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マリアンヌ、かく語りき  作者: 境 時生
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贅沢好きで浮かれていたころ

第2章

 それから2,3週間は、母は、あの女の子の治療にかかりきりだったそうよ。私は翌日すぐ叔母によばれて、ヴェネツィアに行かなくてはならなくて、その場にはいなかったのだけれど。

 母の話だと、あの彼女を慰めていた男性が迎に来て、彼女はその男性と一緒に礼を言い、治療代にと、珊瑚の首飾りを置いて帰っていったって。その首飾りは、母から譲り受けた唯一の宝飾品だったわ。母は貴族のご令嬢だったのに、実家から何も譲り受けることができなかったそうよ。でもその珊瑚の首飾りはとても綺麗で、私の宝飾品好きは、あれが原点ね。


 そうそう、叔母の家によばれたのは、リッカルドからの依頼で、皇帝の姪のところに侍女として推薦したいというお話だったの。驚いたわ。まだ母にはいろいろ習いたいこともあるし、しばらく考えさせて欲しいと答えたのだけど、リッカルドが熱心でね。「君はあんな片田舎の賢女のままで満足するような女性ではない」とか言うの。確かにリッカルドは、はじめから私の性格を見抜いていたわね。母にも相談したら、何事も人生経験、それに腕を磨くいいチャンスだって、後押ししてくれるから、しばらくの間、母の治療の手伝いと、叔母のところで侍女としての教養や礼儀作法や言葉のレッスンの両方をこなして、宮廷に出仕する準備をしていたの。


 でもそれから数ヵ月後、私が叔母のもとに滞在していたときに、母が山賊の一団に襲われてしまって。あのときは本当に目の前が真っ暗になったわ。どうしていいかわからなかった。でも叔母に諭されたのよ。宮廷に出仕するのは、あなたのお母様の遺言でしょって。リッカルドがすべて必要なものも用意してくれて。それで出発したの。17歳になる少し前だったわ。


 一番多感な時期を、皇帝の姪の侍女として仕えたのは、ラッキーだったわ。予想と違ってアナスタシア様は、とてもフレンドリーな方で、周りに笑いが絶えなかったし、恋の戯れも、それなりにね、楽しんだわ。食事も着るものも、いろいろな贅沢を許してくださって、本当に夢のようだった。

 そうそう、あるときアナスタシア様の護衛の任務についたカルロスとも再会したの。でもね、そのときは私、彼の前任者の一人と付き合っていたのよ。彼、それを知った途端、私と口を利いてくれなくなったわ。そこまであからさまにしなくてもいいのに、って思ったけど。

 一度だけ彼が剣術の御前試合で怪我をしたとき、私が治療してあげたことがあった。治療中ずっと、すごく思いつめた目で私を見るから、一晩だけ恋人同士として過ごしたわ。その翌日からアナスタシア様が、後見をしていた娘の堅信式で遠出されるとかで、お休みをいただいていたものだから、部屋からそっと抜け出すことができたの。でも二人の仲はそれでおしまい。私は楽しい毎日に忙しかったし、彼もいろいろ飛び回っていたようだから。


 そんな毎日を過ごして3年ほどたったある日、リッカルドから連絡が入ったの。叔母の容態が急変したって。私の最後の身内だから、アナスタシア様に無理いってお願いして、宮廷から下がらせてもらったわ。ほんの数日のつもりが、治療してもなかなか病状が治らず、「いつ戻れそうなの?」というお手紙にもはっきりお応えできなくて申し訳なくて、結局一月たったときに、そのまま、侍女の立場を解いていただいたの。


 実は叔母の看護中、ある男性と恋に落ちたのよ。噂で、カルロスが婚約すると聞いていたし、最後の肉親を亡くしてしまうかもしれない、とすっかり気弱になっていたから、甘い言葉をささやかれて、思わずクラっとしたのね。でもその男は、母と私がコツコツためていたお金を捕って逃げていったわ。母の言葉を守らなかった私の落ち度なんだけど、あれは高い授業料だったわね。あれから、私、自分の腕だけを信じようと心に決めたのよ。あのときね、男に頼るような人生はいやだ、自分の力で生きていきたいって心の底から思ったのは。そのときから、なんとなく自分の知識と経験を活かして、商売ができないかって考え始めたの。



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