5-11 高すぎる自己評価
甘かった。猫をかぶっていたのだ。受け入れたからには、戻せない。乱雲山に入ってすぐ、聞こえたのだ。毒づく子の声が。
「気が滅入るわ。何で、私ばっかり。」
「何ココ。釜戸山のほうが、マシ。」
思わず、天を仰いだ。『山守社にまで、断られるなんて。憐れ』そう思った私が、愚かでした。ヒドイ。ひどすぎる。
社に近づくにつれ、聞いていられなくなる。耳をふさいでも、聞こえてしまう。フクには力があるから。遠く離れた人の、心の声が聞こえてしまうから。
「大人しくしなさい。祝の前ですよ。」
ツルの声が低い。怒っている、とても。
「はぁい。」
何よ、偉そうに。私だって、好きで来たわけじゃない。来てやったのに。持て成しなさいよ。
思わず、溜息をつく。気の毒な子だとは思う。けれど、これほどとは。
「祝。」
「あなたはもう、乱雲山の子です。しっかり学んで、良き人になって下さい。」
「はぁぁい。」
はぁぁぁ? 良き人って、なに。
「サエ、頼みます。」
「はい。さあ、いらっしゃい。」
「はぁぁぁい。」
何が、いらっしゃい、よ。
「乱雲山はね、人を惑わす山なの。決して降りてはいけません。戻れなくなりますよ。」
「はぁぁぁぁい。」
「お聞きなさい。厚い雲に覆われ、雷が走る。それはそれは、恐ろしい山なんです。降りてはいけません。」
「はぁぁぁぁぁい。」
なぜ、わからないのかしら。どう接すれば良いの? こんなに歪んだ子、はじめて。いくら諭しても、効を奏することがない。何も届かない、響かない。
心を閉ざしては、いない。・・・・・・なのに、なぜ。明らかに、接し方を変える。情け深い、持て成しを受けることしか、考えない。思い通りにならないと、暴れる。
「釜戸社から、雲井社へ。どういうことか、よく考えなさい。」
知るか、ババア。
「乱雲山は、誰もが入れる山では、ありません。どういうことか、よく考えなさい。」
うるせぇ! ババア。
あぁぁあ。何よ、どいつもこいつも。口を開けば、乱雲山、雲井社。だから、なに!
そんなに凄い山なの、ココ。
そんなに凄い社なの、アレ。
ってことは、私って。
「私はね、アンタらとは違うの。選ばれた娘なの。四の五の言わず、働きなさい。」
そうよ、私は選ばれたのよ。ウフフ。
「私のために、働きなさい。」




