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蹴師(けりし)  作者: 福島崇史
21/55

情報源

空港のロビーで朝を迎え、エクスプレスの始発でようやく市内に辿り着いた蹴速と高柳。

念願のホテルコスモスにチェックインをし、今はホテル内のレストランで朝食をとっていた。

バイキング形式で好きな物を好きなだけガサツに皿へ盛る蹴速。

対する高柳は焼いたハムとスクランブルエッグ、別皿に多めのサラダと黒パンを2個…

あまりに対照的で性格の違いがよく判る。


(にい)やん!このテーブルの上に置いてある黒いツブツブとイクラ、もしかして好きに食べていいのかな?」


「黒いツブツブて…お前はキャビアも知らんのかいっ!」


「ほぅ!これがキャビアかよ!!高級食材として聞いた事ぁあったけどよ、実際に見るんは初めてじゃわ♪」

欲しいオモチャを見つけた子供の様に、目をキラキラさせながら声高に話す。


「よく日本の定食屋なんかでも、テーブルの上に食べ放題の漬物なんかが置いてあるやろ?あれみたいなもんで勿論これも食べ放題や」


「ほほぅ…て事ぁ遠慮は要らんって事だな…」

さっきまでキラキラしていた目がギラギラに変わっている…


「だからってみっともない食い方はすんなよっ!少~しずつパンにのせて食うとか、とにかく上品に振る舞うんやぞっ!!」


「チッ!実際うるさいよな(にい)やんは…

でもよ、キャビアにせよイクラにせよ高級食材なのに何で無料(ただ)で食べ放題なんじゃ?」


手にしたパンをジッと見つめながら高柳が答える。

「国によって物の価値が違うんは当然やろが?

例えばアフリカの一部の地域みたいに食うにも困る所やと、このパン1切れとダイヤモンドを喜んで交換しよるやろ…

多く産出が出来る物は必然的に値打ちも下がる…だからこそって話や。日本におったら考えられん事やけどな…」


「ふ~ん…まぁよく解らんが…て事はよ、こっちでキャビアやイクラの缶詰めを大量に買って日本で売りゃあ大儲け出来るじゃん♪」


高柳が深い溜息を1つ吐く。

「お前…今、悪徳ブローカーみてぇな(ツラ)してたぞ…てか、そんな事ぁ誰もが考える事っちゃ。せやから個人で買える量には制限が設けられとるわぃ」


「な~んや…つまんねぇのっ!!ならホテル居る間に食いだめしとかんとよ♪次にいつ食えるかわかんねぇしなっ!」


「だからっ!上品に食えって言っとるやろがこの日本の恥さらしっ!!」


そんな賑やかな朝食も終わり、一先ず部屋に戻った2人。

これからどうするか、ベッドに寝転びながら策を練る。


「よう…賞金目当てで試合に出るはいいけどよ…お前ほんまに大丈夫なんか?」


「大丈夫かって…何がよ?」


「賞金てのは勝たなきゃ貰えへんのやで?って意味やがな…」


「ああ…そういう事ね。勝負なんだし〝絶対に大丈夫〟とは言えねぇけどよ、何試合かするとして勝ち越す自信は当然あるよ」


「まぁ確かに勝ち越しさえすりゃあ手持ちは必然的に増えるわな…よっしゃ!ならよ、とりあえずは街に出て敵情視察と洒落こもうやないか♪」


「テキジョウシサツ…?ナニ ソレ? オレ シラナイ コトバ…」


額に手をやった高柳が呆れ顔で言う…

「マジか…お前マジか?解りやすく言えば偵察って事っちゃ!」


「………テイサツ?ピッ…ピッ…ピッピッ…ピピピピピピ…エラー!エラー!!」


「このアホがっ!紛う事無き本物のアホがっ!!ちったぁ本でも読んで勉強しやがれっ!!」

叫びながら、頭の下にあった枕を思いっきり蹴速へと投げつける。


そして…高柳が敵情視察の意味を教えた後、2人で街へと繰り出した。


「しかしアレだよな…ロシアって寒いイメージだったけどさ、普通にTシャツで過ごせんだな」


「夏場はな…そんな事より先ずは情報を集めんと。だいたいそんな賭け試合、どこでやっとんのかもわからんのやからな…」

そう言うと高柳は、近くを歩いていた少し柄の悪そうな中年男性へと英語で声を掛けた。


「すいません、英語は解りますか?」


男は足を止め振り返ると大きめのサングラスを外し、鋭い眼光を容赦なく高柳へと突き刺す。

そして上から下まで視線を2往復させてから、低い声で呟く様に答えた。


「ああ…」


「それは助かります。実は俺達、日本から来た格闘家なんですが、試合出来る場所を探してるんです…それも賞金の出るやつを」


男は無言のまま又も2人を視線で舐め回す…

まるで品定めしているかの様に。

そして一頻り見終えると〝知ってて当たり前だろ〟と言わんばかりの表情で小さく2回頷いた。


「良ければその場所を教えて頂けませんかねぇ…?」


男は鼻で嗤うと、耳を小指でほじくりながらこう言った。

「やめときな…お前ら日本人が勝てるような場所じゃねえよ。綺麗なスポーツ格闘技の技術は通用しねぇんだから…よ」


この態度がバカにした物である事ぐらいは、英語の解らぬ蹴速でも理解したらしく…


「よう…(にい)やん。このロシア人、何て言ってんのよ?」


「教えてやってもええけど、この場でトラブルは起こさへん…それを約束出来るか?」


「わかってるよ…」


この沈んだ口調の返事に僅かばかりの不安は残ったが、闘う本人である蹴速に教えない事には話が進まない。


「綺麗なスポーツ格闘技が…まして日本人が勝てる場所じゃ()ぇんやとさ。だからやめとけってよ」


「へぇ…ならよぅ(にい)やん…こう言ってやってくんねぇか?俺のはスポーツじゃ()ぇよ…ってな」


やれやれとばかりに頭を掻き、高柳が再び男へと視線を向ける。


「アイツの言葉をそのまま貴方に伝えますね。

〝俺のはスポーツ格闘技じゃあ無い〟だそうです」


これで男の眼光が更に強さを増した…

そしてゆっくりと静かに口を開く。


「ほう…言うじゃねぇか。そこまで言うんなら案内してやる…ついて来な」


「え?いやいや、そこまでして貰わなくても場所だけ教えて頂けたら自分らで行きますから…」


「フンッ!物はついでってやつだ。なんせ俺も今からその場に行くところだったんでな」


「あ、それは奇遇ですね!貴方も観戦に行かれるとこだったとは」


男はサングラスを再び装着し、踵を返して歩き始めた。そして2~3歩進んで立ち止まると、顔だけで振り返りながらこう言った。


「観戦?違うな。俺の名はアレクセイ…正規の出場選手だ」








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