太白
夕暮れ時、松尾の社の鳥居の前で、暮れていく空に魅入っていた。
季節にもよるが、ちょうど西の空に、ひときわ大きく明るく輝く一番星が
その姿を見せていた。
鳥居の真上に来たその星は、茜を帯びた空にだた一つ、光芒を放ち、
ゆっくりと西に向かっている。
“茉莉姫、あの星すごいね。”
“ええ、ほんと”
“うちの爺に聞いた話だとね、あれはアマテラスの女神様なんだと、
ある時、弟のスサノオノ男神の荒れぶりにお怒りになり、
天の岩戸にお隠れになりなさったと。
松尾のお山の上には、今でもその岩戸があって、そこに入って、東の空に抜けるそうだと。
しばらくしたら、明けの東の空に姿を現されるそうなんだ。”
“へぇ、そうなんだ、今でもあんなに輝いているのに、近くで見たら眩しくてしょうがないよね”
ふふふと二人して微笑む。
一番星が山に隠れて見えなくなると、二人は帰りの途についた。
その夜、茉莉姫は夢を見た。
東に昇った月から、ほうき星が飛び出し、きらきらと輝く星屑をまき散らしながら
天空を駆けていく。
やがて西の空まで来ると、ひときわ明るく輝き、松尾の山に御座されるのを。
はっと、目覚めてみれば、御簾の向こうで明るい月が、部屋の中に優しい月光を
送りこんでいる。
御簾の影が優しく部屋に揺れている
“今のはなんだったの?”
月読の社で寝付けない茉莉姫が再び目覚めたのは、翌日の遅い時間となったのであった。




