トリックスター
「オメェ…ソレ…ジークンドー…ジャロ?」
アベルの指摘に蹴速が頭を掻きながら言う。
「へへへ…もうバレちまったかよ」
「ミギキキ ノ オメェガ ミギテ ヲ マエニ カマエタ…サラニ ボウギョ ト コウゲキ ガ イッタイカ シタ ギジュツタイケイ…トナリャ オノズト コタエ ハ デルワイナ」
「フンッ!とりあえずは流石と褒めとくよアベル。でもよ…お前は1つ勘違いをしてるぜ」
「カンチガイ…?」
「ああ…そう…勘違いさ。俺の流派である当麻流蹴体術はよぅ…歴代の継承者が、あらゆる格闘技術を体系に組み込んで作り上げて来たもんだ。確かに今のはジークンドーの技術だよ…でもコレさえも数十年前に先々代、つまり俺の爺ちゃんが取り入れた物。だからコレはもう〝当麻流〟の技術なんだよ…解んだろ?この理屈」
これに今度はアベルが頭を掻く。
「ナルホド…コリャ シツレイ ツカマツッタ
ナラバ ソノ タイマリュウ トヤラ トクト ハイケン サセテモラウ デ ゴザル デ ツカマツル」
「………おい…無理くり難しい言葉使うなや…日本語が変になってんぞ…」
蹴速が呆れ顔で返した時、アベルは既に構えてステップを踏んでいた。
慌てて蹴速も再び構える。
構えは先と同じ、右手右足が前の半身である。
それを見て又もアベルが先に動いた!
軽快なステップから一気に飛び込んでのジャブ!
スピードはジャブだが、全体重の乗ったソレはもはやストレートと呼べた。
一瞬反応が遅れてしまった蹴速、今回は捌きからの反撃が出来ずにダッキングでかわす事に。
これにより間合いが詰まった両者…
手を出せば当たるヒリついた距離に、観ている高柳と駿河の喉が〝ゴクリ〟と鳴った。
パンチをかわした蹴速が頭の位置を戻すと、そこには舌を出して嗤うアベルの顔が…
思わず手を出したくなるのをグッと堪える。
すると今まで目の前にあったアベルの顔がふいに消えた…
〝!?〟
反射的に頭部のガードを固めた蹴速。
しかしそれを嘲笑うかの様に、アベルの脚部は地を這っていた!
それを見た高柳が思わず声を漏らす。
「あ、あれは前掃腿やんけっ!?」
「前掃腿?」
駿河のおうむ返しに頷く高柳。
「中国武術で使われる、身を屈めての下段蹴り…いや…下段足払いって言うた方がシックリくるか…」
「ほぉ~ん…しかしお前は何でもよ~知っとるのぅ……格闘技の事だけは♪」
「なんやトゲのある言い方やのぅ…」
いつも通り〝関西弁同士の絡み〟が始まった時、レフリーを務めている爺さんが大きく気を吐いた。
「蹴速!マイナス5ポイントじゃっ!!」
〝イチャつき〟を止めた関西弁の2人がリングに目を戻すと、蹴速の脛部分に赤いインクが付着していた。
この闘いは減点システムで行われている。
頭部や心臓、動脈等の急所にインクを付けられればマイナス10ポイント。
その他の部分ならマイナス5ポイント。
相手の攻撃をガードしてインクが付着してもマイナス3ポイントである。
今の攻防、蹴速は蹴りをガードしたのでは無く、脛にクリーンヒットされたのだ。
よってマイナス5ポイントの判定が下された。
「蹴速…お前…」
心配そうにか細い声で呟いた高柳…
それが届いたのか届いていないのか、当の蹴速が苦笑いしながら言う。
「ったく!トリッキーでやりにくい奴っちゃなぁ~!!ま、お陰で目が覚めたぜ…続きを楽しもうや…アベルちゃんよぅ♪」
「ソウヤナ…デモ ツギ ハ ココ ヲ モラウゾィ♪」
そう答えたアベルは、舌を出しながら自分の首筋をかっ切る仕草をして見せた。




