ここをキャンプ地とすっ!
スカルノハッタ空港を発ち約17時間…
蹴速と高柳はようやくシェレメーチエヴォ国際空港へと降り立っていた。
「兄やん…めちゃくちゃ疲れたんだけど…?」
「ん、心配すんな…俺もやから…」
喋る度に
〝口から魂が零れ出てるのでは?〟
と思う程に憔悴しているのが見て取れる。
「とりあえず…座ろうや…」
「んぁ~!こんな所で座ってないでよぅ、チャッチャとホテル行ってゆっくり休もうぜ!!」
高柳の提案を却下し、泥の中を進む様に足を引き摺る蹴速。
高柳曰く、宿泊は一流として有名な〝ホテル コスモス〟を予約してあると言う。
その事実だけが疲れ果てた蹴速の肉体を前へと進めていた。
しかしである…
「待てってばよ!ええから一旦座れって!!」
「……何でよ?」
渋々座った蹴速に高柳が言う…
「モスクワ市内まではアエロエクスプレスって直通列車に乗るんやけども…まぁ時計見てみぃや…」
「夜中の0時…」
「つまり?」
「アエロエクスプレスはもう動いて無い…」
「はい!よく出来ました!!」
これに蹴速が再び立ち上がり、ズカズカと歩き出した。その背に高柳が声を浴びせる。
「おいおいっ!どないするつもりや?」
「こんな所に居てもホテルには着けんじゃろがぃ…俺はタクシーに乗ってでも行くぞっ!!」
「ほほぅ…タクシーにねぇ…なるほどなるほど。ま、止めへんけどよ…お前…金がそろそろヤバいって言ってなかったっけか?」
「嘘?…ロシアのタクシーってそんなに高いのかよ?」
「いやいや、そんな事ぁ無いんやけどな…ただロシアの渋滞は世界でも有数でよ。昼夜問わず空港から市内まで4~5時間かかる事もザラだってよ。長時間乗りゃあそんだけ料金も高くなるは必定…どうするよ?高い金払って疲労を上塗りするかぇ?」
「チッ!…ならどうすんのよ?」
この問いに、高柳の口から出た返答は信じられない物だった。
「ここをキャンプ地とすっ!」
「はい?え~と……はい?」
「いや、だから…ここをだな…」
「わぁっとるわいっ!そんな〝水曜ど○でしょう〟のパクりフレーズ何回も言わんでも!!俺が訊きたいのは理由じゃ!理由っ!!何が悲しゅうて長旅の疲れを空港のロビーで上塗りしなきゃなんねぇのかって事だよっ!!」
「がなりたてんなや…疲れが増すで♪」
「ふざけんなよっ!もういい…わかった!少しばかり出費がかさんでも俺はタクシーで行くからよっ!兄やんはここでゆっくり休んでから来いやっ!!」
怒りにまかせて歩き出した蹴速。
面白い事に、キャリーバッグのタイヤの音までが怒っている様に聴こえる。
「よう…蹴速よっ!」
「止めんなっ!」
「止めねぇけどな…行ったところで泊まれねぇよ?」
ロビー内にズカズカバタバタと響いていた足音だったが、この一言が静寂を取り戻させた。
「どういう事よ…?」
「だって予約は明日…まぁ厳密には日付変わっとるから今日やねんけども…午前9時以降で入れとるからよ。だから今行ったところで泊まれないって訳。つまりは?」
「こ、ここを…キャンプ地と…す…」
「はい!よく出来ました♪」
希望をバッサリと刈り取られ、体力の残りゲージが〝ミリ〟となった蹴速…
この後は何一つ言葉を吐く事も無く、高柳の隣で朝までグッスリ眠りましたとさ…
めでたしめでたし。




