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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
22/55

リアリズム

賭け試合の情報を得ようと街で声を掛けた男。

身長185cm前後、体重90kgといったところか…

派手な柄物のシャツに濃紺のスラックス。

更にはデカいティアドロップ型サングラスをしており、お世辞にも柄が良いとは言えない風貌である。

この男を選んで声を掛けた高柳も大したものだが、偶然とは恐ろしい物でこれがビンゴ!

アレクセイと名乗ったこの男、実は目当ての賭け試合に出場する正規の選手だと言うではないか。


「高柳の(にい)やん、お手柄だぜぃ♪」


「あぁ…自分でも驚いとるわ。でもよまだまだ信用し切るのは危険やぞ…何かあったらダッシュで逃げるから油断すんなよ?」


「ん、わぁっとる…」


勿論アレクセイに解らぬ様に日本語での会話である。しかし…


「シンパイ イラナイ オレ ウソツイテナイ」

アレクセイが振り返りもせずに言葉を吐いた。


「へっ!?」


「ウソ…?アンタ、日本語話せたのかよ…?

なら最初から言ってくれれば…」


「オマエ オレニ キイタ 〝エイゴ ハナセマスカ?〟…ト ダカラ エイゴ ハナシタ ソレダケノコトダ 〝ニホンゴ ワカルカ?〟ト キカナイ オマエガワルイ」


「んぐぐ!…まぁそうかも知れんけども…融通の利かん奴っちゃな…」


これにアレクセイが足を止めて振り返る。


「ユウヅウ…ソレ オレノ シラナイ コトバ…ドウイウイミ?」


「え…?あ~…まぁ~そのぅ~何や…優しいとか親切とか…そんな感じや…は、ははは♪」


アレクセイが腰を折って高柳に目線を合わせる。

そしてクンクンと鼻を数回鳴らすと…


「オマエ ウソイッテル ニオイガスル…イエッ! ホントノコトッ!!」


「わっとっとと!わかった!わかったから落ち着けって!!融通が利かないってのは…え~と…そのよぅ…まぁ…頑固とか、頭が固い…みたいな?そんな感じの意味…やねんけどな…」


するとアレクセイは意外な反応を見せた。


「ガンコ…ソノイミモ シラナイ…デモ アタマ カタイ!ソレ ウレシイ!! ヘッドバット オレノ トクイワザネ♪ オレ アイアンヘッド♪」


〝あ~…違う意味に受け取ってしもたかぁ…まぁ本人喜んどるみたいやし…ま、えっか〟


心の中で舌を出しつつ、アレクセイには愛想笑いを返しておく高柳。


やがて5分も歩いただろうか…表通りの賑やかさとは程遠い、人通りの少ない寂れた場所へ出た。

しかし…視界には入らないが、確かな人の気配と妙な熱気を感じる。

どうやらそれは、5M程先にある次の十字路の辺りから発っせられているらしい。

蹴速も高柳も、1歩進む毎に胸が高鳴るのを感じていた。

そしてアレクセイが十字路を右に曲がり、それに続くと途端に視界が拓けた。


そこはいわゆる空地だった。

昭和期の日本では時折見かけたが昨今では先ずお目にかからない、絵に描いた様な空地である。

それを見た高柳の感想…

〝これで土管が積んであったら完璧なんやけどなぁ…〟


続いて蹴速の感想…

〝えっと…ジャイアンのリサイタル会場かな?〟


結局2人は似た者同士なのかも知れない…



その場所の一画には土が分厚く盛られており、それを一辺5M程のロープが囲んでいた。

とは言え…ロープとは名ばかりで、雑に打ち込まれた木杭に荒縄が3本括り着けられただけの物である。

そこを50人ばかりの人達が取り囲み、何やら急かす様にして各々が声を張り上げていた。


「ドウヤラ マダ ハジマッテナイ ラシイ」


アレクセイが呟く。

するとアレクセイに気付いた人達が彼の方へ寄って来て、握手をしたり身体を叩いたり…

アレクセイもそれに笑顔で応じている。

どうやら彼は人気選手であるようだ。

一通り対応を済ませたアレクセイ、蹴速と高柳に向き直ると…


「キョウ 3シアイ アル…オレ サイゴノシアイ ユックリ ミテイク イイネ」


「ありがとう、そうさせて貰うよ」


答えた蹴速の肩を掴み、高柳が念を押す。


「おいっ!わかっとるとは思うが、今日んところは観るだけやぞっ!ええなっ!?」


「心配いらんよ高柳の(にい)やん…ちゃ~んと弁えとるって!」


「お前の心配いらんは心配いるって事やからのぅ…」


この会話をニヤニヤしながら見つめるアレクセイ。それに気付いた蹴速が問う。


「アレクセイ…アンタ、着替えとかウォームアップはしなくていいのか?最後の試合とは言え、3試合しか無いなら直ぐに出番だろよ?」


「ン?キガエ…シナイ ウォームアップ モ シナイ…」


「へ…?その格好でやんの?私服だろソレ!?マジかよ…」


驚く蹴速にアレクセイが言う…さも当然とばかりに…

「コレ ケンカ!ケンカ シフクデヤル アタリマエ…ケンカ トツゼンハジマル ダカラ ウォームアップモシナイ アタリマエ…ダロ?」


この返事を聞いた高柳が蹴速に囁く

「オイ…このリアリズム、なかなかにヤバい場所かも知れんぞ…」


「何言ってんだよ(にい)やん!最初は〝試合〟って聞いてたから俺も驚いたけどよ、アレクセイの口から〝ケンカ〟って言葉が出たんで今は納得だぜ!ケンカを私服でヤルのは当然だわ!別に驚く事じゃねぇさ♪」


「ハァ…そっか…そうやったな…お前も同類やって事を忘れとったわ…」


高柳が諦めの溜息をついた時、一際大きな歓声がリングサイドに沸き立った。





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