3-6 鈍る思考
「夜が明けたら、釜戸山の、守り人の村の長が来る。わかるか。」
「釜戸山。」
「火吹きの山のことだ。」
「あっああ、わかった。火吹きの山の、長が来るのか。」
「ああ、そうだ。」
「だから、何だ。」
「早稲の村の、長に会いに来るんだ。」
「何のために。」
「タツ、オマエを捕らえるためにだ。」
「オレ、村の長なんかより、強い!捕まらない。」
「釜戸山では、人は殺さない。そういう決まりだ。」
「じゃあ、オレは助かる。」
「タツ。まだ、わからないのか。」
「何だ、カズ。オレを笑うな。」
「笑ってないだろう。」
「よせ。言っても、わからない。」
「何だと!シゲ。殴られたいのか。」
「タツ、殴られるとしたら、オマエだよ。」
「ノリ。何を言ってる?オレが負けるわけ、ないだろう。」
シゲは思った。何を言っても、わかってもらえないと。そして、こうも思った。釜戸山の、祝に任せよう、と。
タツは三人も手にかけた。それも、子だ。まだ攫う気でいる。釜戸山では、子を守らないこと、傷つけるようなことをすれば、厳しく罰せられる。だから、タツは間違いなく助からない。
それに、草谷のヒデ、日吉のゴウ、茅野のヨシの三人とも、許さないと言っていた。
どんな罰が下る?釜戸山でも、他の山でも、灰が届く村では、どこも重い罰が下る。子は宝。だから、守り育てる。まっすぐ育つように、包むように守って。
親だけじゃなく、村をあげて、守って、守って。そうだ!子を奪われた親が、許すわけがない。同じ痛みや苦しみを与えてやる!そう思っても、誰も、何も言えないはずだ。
守り人の村長が、早稲の村に来るまで、タツを閉じ込め、逃がさないようにしよう。早稲の長のことだ、釜戸山から長が来ると知れば・・・・・・。マズイ。
「ノリ、カズ、今すぐタツを縛ろう。」
「あ、ああ。わかった。」
「や、やめてくれ!悪かった。オレが悪かった。許してくれ!頼む、助けてくれ。」
「諦めろ、タツ。罪を犯せば、罰が下る。命を奪えば、命で償う。そういうもんだ。」
三人に一人。勝ち目はない。あっと言う間に縛り上げられ、ノリたちの家に担ぎ込まれる。口には布をかませ、首の後ろで縛る。おまけに大きな丸太に括りつけられたタツは、恨みがましい目をしていた。
見張りはイヌとノリコに任せ、少し離れた。外は嵐だ。もうじき雷も鳴るだろう。ノリが古傷を撫でている。
「すまない。痛むか。」
「少しな。気にするな。それより、どうした。」
「釜戸山の、守り人の村の、長が来ること。早稲の長に黙っておこう。」
「あぁ、あの長、逃げるな。」
「違いない、逃げて、オレたちに丸投げか。」
「そうかもな。」
「早稲は早稲でも、他所の人がしたことだ!とか何とか。」
笑っていたノリが、シゲの顔を覗き込んだ。
「シゲ、顔が青い。休め。」
「えっ、あ、そうだな。家に泊まるといい。確か、雨漏りがするって言ってただろう。」
「そうさせてもらうよ。ありがとう。」




