次なる目的地
〝賭け試合〟により、ある程度の旅費を確保した蹴速と高柳。
しかしその代償は高く…
高柳はギガント戦で負った傷が癒えぬまま、その顔は未だにガーゼだらけ。
蹴速にいたっては更に深刻で、外れた手首は填まっているものの、やはり腱か神経を傷めたらしく微かに痺れを感じていた。
「なぁ…やっぱ少し傷が癒えてから旅立った方がええんとちゃうか?」
「そしたらそれだけ宿泊費が嵩むんだぜ?もうロシアでの用は済んだのに〝空家賃〟だけ払うつもりは無ぇよ」
「お前って変なところシビアよな?チャランポランでアホなクセに…」
「だ、誰がチャランポランでアホだよっ!?」
「お前以外におらへんやんけ…違うとでも?」
「いや…大体合ってる…」
「せやろ♪」
そんな他愛も無いやり取りを交わしながらも、2人は世界地図へと真剣な眼差しを落としていた。
勿論、次の目的地を決める為である。
ここで高柳が素朴な疑問を口にする。
「因みにやけどよ…お前、あと何ヵ国まわるつもりな訳?」
この問いにハッとした表情を浮かべた蹴速…
「ぜ、全然考えて無かったわ!」
「でしょうね…そんなこったろうと思ったわ…一応言っとくけどよ、俺が付き合うのは次の国までやぞ」
「ええっ!?なんでだよっ!?死が2人を別つまで一緒に居るって誓ったじゃんよっ!!」
「いつだよっ!!」
「いや…まぁ…でも本当になんで帰るのさっ!?」
「俺はこれでも社会人やぞ?有給を使うて旅しとんねん。シラットの指導員って役割もある…日本でやらなアカン事が色々とあるんや」
「いや、そこを何とか…」
「無理っ!!」
「チェッ!ケチッ!!」
「酷ぇ言い様やな…とにかくお前はどうするか知らんけど、俺は次の国を終えたら帰る。せやからそのつもりで目的地を選ぶこっちゃな」
「わ、わぁったよ…」
2人が再び地図へと視線を向ける。
蹴速の中で候補地が幾つかあるらしく、そこを交互に眺めてはしきりに首を捻っていた。
「なんや…何処と何処で迷ってるねん?」
「ん~…3つあるんだけどさ…ここと、ここと、ここっ!」
蹴速が指差した箇所を高柳の目線が辿る。
「フランスと韓国…ほんでもって中国…か」
「うん。当麻流蹴体術が蹴り技を主体としてる以上、フランスのサバットや韓国のテコンドーは避けられないし、総合武術として見た場合なら中国武術は外せない気もするんよね」
「なるほどねぇ…」
「兄やんなら何処を選ぶよ?」
自らの顎を親指と人差し指の間で挟んだ高柳、眉間に皺を寄せながら唸り声を絞り出す。
「んん~~っ…せやなぁ~~っ…先ずは中国やけど…中国武術と一言で言うても、数えきれん程の流派があるんやぞ?しかもや、仮に相手を八極拳に決めたとしても、その八極拳ですら李氏八極拳やら金家八極拳をはじめとする多数の門派に分かれとる。キリあらへんぞ?」
「ん~…確かになぁ…」
「次に韓国やけど…今の反日感情の高まる中で闘いなんざ挑もうものなら〝技術交流〟では済まへん気がするんよな。そうなると消去法でフランスになる訳やけど…」
「やけど?」
「いや…帰国する時の事を考えたら、韓国や中国の方が近くて助かるなぁ…ってのが本音♪」
「なんやねんそれっ!」
「ヒッヒッヒッ♪」
「でもまぁ…兄やんの言った事も解る。確かに一流派と闘ったところで中国武術を理解するのは不可能だわな。それに危険を冒してまで韓国で闘うってのも違う気がする。俺は遺恨を遺す闘いより友情の芽生える闘いがしたいからな」
「じゃあ…決まりか?」
「ああ!サバットはまだまだ未知に等しい格闘技だからな!前々から興味もあったし…フランスに向かおうぜっ♪」
こうして〝2人〟としては最後の場所となる目的地が決まった。
フランスの国技であり独特の進化を遂げた立ち技格闘技〝サバット〟を相手に、第50代目 当麻蹴速はどんな〝蹴り合い〟を見せるのか?




