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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
42/55

花の都

モスクワのシェレメーチエヴォ空港を午前9時30分に経ち、フランスはシャルル・ド・ゴール空港に到着したのが14時20分…約5時間のフライトである。


「朝はロシアに居たのに、昼過ぎにはフランスに居るって何か不思議な気分しねぇか?」


「……せやな」


呑気な事を言う蹴速に対し、高柳は不機嫌を絵に描いた様な仏頂面であった。


「どうしたよ(にい)やん?便秘のライオンみたいな(ツラ)してよ♪」


「全くピンと来ぇへん喩えすんじゃねぇよ!てか…知ってて訊いとるやろお前っ!?」


「デッシッシッシッ♪」


そうである。

確かに高柳の言う通り、蹴速は彼が不機嫌な理由を知っていた。

その理由とは…

ロシアでの試合における顔の腫れも残り、未だにガーゼを貼っている高柳。

その容姿を不審に思われたらしく、彼だけが入国審査にかなり手間取ったのだった。


「まぁまぁ機嫌直せよ。せっかく花の都に来たんだからよ♪」


「ケッ!他人事や思て」


「だって他人事だもんよ。なんせ俺は品行方正を具現化したみたいな男だから♪そのうち広辞苑で品行方正って調べたら、俺の名前が類義語で出て来るようになるんではあるまいか?」


「それはあるまいよ」


そんな軽口を叩きながらパリ市内を目指す。

移動手段には高速鉄道を選んだ。

第1ターミナルから無料シャトルトレインで空港第1駅へ移動し、RER B線に乗車。

料金は10ユーロと少し割高な気もするが、市内まで30分という他の交通機関には無い魅力に負けた。

車内を見渡した蹴速が、ふとある事に気付く。


「なんかさ…日本人多くね?」


「全部が日本人かは判らんけど、確かにアジア系が結構目につくな…まぁ世界一の観光都市な訳やし、こんなもんなんちゃうか?」


「なんかこんだけ似た顔付きが居ると、海外に来た気がせんな」


「そんな事言うたらお前、ハワイなんか日本人だらけやし日本語も大概通じるしでもっと凄いで」


「ワイハーッ!!流石は海外歩き回ってるだけの事はあるな!(にい)やんハワイも行った事あったのかよ!?」


「いや。本で読んだんや」


「なんじゃそら!しかも本ってソレ、旅行雑誌だろっ!?読書で知識を得たみたいな言い方しやがって!」


「……」


「無視かいっ!」


すると高柳が唇に人差し指を当てるジェスチャーを見せた。

そしてその人差し指を、静かにある方向へと向ける。

蹴速がそれを目で追うと…2人の男が、ガイドブックに目を落とす1人旅らしきアジア人男性を挟む形で不自然に立っていた。

辺りをキョロキョロ見回しているし明らかに挙動不審である。

手荷物を持っていない事からも、この2人が旅行者で無い事は明白だった。


(にい)やん…アレってもしかして…?」


「ああ…その〝もしかして〟…やろぅな」


そう呟いた高柳が、徐にそちらへと歩き出した。

それを見た蹴速が少し焦った様子で…


「お、おい…(にい)やん…どうするつもりだよ…おいってば!」


しかしそれを無視した高柳は、その1人旅らしき男性の肩を叩くと…


「なんやぁこんな所おったんかいな!探したでぇ♪はぐれた時はほんまに焦ったがな!」


明らかに大袈裟な感じで声を掛けた。

するとその男性も日本人だったらしく…


「な、なんですのん…アンタは?」


訝しむ目で答えた。

異国の地で、顔にガーゼを貼った知らない男に話し掛けられたのだ…至極真っ当な反応と言えよう。

すると高柳、その男性の耳元に顔を寄せ…


「アンタを挟んで立ってる2人の男…こいつらスリや。だから知り合いのフリして声を掛けさせてもろた。話合わせてんか…」


そう囁いた。

驚いたのは男性である。直ぐさま自らを挟んだ2人に視線を走らせた。

すると2人組はハッキリ聴こえる程の舌打ちを鳴らし、その場から足早に立ち去った。


「あ、ありがとうございました…ガイドブックに集中してしまってて、全く気付きませんでした…浮かれてましたね…」


「アンタ…1人旅やろ?花の都なんて言われとるけどパリは案外治安悪いでな、隙見せん様に気をつけぇや」


そう言うと高柳は男性に軽く手を振り、蹴速の元へと戻って来た。


「やるじゃん!ガーゼだらけのクセに♪」


「一言多いねん…」


そんな出来事がありながらも、2人は目的地であるサン・ミシェル=ノートルダム駅で下車。

ほんの数秒歩いた所で蹴速が…


(にい)やん…気付いてるかい?」


そう高柳に声を掛ける。

これに対し高柳…


「ああ…勿論やがな」


そう答えるや否や、凄い勢いで後ろへ振り返る。

するとそこには、先ほど高柳に〝仕事〟を邪魔されたばかりの2人組が敵意剥き出しの表情で立っていた。






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