3-4 悲鳴、嗚咽
「茅野の子だ、オレが攫ったのは!火吹き山の、狩り人の集まりからは外れてる。そうだろう。」
「外れてない。灰の降る村は、ひとつ残らず!狩り人の集まりに入るんだ。」
「降らないだろう、茅野だぞ。」
「タツ、思い出せ。東山はどうだった。」
「東山。」
「ああ、そうだ。ジッチャ、バッチャ、オンジだったか?その人たちと暮らしていた村でのこと、思い出せ。」
「ふっ降った、降ってきた。でも東山の話だ。茅野じゃない。」
「東山に降ったなら、茅野にも降るだろう。タツ、考えろ。よく考えろ。」
「離してくれ!助けてくれよ。」
「騒ぐな、タツ。茅野の子も、助けてくれって言っただろう。」
「覚えてない、忘れた。覚えてないんだ。オレは、オカシイんだ。そうだ、だから許してくれ。」
「何を言ってるんだ?許されるわけがないだろう。」
「覚えてない、だからオレじゃない。知らないだろう。他に誰もいなかった。だから、だから、オレじゃない。」
「タツ、諦めろ。次はコウって子を攫う気だろう。」
「えっ、シゲ、コウを知ってるのか。」
「知らない。会ったこともない。でも、オマエが狙っていることは知っている。」
「コウは良い狩り人になる。オレが育てる!役に立つ。コウは村を逃げたんだ。だから、わからない。親も、誰も探さない。」
「わかるさ、すぐにな。」
「タツ、オレが何でコウの話をしたと思う。」
「知らない。わからない。」
「茅野の子を探しに、鳥の谷へ行った。大岩から登って、それから噴き出水へ向かった。その時、見た。谷で笑いながら、大きな声で叫んで、騒ぎ立ててるオマエを!聞いた。『連れて行く。決めた』だの、『逃がさないぞ、コウ』だの『オレのためにだけ生きろ』だの言うオマエの声を。」
「そ、それ、それはシゲ、オマエだけだろ。」
「いや、日吉と草谷、茅野の狩り人もいた。」
「タツ、言われたはずだ。次はないと。」
「わ、忘れた。覚えてない。」
「言われたはずだ。」
「い、言われた。言われた!認める。認めるから、許してくれ、助けてくれよ。」
「オマエは子を!それも惨く。」
「お、オレだって!だ、誰も知らないはずだ。」
「いや、知ってる。タツ、削いだろう。何で削いだ。」
「石器だ。ノリに作ってもらった。」
「今、どこにある。」
「な、ない。川に落とした。そうだ、落とした。」
「茅野の子の、腕のそばに落ちてた。」
「シゲが見つけてくれたんだろ?そうだろ。」
「見つけたのは、日吉のゴウだ。」
「ゴウ。」
「ああ、そうだ。」
「ひ、一人なら。」
「一人じゃない!言っただろう。日吉と草谷、茅野の狩り人もいたと。タツ、もう逃げられない。オマエは、考えもなく奪いすぎた。草谷、日吉、茅野。」
「く、草谷の子は、知られてないだろう。」
「いいや、知ってる。」
「ノリ、嘘だ。知るわけない!オマエ、狩り人じゃないだろう。」
「草谷のヒデはな、古い知り合いなんだ。タツ、オレ言ったよな。誰も攫うな、殺すなと。」
「狩り人に知り合い?嘘だ。信じない。」
「オマエがどう思おうが、知らん。だが、オレは言った。攫うな、殺すなと。次はないと。」
「た、助けて。」
「草谷のヒデの子、日吉のゴウの子、茅野のヨシの子、三人だ。聞こえないか?子の泣く声が。聞こえないか?親の泣く声が!叫びが!聞こえないのか。」




