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10 窓辺に咲く

 名もなき草原に咲く 10




 宿前での騒動は、デイナさんが収拾を図る形で解散。



◇



 俺は、明日から『ビリの宿』の住み込みの下働きだ。

 人間の仕事など良く分からないが、人型の身体とやる気さえあれば何とかなる。


 頑張って働きすぎて、カッチの息子のアロルの様に給金上がるのは良いが、出世をしてお偉いさんになど成るつもりは無い。


 俺はこの先もずっと下働きで構わないのだ。

 寝床があって、街は活気に溢れていて、宿屋の裏で布団やシーツの洗濯物をして、泡にまみれて身体も清潔で居られる。


 別に、成り上りたい訳じゃないのだ。


「今日は何かと疲れたでしょ? あなたの部屋は二階の青い窓の部屋を使ってね」


「俺の一人部屋ですか?」


「相部屋が良くなった時はいつでも相談してね」


 デイナは俺に労いの言葉をかけて、部屋へと案内してくれた。


 招かれた部屋の扉を開けて見ると、扉と窓枠が青い色の部屋だった。

 内装は白を基調に特に飾りも無く、必要最低限の家具があった。

 宿の客室は、扉と窓枠の色彩によって、色々と役割が別れているようだ。


 青い部屋は、俺の様な新米の従業員の部屋。

 赤い部屋は、ベテラン従業員さん。

 客室は、黄色や金色、純白や銀色と様々だ。虹色や紅白もあるそうだ。


 デイナの部屋は薄いピンク色だった。


「街には着いたばかりだけど、タフなだけが取り柄でして、今夜からでも──」


「若いからって無理はダメよ。夜更かしはお肌の敵よ」


「お肌っすか? 俺の……」


「可愛らしい子は、お店の評判を上げるんだから無駄にしちゃもったいないわ」


 やせ我慢などではない。


 疲れては居なかったので早く仕事に馴染んで置きたいと申し出たのだが。

 未成年は昼間に働いて、夜はしっかりと睡眠に励みなさいと優しく促された。

 客を喜ばせる、お肌と言うものを大事にするように心がけねば。


「夜食は賄いを出すから後で一階の大食堂に降りて来てね。あと一時間くらいね」


「どうも、ゴチになります!」


「面白い子ね、賄い付きの仕事は、城下町じゃ珍しくは無いのよ」


「いやぁ城下町、最高っすね」


 デイナがそう言って忙しい中、俺に微笑みを見せると一階へと降りて行った。

 午後六時を過ぎた頃だった。従業員の食事の時間はまちまちの様だが、その時間に食べに降りて来なさいと言われた。



「良い眺めだ──」



 部屋に入った。八帖ほどのスペース。

 ふかふかのベッドが一つあった。

 小さな机と椅子があった。小さな洋服タンス、その上に本棚か小物入れが。

 もうすぐ本格的に夏が来るが、空調設備も万全で快適だった。


 俺の荷物は特になく、カッチにもらった服に着替えながらタンスの内扉にある鏡で身だしなみを整えた。例のチビ服を畳んでそのタンスの奥に大切にしまった。


 午後六時過ぎ。

 子供だって寝るには少し早い時間だ。

 俺は必死の思いで辿り着いたこの街を少し上から眺めて見た。

 人間の暮しとは、こういう景色を日常的に見ながら過ごすのだな。


 宿屋は宿泊施設という事もあり、天井が高めに造られていて解放感を感じる。

 内装も小綺麗で、照明も自分で調整可能になっている。

 油を使用するランプもあれば、クリスタルに魔導力を注入して多くの色を発光するものまでさまざまだ。


 窓ガラス越しに眺める外の景色にも、色とりどりの明かりが灯り始めていた。

 俺の部屋の窓は、北向きで遠目に城門が垣間見えた。街の中央にあった噴水も勢いよくしぶきを上げているのが見えた。


 借りた部屋の家賃が月、銀貨2枚。

 それで食事も風呂も付いてくる。

 給金は月、銀貨10枚。


 ミリアが俺のために教えてくれたことを思い出す。


 酒場でガッツリ飲食をして金貨一枚で十日は過ごせると言う情報は、ぼったくられた人の駄目な情報だった。


 俺は酒が駄目だったから、ぼったくられる心配もないが、こういう酒場なら働き盛りの成人一食あたり、銀貨1枚で釣りがくるそうだ。


 銅貨100枚は銀貨1枚、銀100枚は金貨1枚だと。

 金貨十枚は大金貨1枚。

 ゴールドと言う世界共通の通貨もある。

 それは最小単位の物で、100ゴールドが銅貨1枚に相当する。


 ちなみに上質羊飼いの服一式なら、銀貨85枚だそうだ。

 では俺が商人から買ったパーカーとスカーフは、合わせて850000ゴールドだった。


 ミリアにパーカーを見てもらうと「一目で分かるわ、内側に希少な水竜の鱗が縫い合わせてある。良い買い物をしたね、リクル。こんなの着るのは貴族か王族ぐらいよ。火炎に対する強度が半端じゃないもの。夏はどこに居ても快適ね」


「こんなに軽い物がか? レイドックさんは良い人だったんだな」


 また会えるかな。


◇


 さて、そろそろ晩飯の時間だ。

 俺は、一階の大食堂へむかった。

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