リアリズム
賭け試合の情報を得ようと街で声を掛けた男。
身長185cm前後、体重90kgといったところか…
派手な柄物のシャツに濃紺のスラックス。
更にはデカいティアドロップ型サングラスをしており、お世辞にも柄が良いとは言えない風貌である。
この男を選んで声を掛けた高柳も大したものだが、偶然とは恐ろしい物でこれがビンゴ!
アレクセイと名乗ったこの男、実は目当ての賭け試合に出場する正規の選手だと言うではないか。
「高柳の兄やん、お手柄だぜぃ♪」
「あぁ…自分でも驚いとるわ。でもよまだまだ信用し切るのは危険やぞ…何かあったらダッシュで逃げるから油断すんなよ?」
「ん、わぁっとる…」
勿論アレクセイに解らぬ様に日本語での会話である。しかし…
「シンパイ イラナイ オレ ウソツイテナイ」
アレクセイが振り返りもせずに言葉を吐いた。
「へっ!?」
「ウソ…?アンタ、日本語話せたのかよ…?
なら最初から言ってくれれば…」
「オマエ オレニ キイタ 〝エイゴ ハナセマスカ?〟…ト ダカラ エイゴ ハナシタ ソレダケノコトダ 〝ニホンゴ ワカルカ?〟ト キカナイ オマエガワルイ」
「んぐぐ!…まぁそうかも知れんけども…融通の利かん奴っちゃな…」
これにアレクセイが足を止めて振り返る。
「ユウヅウ…ソレ オレノ シラナイ コトバ…ドウイウイミ?」
「え…?あ~…まぁ~そのぅ~何や…優しいとか親切とか…そんな感じや…は、ははは♪」
アレクセイが腰を折って高柳に目線を合わせる。
そしてクンクンと鼻を数回鳴らすと…
「オマエ ウソイッテル ニオイガスル…イエッ! ホントノコトッ!!」
「わっとっとと!わかった!わかったから落ち着けって!!融通が利かないってのは…え~と…そのよぅ…まぁ…頑固とか、頭が固い…みたいな?そんな感じの意味…やねんけどな…」
するとアレクセイは意外な反応を見せた。
「ガンコ…ソノイミモ シラナイ…デモ アタマ カタイ!ソレ ウレシイ!! ヘッドバット オレノ トクイワザネ♪ オレ アイアンヘッド♪」
〝あ~…違う意味に受け取ってしもたかぁ…まぁ本人喜んどるみたいやし…ま、えっか〟
心の中で舌を出しつつ、アレクセイには愛想笑いを返しておく高柳。
やがて5分も歩いただろうか…表通りの賑やかさとは程遠い、人通りの少ない寂れた場所へ出た。
しかし…視界には入らないが、確かな人の気配と妙な熱気を感じる。
どうやらそれは、5M程先にある次の十字路の辺りから発っせられているらしい。
蹴速も高柳も、1歩進む毎に胸が高鳴るのを感じていた。
そしてアレクセイが十字路を右に曲がり、それに続くと途端に視界が拓けた。
そこはいわゆる空地だった。
昭和期の日本では時折見かけたが昨今では先ずお目にかからない、絵に描いた様な空地である。
それを見た高柳の感想…
〝これで土管が積んであったら完璧なんやけどなぁ…〟
続いて蹴速の感想…
〝えっと…ジャイアンのリサイタル会場かな?〟
結局2人は似た者同士なのかも知れない…
その場所の一画には土が分厚く盛られており、それを一辺5M程のロープが囲んでいた。
とは言え…ロープとは名ばかりで、雑に打ち込まれた木杭に荒縄が3本括り着けられただけの物である。
そこを50人ばかりの人達が取り囲み、何やら急かす様にして各々が声を張り上げていた。
「ドウヤラ マダ ハジマッテナイ ラシイ」
アレクセイが呟く。
するとアレクセイに気付いた人達が彼の方へ寄って来て、握手をしたり身体を叩いたり…
アレクセイもそれに笑顔で応じている。
どうやら彼は人気選手であるようだ。
一通り対応を済ませたアレクセイ、蹴速と高柳に向き直ると…
「キョウ 3シアイ アル…オレ サイゴノシアイ ユックリ ミテイク イイネ」
「ありがとう、そうさせて貰うよ」
答えた蹴速の肩を掴み、高柳が念を押す。
「おいっ!わかっとるとは思うが、今日んところは観るだけやぞっ!ええなっ!?」
「心配いらんよ高柳の兄やん…ちゃ~んと弁えとるって!」
「お前の心配いらんは心配いるって事やからのぅ…」
この会話をニヤニヤしながら見つめるアレクセイ。それに気付いた蹴速が問う。
「アレクセイ…アンタ、着替えとかウォームアップはしなくていいのか?最後の試合とは言え、3試合しか無いなら直ぐに出番だろよ?」
「ン?キガエ…シナイ ウォームアップ モ シナイ…」
「へ…?その格好でやんの?私服だろソレ!?マジかよ…」
驚く蹴速にアレクセイが言う…さも当然とばかりに…
「コレ ケンカ!ケンカ シフクデヤル アタリマエ…ケンカ トツゼンハジマル ダカラ ウォームアップモシナイ アタリマエ…ダロ?」
この返事を聞いた高柳が蹴速に囁く
「オイ…このリアリズム、なかなかにヤバい場所かも知れんぞ…」
「何言ってんだよ兄やん!最初は〝試合〟って聞いてたから俺も驚いたけどよ、アレクセイの口から〝ケンカ〟って言葉が出たんで今は納得だぜ!ケンカを私服でヤルのは当然だわ!別に驚く事じゃねぇさ♪」
「ハァ…そっか…そうやったな…お前も同類やって事を忘れとったわ…」
高柳が諦めの溜息をついた時、一際大きな歓声がリングサイドに沸き立った。




