姫と皇子
“おーい、待ってくれよ! 全く”
息を切らせながら、少年は少女の後を追っかけていた。
“はっはっは”と笑いながら少女は走りを弱めない。
どんどん離されている中、少年はいったん息を整える。
どうせ行先はわかっているのだから、
ゆっくり言ってもすぐに追いつけるし、そういうことにすると
歩いていくことに決めた。
右手に青々とした松尾の山々を眺めながら、道を下っていくと、
やがて大きな一本松に差し掛かる。
そこを右に曲がると、二人の目的地の西方寺はすぐそこだ。
少年はこの地を収める氏族の皇子 松尾の皇子という。
対して少女は、この地の山肌にひっそりと佇む月読の社の
茉莉姫と云う。
二人は幼馴染で、小さい頃から仲良く過ごしてきた中、
元服が近づいた皇子であっても、こうやっていつまでも仲良く
過ごしている。
今日は、少し南にある西方寺に面白い木があるというので、
皇子が連れ出されてきた次第である。
ようやく寺の門をくぐると、外と違う空気が静かに流れていて、
なんだかはっとされる。
思わず立ち止まって呆然としていると、
遥か向こうの木の下で姫がうずくまっているのに気づいた。
しゃがんで、這うように木肌を見つめる姫に近づくと、
愛おしそうに、丁寧にその緑色の表面を触っていた。
“この木だけ、緑の衣をまとっているの。”
触れる手を優しく下げると、皇子の手を取り
木肌にそっと当てた。
想像と違って優しいぬくもりと、芳しい香りに
“すごいでしょ゛
と姫が語りかける。
静かに頷くと、その手に耳を当てて、
木の声を聞き始めた。
しばらくして、姫が起き上がると、
“これよく見ると、ちっちゃい木がいっぱいなんだよ。
にいっと笑い、ちょんちょんと指で撫でる。
“私もこんな衣が欲しいなぁ”
上目遣いに意地悪を言われているようで
皇子は苦笑いしながら、”そうだね”
としか言えず、”えーっ”と何度もいう姫に、
お菓子でごまかすしかないかと心したのだった。




