互角
飛び出した二匹の獣…
先に技を放ったのは大方の予想通り蹴速であった。
両者の肉体が接触する直前、左へサイドステップしながらの右フック。
大気を焦がさんばかりの勢いで、思い切りブン回す!
しかしこれはルディがスウェーで難なくかわした。
〝へっ!だろうな…知ってた〟
蹴速としても挨拶代わりに放った物、こんな大振りのテレフォンが当たるとは思っていない。
〝だがよ…こいつぁどうだい?〟
蹴速は空振りした勢いそのままに、左でのバックハンドへ繋ぐっ!
しかしこれとて容易くガードしたルディ。
しかし蹴速の回転も止まらない。
今度は右足でのローキック!
これもルディが腰を引いて空を切らせる。
更に左の後ろ廻し蹴りに繋ぐ蹴速だが、やはり身を屈めたルディの頭上を虚しく通過しただけだった。
この流れを見ながら、審判を務める高柳は思っていた…
〝ん…確かに速いし、上下への振り分けもええ…せやけど全部右からの攻めになっとるやんけ。
蹴速よ…それじゃ当たらんでぇ…ルディからすりゃ左側をガードしてりゃ絶対に食らわへんのやから…のぅ〟
その通りであった。
確かに蹴速の出す技は全てが右方向、ルディから見て左方向からの物ばかり。
事実、ルディの視線は既にそちらへ固定されている。
ところが、ここで蹴速の動きに変化が見られた。
後ろ廻しが空振りすると同時に回転を止め、その左足を再び跳ね上げたのだ!
一切のまやかしが無い純然たる左ミドル…
左側からの攻めに集中していたルディの反応は遅れ、ガードの為に腕を移動させた時にはもう、蹴速の左足はルディの右脇腹へと吸い込まれていた。
「フングッ…!」
呻き声を1つあげ、その場に屈み込んだルディ。
普段の癖で更なる追撃を加えようとする蹴速だったが、高柳が慌てて間に割って入る。
「ストップ!ストップやっ!!今のは有効な蹴りやから蹴速に2ポイント。立ってもっぺん仕切り直しや」
「あ、あぁ…そうか…これはシラットルールでの試合だったな。しかし…なんや窮屈なルールやのぅ…その都度流れが止まるってのは…」
「新参者が文句言ってんじゃねぇよ。試合させて貰えとるだけ有り難く思えっちゅうねん!っと…それよりもや…」
高柳がルディへと歩み寄り、何やら話し掛けている。
それに頷きながら指でOKサインを作るルディ。
どうやら試合続行が可能かを確認していたらしい。
立ち上がり、上半身を左右に捻りながら大きく深呼吸をしたルディ。
どうやら然程のダメージは無いらしく、目にも力が宿っている。
それどころか薄く笑みまで浮かべていた。
「やっと本気になったってか?そうこなくちゃあな…兄弟」
ルディの表情を見て、嬉しくなった蹴速は思わず呟いていた。
試合開始以降、ルディは未だたった1つの技すらも出してはいない。
蹴速が見せた怒涛の連続技だったが、ルディの腕ならカウンターを取る事だって出来たかも知れないと言うのに…
〝去り行く俺への接待?流行りの忖度?んな物クソ喰らえだぜっ!〟
そんな想いが蹴速の中にはあった。
だからこそルディの纏う空気の変化を喜んだのだ。
「時間はまだ2分残っとる…んじゃあ続けるで!開始めっ!!」
高柳の声が響くと同時に、ルディが身体を左右に振りながら間合いを詰める。
それを捕らえようとジャブの連打で迎撃する蹴速だが、宙を舞う木の葉の様に当たらない。
ならば!と、前蹴りで間合いを離しにかかる蹴速。
これを十字受けでガードしたルディ。
その為に動きが止まり、顔面もガラ空きとなった。
〝チャ~ンス♪〟
パンチングボールでも打つかの如く、余裕を持って右ストレートを放った蹴速。
ところが…
〝な…っ!?〟
腕が伸び切らない!
腕が伸び切る前にルディが、サイドキックで腕の付け根を抑え込んだのだっ!
〝こ、こんな防ぎ方があんのかよ…?まったく凄ぇ奴だよおま…ガハッ!!〟
感嘆していた蹴速が、突然空気の束を吐き出した。
ルディはサイドキックで技を封じると、その蹴り足をそのまま蹴速の顎へと振ったのである。
顎の先端をかする様にヒットされた蹴速は、堪えられずに膝を折った…
「ストップ!有効打!ルディに2ポイントッ!!…蹴速、立てるか?」
「へっ!つまんねぇ事を訊いてくれんなや…兄やん…」
少々フラつきながらも立ちあがる蹴速。
「……よっしゃ。これで両者同点や…まだ僅かやが時間は残っとる。続行!」
高柳がまたも両者の間に手を振り下ろし、そのまま試合が再開された。
脳が揺れた蹴速は未だ足元が覚束無い…
ルディからすれば絶好の勝機である。
ところがルディは、試合が再開されても構えを取っただけで自ら仕掛けては行かなかった…




