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「このルールで〝虎縛り〟を使って勝つたぁな…アレクセイの奴、極めも相当強いみたいだな」
顎を擦りながら蹴速が呟いた。
これに高柳の頭上で〝?〟が浮く…
「虎縛り?なんやそれ?」
「ん?あぁ…虎縛りってのは当麻流におけるアキレス腱固めの呼び方さ。ま、当麻流に限らず他流派の古武術でもこの呼び名を使ってる所はチラホラあるけどね」
「ほぉ~ん」
「じ、自分から訊いといて、何その空返事っ!?」
「いや悪ぃ悪ぃ!そういう訳や無いんやけどな…ほれ!」
そう言って高柳が顎をヒョイと突き出した。
その鋭利な顎先につられて視線を辿ると、試合を終えたばかりのアレクセイがこちらへと歩を進めて来る。相変わらずファンに揉みくちゃにされながら…
そして蹴速の前で足を止めると、照れた様にはにかみながら鼻先を掻いた。
「よっ♪お疲れっ!」
蹴速がハイタッチを求めて掌を掲げたが、アレクセイはそれを無視して首にかけたタオルで額の汗を拭った。
「チェッ!なんだよ…つれねぇなぁ…」
腕を組み唇を尖らせる蹴速。
本来、ゴツい男が拗ねて見せてもちっとも可愛くは無いはずだが、蹴速のそれには不思議と愛嬌が感じられた。
その証拠に、アレクセイが失笑したのである。
「あ、笑った♪」
「ほんまやっ!珍しいなアンタが笑うなんてよ」
突っ込まれたアレクセイは、バツが悪そうに表情を戻すと…
「ヒト ヲ ロボット ミタイニ イウナ…オレダッテ ワラウコト クライ アル」
そう言って横を向いた。
そうこうしていると、試合前に金を取りに来た男が再びアレクセイの所へ駆け寄って来た。
掛け金の払い戻しに来たのである。
渡した金額の倍…それプラス客の掛け金で出た利益の一部も渡された様だった。
オッズがウラジミールに偏っていた為、相当な利益が出たと見える。
アレクセイはそれをズボンのポケットに捩じ込むと、砂だらけになっている〝私服〟をパンパンと払いながら蹴速に問うた…
「デ…ドウスル?」
「ん?どうするって…何が?」
「オマエ…タタカイタインダロ? コウイウ バショダト シッテモ マダ タタカウ キハ アルカ ト キイテイルンダ ソレトモ コワクナッタカ?」
「怖い?俺が?まさかぁ~♪逆にワクワクしてるぜっ!」
蹴速の答えに数回小さく頷いたアレクセイ。
そのまま背を向け、金を渡しに来た男に何やら話し掛けている。
すると男が品定めする様に、蹴速の身体を上から下まで目で舐め回す…
「な、なんだよオッサン…俺にそっちの気は無いぞっ!」
「アホッ!!」
高柳が蹴速の後頭部を軽く叩いた。
「テッ!な、何すんだよ兄やんっ!!」
「ほんっとお前ってアホよなぁ…アレクセイはお前の事を紹介してくれたんやろがっ!だからオッサンはお前が闘える奴かどうかを見とるんやんけっ!!」
「あ…なるほど…そっちね♪」
「そっちもクソも、そもそもそっちしか無ぇわっ!バカッ!!」
するとアレクセイが…
「ドウヤラ OK ラシイ…ナンナラ イマカラ ヤッテミルカ ト イッテルガ…ドウスル?」
突然の申し出に驚いたのは、蹴速よりも高柳の方だった。
「へっ!?今からって…そもそも相手がおらへんやろぅよ?」
「コノバショ ハ トビイリ モ カンゲイ シテイテナ…アイテ ハ カンキャク カラ スグニ ミツカル ハズダガ…アトハ オマエシダイ ダ」
これに高柳、蹴速を見ながら小さく首を振った。
「蹴速…わかっとるとは思うがアカンぞっ!いくらなんでも突然過ぎるっ!今日は観るだけ…そない約束したよなっ!?ちゃんと準備して出直そ?なっ!?」
「ププッ♪」
吹き出したのはアレクセイだった。
高柳と蹴速が睨みつけると…
「イヤ…ワラッテ ワルカッタ ソウダナ…イキナリスギタ…ショセン スポーツマン トツゼン ノ タタカイ ハ ムリダヨナ」
そう言って半笑いで蹴速の反応を窺う。
「へっ!へへへっ!アレクセイ…アンタ、煽るのが上手ぇなぁ…そうまで言われちゃ引き下がれないもの…上等!やってやろうじゃないの♪」
高柳が慌てて止めに入ろうとした時、アレクセイが意外な言葉を口にした。
「ソッチノ オマエ ハ ドウスル?」
「へ?そっちのお前って…もしかして俺かっ!?」
「オマエイガイ 二 ダレガ イル? モシ オマエガ ヤルナラバ アイテヲ サガス テマガ ハブケテ タスカルンダガナ?」
この言葉の意味を一瞬では理解出来なかった高柳。
自らの頭上に目をやりながら、アレクセイの言葉をブツブツと復唱している。
ゆっくり数秒かけて言葉の咀嚼を終えた高柳…
「え!?ええぇ~~っ!?それって…俺が蹴速と闘るって意味かいやっ!?」
「ダカラ!ソレイガイ 二 ドウイウ イミガアルッ!?」
高柳がソロリと蹴速を見やった…
「兄やん…アンタが受けるってんなら俺はそれで構わないぜ」
懐からゆっくりと刃物を出す様に蹴速が言う…
〝俺が…蹴速と…〟
迷いながらも高柳は、全身に電流の様な物が走るのを感じていた。




