞踏会の騒めきは煩わしい。

 レティシアは空のグラスを通りがかりの侍従に渡すと、会場から程近い庭園へと足を進めた。夜の冷たさを波乱だ風が火照ったレティシアの頬を冷ましてくれる。王宮の庭は夜でも美しい。

 魔術灯―――魔石に魔力を込めて明るく照らす魔道具―――が点在する中をてこてこと歩いていると噴水が見えてくる。その縁に座り込むと、レティシアは夜空を見上げた。


 フェストール王国は今、平和だ。内政も落ち着いているため内乱もない。どこぞの国では腹違いの兄弟で王太子の座を奪い合って血生臭い争いが起こることもあるそうだが、フェストール王国は一夫一妻制、かつ兄弟仲は頗る良好なのでそんなことも起きない―――ウィリアスタが優秀過ぎるくらい優秀、というのもあるが。隣国との関係も良好で、第一この大陸一の魔術大国であるフェストールに戦争(けんか)をしかけてくる国など皆無だ――国家魔術師が十人いれば、それだけで一つの国を簡単に滅ぼせてしまうのだから。国王陛下が穏健派で本当に良かった。

 ―――故に、だからこそレティシアとウィリアスタの命を狙う敵の影が見えてこないのだ。個々人ならそれはもうあちこちで恨みを買っているが、ウィリアスタも一緒となると二人に恨みがあるのか、はたまた利害の一致か。

 レティシアは確かに天才だが、かと言ってレティシア一人削ったところで国家魔術師の戦力は揺るがない。つまるところ、何かを成すのにレティシアとウィリアスタ、二人が邪魔なのだろうが……。


「ま、考えても仕方ないわね」


 答えの見えないことを延々と悩んでいても意味はない。そろそろ戻らないと怒られそうだな、とレティシアは立ち上がって、会場へ戻る道へと歩を進めた。

 庭園の垣根を抜け、一つ角を曲がったところで―――レティシアの視界は闇に包まれた。


 *   *   *


「…………っ」


 次に目を覚ますと、どこかの倉庫のようだった。暗闇の中にうっすら樽だの袋だのがあちこちに積まれている。起き上がろうとして、両手を戒められていることに気づき―――更にそれが魔力封じの枷であることにも気づき、レティシアは行儀悪くも舌打ちした。


「あの腹黒王太子、私を囮にしたわね」


 いつぞやの馬車でウィリアスタが浮かべていた笑顔を思い出し、更に腹が立った。尻尾を見せない犯人に大分苛立っていたらしい。レティシアが魔術妨害と思った結界は、魔術()()だったようだ。でなければ、魔術行使されてレティシアが気付かないはずがない。

 ―――つまり、赤の魔術師も協力者(グル)だったわけだ。

 帰ったら二人とも一発殴ろう、と思いながら、さてどうしたものか、と考えた。魔力封じの枷は随分巧妙に作られているが外せなくもない。が、それなりに時間は掛かりそうだった。


「―――お目覚めですかな、白の魔術師殿」


 ―――と、不意に扉が開いた。その奥に更に小部屋があるようで、ランプの光が目を焼く。思わず目を細めると、ようやく突然の明るさに慣れてきた目が男を捉えた。

 年の頃は、四十後半から五十代に届くかどうか、と言ったところだろうか。中肉中背、一見すると普通の男だが―――その身に纏うマントの紋章を見て、レティシアはようやっと己の敵を理解した。


「…………なるほど、ニゲル教ってわけね」


 男は肯定も否定もせず、にやりと口元だけで嗤う。

 フェストール王国の宗教は唯一神だ。国の教会は創世神と呼ばれる神を奉っている。

 その昔、この国は創世神によって生み出された。当初は竜と人と精霊が共に暮らしていたが、ある時魔力を持たない人がその力欲しさに竜や精霊と交ってしまい、竜や精霊の神力が弱くなってしまった。格を落とした竜は人型になれなくなり、精霊たちは存在すら危ぶまれた。それを危惧した神が精霊の住まう国を別に分けてしまった、というよくある御伽噺だ。魔力が使える人間は、この頃竜や精霊と血を交えた者たちの子孫と言われている。

 この国において、宗教は然程重要ではない。礼拝堂はあるが神に祈りこそすれど、救いを求めることはしない。それはかつて、神に等しい力を欲した挙句竜から地上と種族を奪った人間が未来永劫背負う業であり、償いだからだ。人々は今日も、竜や精霊から授かった力を正しく使っています、ありがとうございます、と感謝を祈るのだ。

 ニゲル教は、創世神を神と認めない魔術師たちの集まりだ。彼らの考え方は真逆で、力あるものこそ正義、知恵のある人間が使って初めて、魔力は意味を成す。今や竜や精霊など人間の足元にも及ばない、と考える者たちが作り出した教団だった。無論、そんな思想国は認めないので、魔術師たちは軒並み魔術師協会から追放されたお尋ね者だったりする。

 教祖と呼ばれる頭目がいたと記憶しているが、果たしてこの男がそうなのだろうか。


少々短いですがキリが良いのでここまで。

平日は更新できるか分かりませんが、なるべく頑張ります。

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