サバットにも色々ありまして…
〝闘う理由〟を作る為、駿河へと一目散に駆け出した蹴速。
しかし駿河は微塵も動揺を見せる事無く、無防備な背中を向けたまま…
それどころか余裕の笑みすら浮かべている。
蹴速が何をしようとしているのか解らぬ男ではあるまいに…
この事に違和感を覚えた高柳、慌てて蹴速の手を掴んで引き寄せた。
「ちょい待ちっ!!」
「おわっ!とっとっととと…」
恨めしそうな目を向けた蹴速が、自分の肩を擦りながら高柳へと詰め寄る。
「何するんな兄やん…急に引っ張るもんで肩が〝グキッ〟つったじゃんよ〝グキッ〟ってよ…」
「それで済んで良かったやないけ…感謝して貰わんとなぁ」
「あん?」
「冷静なって周り見てみい…」
これで蹴速が我に返る。
駿河と闘りたいという意識が強過ぎて、すっかり忘れていたのだ…
ここは駿河の拠点であり、自分が配下の者達に囲まれているという事実を。
ここで駿河がようやく振り返り、呆れた様に蹴速を見た…
「ったく…喧嘩っ早くて危なっかしい野郎だな。うちの下の者も顔負けやで。せやけど、そっちの関西弁の兄さん…高柳だっけか?アンタはなかなか冷静やんけ」
「冷静ってタイプや無いねんけどな…猪を一匹 飼うとるんで、手綱を握らざるを得んって訳よ…」
高柳はそう答えると小さく鼻を鳴らして見せた。
駿河がチラリと蹴速を見やり、小刻みに肩を震わせながら言う…
「フッ…フフフ…フフ…なるほど…猪か…こりゃいいや…心中察するでぇ♪」
「せやろ?ほんま…世話すんの大変やねんて…」
言葉のキャッチボールを目で追うように、高柳と駿河の間で顔を往復させていた蹴速が動きを止めた。
そして真顔で高柳に問い掛ける…
「え…兄やん…いつの間に猪なんか飼い始めたんな?」
一瞬の間を置き、高柳と駿河の怒声が二重奏で響き渡る!
「お前の事じゃアホッ!!」
そんな新喜劇の様なやり取りの後、駿河がゆっくり蹴速へと歩み寄る。
周囲の者達の間に緊張が走ったのが一目で解った。
しかし駿河がそれを制する様に掌をかざす。
そしてそのまま掌を数回振ると、部下達は躊躇いながらも小屋の中へと消えて行った。
「さぁて…人払いは済んだ…これでお前らと俺の3人だけや…邪魔者はおらへん♪」
「どういうつもりや?」
「おいおい…そない怪訝な目を向けんなや。そっちの猪と違ってお前なら解るやろ…あのまま殺気立った部下に囲まれて険悪な空気の中で話すより、俺達3人だけで話すのが手っ取り早いってよ」
「まぁ確かに…礼を言うべきやな」
「誰が〝そっちの猪〟やねんっ!!」
「……なぁ高柳…そっちの猪、そこらの木に繋いでから2人で話し合わんか?」
「せやな…そうすっか…」
駿河と高柳が蹴速をギロリと睨む。
その冗談とは思えない殺気にたじろいだ蹴速…
「あ、いや…その…大人しくしときますんで、僕も話に寄せて下さいませ…なんか…さぁせんした!」
太い鼻息を返事代わりに吐き出した駿河が、そのままの流れで本題を口にする。
「よう…蹴速…お前がサバットと闘りたいってのはわかった。そこで1つ確認したいんやが…お前、どこまでサバットの事知っとるんや?」
「へ?」
「一口にサバットって言うけどな、ステッキ術の〝ラ・カン〟やら、総合格闘技に近い〝リュット・パリジェンヌ〟もある…
サバットと聞いてお前らが最初にイメージするのは多分キックボクシングに近い〝ボックス・フランセーズ〟やろうけど、それすらもフルコンタクトの〝コンバ〟と、ライトコンタクトの〝アソー〟があるんやで?どれと闘りたいとか決めてんのか?」
蹴速はこの問い掛けに満面の笑顔で答える。
「強けりゃ何でもいいさ♪」
と、同時に…高柳と駿河は深い溜め息を吐きながら、その両肩を凄い高低差で落としていた。




