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オーパーツを探せ

 百年後のジオ東京から帰って来てから三週間ほど経ち、夏休みも終っていた。

 私は通常の生活に戻って、学校帰りに友達とカフェに寄ったりカラオケに行ったりと、普通の女子高生の生活を楽しんでいた。でも、未来の日本に起きた出来事が頭を離れなくて、これからどうして良いのかわからなくなっていた。

 たとえば、私の腕に蚊がとまっていて私の血液を吸っている。そんなときにさえ、この蚊を叩いて良いのだろうか? 叩いて殺してしまったら何か未来に影響するのではないか? もしこのまま血液を吸わせて生かしておいた場合、この蚊によって病原菌などが運ばれてしまい、未来に重要な関わりを持つべき人の生命に危機が生じるのではないか?

 また、道を歩いているときにも、未来において重要な働きをする生物(蟻などの昆虫とか)を踏みつぶしてしまうのではないか?

 通学の電車に乗り遅れそうになった時でさえ、ここで急ぐべきなのか? 急がずに次の電車に乗った方がいいのではないか? などと考えてしまう。

 人間が生きて行くと言うことは、大小さまざまな選択をしていることに気付かされていた。


 そんなある日の昼休みにみらいからメールが来た。また妙な事件が起きているらしい。放課後に友達の誘いを断って、品川駅近くのホテル内にある国際平和管理機構の事務所に向かった。

  私が国際平和管理機構に着くと、みらいは先に到着していた。川島さんと紅茶を飲みながら楽しそうに話をしていた。なんだか、今日のみらいは機嫌が良いみたい。この機嫌の良さは紅茶と一緒に出されているクッキーがとても美味しいからなのか? それとも久しぶりに川島さんとふたりで話が出来たせいなのか?

 その川島さんは私の為に紅茶をいれてくれた。


「あかりさんも到着しましたね。ふたりが揃ったところで、早速今回の依頼の話しを始めたいと思います。今回は日野早苗さんからの依頼です」

 日野早苗さんとは、夏休みにライトの捜索に行って、百年後の世界で知り合った、国家安全保障局のエージェントだ。

「え~、また未来がらみの仕事ですかぁ~」

 みらいが不服そうに言った。たぶん私もおもいっきり不満な顔をしていただろう。

「まあ、そう言わないで下さい。未来の日本国政府からの正式な依頼ですから」

 川島さんが申し訳無さそうに言った。

「それで、どんな依頼ですか? もう未来に行くのはイヤですよ!」

 みらいがきっぱりと宣言した。

 私も同感だった。未来の国家安全保障局も警察も胡散臭うさんくさいったら有りやしない。おかげで未来の警察官になっていた萌絵さんの事も、とても良い人そうだった国家安全保障局の早苗さんの事も信じて良いのか判らなくなっているんだから。

「未来には行かなくて大丈夫ですよ。日野早苗さんによると、未来の犯罪者がこちらの時代に有ってはならない物、いわゆるオーパーツをタイムチューブで送り込んでしまったそうです。そこでふたりにそのオーパーツの捜索と回収をやって欲しいのです」

 みらいは全くやる気が無さそうなので私が質問をした。

「そのオーパーツってどんなものですか?」

 川島さんが少し困った顔をしている。イヤな予感がした。またアバウトな依頼じゃ無いよね?『どんなものかはわからないけれど、この世界に有ってはならないものです』なんて言わないよね?

「今回探してもらうオーパーツは、未来のエネルギーボックスだそうです。一応動画が有るので見て下さい」

 川島さんが机の上からタブレットを取り動画を再生した。どうやら今回はそれほどアバウトではないらしい。

 みらいと私はその動画を見た途端に声を揃えて叫んだ。

「かわいい~、なにこれ!」

 動画に写っていたのは、全体に黒いけど顔とお腹が白くて、黄色いクチバシが有って、小さい羽の様な手と水かきの付いた短い足を持っていてヨチヨチ歩いている。そう、ペンギンだった。

「ペンギンだー! でも、なんでペンギンがオーパーツなの?」

 みらいが嬉しそうな声をあげた。

「ペンギンそっくりなのですが、いわゆるロボットだそうです。現在お台場辺りに居る様ですから明日、捜索に行ってもらえますか?」

「行く行く! 行きまーす」

 みらいが満面の笑顔で答えた。

「このペンギン型ロボットなのですが、エネルギーボックスとしての機能が有るそうです。これ一体で、現代の原子力発電所三基分位のエネルギーを放出することが可能だそうです。しかし、通常状態ではエネルギーを放出することは無いので、危険は無いと思います」

 危険が無いのは良い事だけれど、本当に危険は無いんだろうか? そんな大出力のエネルギーボックスが自分で歩きまわるって事は、それなりにセキュリティシステムとかが働く様に出来ていそうなものだけれど……。

 翌日は土曜日なので学校は休みだ。みらいとふたりで午前中からお台場に向うことにした。


「あかり~、ペンギンさんはどこにいるかなぁ」

 動物園に連れて来てもらった子供の様に、私の手をしっかり握ったみらいが言った。

「普通のペンギンだったら水が有る所に居ると思うんだけど、ロボットだからどうだろう?やっぱり水に浸かったりしたらまずいのかなぁ、それとも完全防水になっているのかな?」

「取りあえず水際から探そうか」

 みらいと私は手を繋いだままお台場の水際を捜索することにした。台場公園とかレインボーブリッジの下とか、お台場海浜公園のビーチや海上バス乗り場なども捜索した。人間が入っていると思われるゆるキャラ風着ぐるみのペンギンなら居たけれど、動画にあった様なロボットのペンギンはなかなか見つからない。

「あかり~、疲れたよ~、お腹すいたよ~」

 みらいが甘えた声を出した。たまに、みらいは私にとって『姉』であると言うことを忘れさせてしまう様な態度をとる。


 私達はレストランでお昼ごはんを食べることにした。ちょっとオシャレなレストランに入って周りを見回すとカップルばかりだった。

「みらいさぁ、世の中にはなんでこんなにカップルが多いんだろう?」

「それは人間の心には愛が存在するからだよ。未熟なあかりには解らないだろうけどね」

 みらいが哲学的とも取れる様なわけのわからないセリフを吐いた。しかし後半部分は認めたく無かった。

「未熟ってなによ! 私だって……」

 そこまで言って『しまった!』と思った。みらいがニヤニヤしているのに気付いたからだ。まずい話の展開に持って行かれるに決まっている。

「そうだよね。あかりも最近、カップルの仲間入りしたもんね。お姉ちゃんもうれしいよ」

 ヤバ! やっぱりそっちに持って行くんだ!

「ライトとはそんなんじゃ無いんだからね!」

「へ~、ライトくんのことは呼び捨てなんだ。ということは、ライトくんも『あかり』って呼び捨てなのかな?」

 しまった! みらいやルナさんの前では『ライトくん』って呼んでいたのに。何だか顔が熱いよ~。

「まあ良いでしょう。ふたりの仲が良いのはね、パパもうれしいよ」

 ク~!『パパじゃ無いだろう!』って叫びたかったけど、あきらめた。これ以上この話を続けるとますますヤバい方向へ行きそうだ。私は暫く声を失うことにした。

 みらいはその後もしばらく私とライトの事を話していたけれど、私はひたすら黙ったままで目の前の食事を平らげることに集中していた。おかげで美味しいはずの料理も味がよくわからなかった。

 

「さて、あかりをからかうのもこのくらいにして、ペンギン探しを再開しようかね」

 この言葉に救われた私は、みらいの後ろに付いてレストランを出た。午後の捜索は水辺から離れて、テレビ局の周辺やショッピングモール辺りに切り替えることにした。

 テレビ局の周りにはそれらしい物は無かったが、ダイバーシティ前のガンダム周辺に人だかりがしている。ガンダムの足元辺りから「キャー、カワイイ」とか「なんでこんな所に居るんだ!」とか言う声が聴こえてきた。間違いないだろう。あそこにペンギン型ロボットが居るに違いない。みらいと私は人だかりに近付いて行った。

 私は人だかりの肩越しにペンギンを見付けた。なぜかペンギンは観客の前で大道芸人のように踊っている。

「みらい、居たよ! でも、どうしよう? あんなに人が集まっちゃてるよ。私達があそこでペンギンを捕まえるのって不自然だよね?」

 みらいの方を見ると、人垣の足の間からキラキラした目でペンギンを見つめている。

「そうだね。不自然だね。う~ん、どうしよう?」

 あれだけの注目の中で、女子高生と女子高生か女子中学生にしか見えない女子大生が大道芸人のようなペンギンを捕まえていたらニュースになっちゃうでしょ。テレビ局もすぐそばに有るし……。

「しばらく監視をするしかないかな。人目が無くなるまで……」

 みらいの提案に乗るしか無さそうなので、人だかりから少し離れた植え込みの段差に腰掛けてペンギンの監視をすることにした。

 

 ペンギンを見て歓声をあげたり写真を撮ったりする人達は次々と入れ替わっている。太陽も西の世界に移動して天空の主役は月に変わったけれど、人目はいっこうに無くならない。

「あのペンギン、何様のつもりかねえ? 人気タレントにでもなったつもりなんじゃないの?」

「ホント、いいかげんにしろっての!」

 みらいと私の言葉も汚くなってきた。そんな時、事態は急変した。

 さっきまでヨチヨチ歩いたり踊ったりしていたペンギンがいきなり走り出した。ペンギンのイメージをくつがえすスピードをみせて走り去って行く。

 ほんの数秒でペンギンの姿は確認出来なくなった。

 ペンギンの豹変ぶりに、みらいと私は呆然と見送ることしか出来なかった。

 数十秒後に我に返ったみらいと私は、ペンギンの走り去った方向を探したけれど見つけることは出来なかった。悔しいけれど、今日の捜索は打ち切りにして帰るしか無かった。


 みらいの提案で翌日はルナさんとライトに応援を頼むことにした。午前中に国際平和管理機構の事務所で待ち合わせをした。

 昨日の失敗をもとに川島さんに頼んで、あるものを用意してもらっていた。

「ライトくんとあかりはそれに着替えてね」

 渡された紙袋の中には品川水族館の制服が入っていた。

「なんですか、これ?」

 ライトが不思議そうに首をかしげている。

「私とルナちゃんとでペンギンを見つけるから。ライトくんとあかりは協力してペンギンを捕まえてね。詳しいことは待機中にあかりから聞いてね」

 みらいの説明では理解することは不可能だ。だって、ペンギンは未来から来たオーパーツで、その捜索と回収が今回の依頼だと言うことが抜けているんだから。ルナさんとライトにはなんでペンギンを捕まえるのか解るはずが無い。

 それでも、とりあえず着替えてお台場へ向かった。


 私とライトは品川水族館の制服を着て、捕獲用の網と台車に乗せたケージを持ち、ダイバーシティ近くの駐車場で待機していた。

 みらいとルナさんがペンギンを探している間に、ライトに事態を説明した。

「ペンギンがオーパーツ? 陸上のペンギンの動きはのろいから簡単に捕まえられるだろう? なんでこんなに大げさになるんだ?」

「ライトはあまい! ペンギンと言ったって相手はオーパーツだよ。その上、原子力発電所三基分の出力が有るんだよ。走る速度だってハンパじゃ無いんだからね」

「ホー。そのペンギンのスピードを甘く見ていたみらいさんとあかりは、昨日ペンギンに逃げられてしまったと言うわけですかな」

 くやしいけれど図星だった。

「うるさいなぁ! そんなことどうでも良いから、しっかり捕まえてよね!」

「なに怒っているんだよ。ホントの事を言われただけだろ」

「昨日は情報が無かったから仕方なかったの! 国際平和管理機構の依頼はいつだって大事なところが抜けているんだから!」

 私がデリカシーに欠けるライトの言葉に腹を立てているときだった。みらいからの電話が私のスマホのバイブレーターを作動させた。


 ペンギンは昨日と同じガンダムの足元で踊っているらしい。ライトと私はガンダムへと急いだ。ペンギンの周りでは、見物客が取り巻いて、写真を撮ったり歓声をあげたりしている。でも、今日は水族館職員の制服だからペンギンを捕まえても不自然では無いだろう。

「スミマセン、スミマセン」

 私とライトは見物客をかき分けて最前列に出た。


 私とライトはペンギンと対峙たいじした。

 ペンギンはこっちの思惑を察知したようだ。

 ペンギンの癖に私達をじっと見据えて身構えている。

 数分間の睨みあいの後、ライトがペンギンに魚を与えてみた。

 ペンギンは全く反応しない。

 当然だよね。外見はペンギンでもエネルギーボックスなんだから……。

 ライトと私はペンギンの左右に別れて攻撃および防御の態勢を整えた。

 ペンギンはライトと私を値踏みするように交互に見た。

 そして攻撃対象をライトの方に決めたみたいだ。

 ペンギンはライトに向かってクチバシでの攻撃を開始した。

 外見に似合わず、意外に素早い身のこなしだ。

 ライトは捕獲用の網の柄で応戦しているが、防御に手いっぱいで攻撃に転じることが出来ないでいる。

 私がその隙に後ろから網を被せようとしたときだった。

 ペンギンは突然攻撃目標を私に変更した。

 振り下ろそうとした網をかいくぐりクチバシ攻撃をしてきた。

 私は身体をひねってクチバシを避けたけど、不覚にも尻もちをついてしまった。

 ペンギンは倒れた私の顔に向かって飛びげりを放った。

 ペンギンの足には可愛らしい外見に似合わない鋭い爪が備わっている。

 あの爪が顔に当たったら私の顔は無惨なことになるだろう。

 ズタズタに引き裂かれた自分の顔を想像したくは無かったけれども、こういった場面ではなぜか時間の流れが遅くなるものだ。

 身体は動かないくせに脳だけは動いて嫌な想像が頭の中に広がってゆく。

 ペンギンの鋭い爪が私の皮膚を切り裂き、肉をえぐってゆく。

 血液が噴き出し、見るも無残な私の顔が完成する。

 そんな風景が頭の中でスロー再生されていた。

 その時、ライトの繰り出した網がペンギンの足に絡みついた。

 ペンギンの鋭い爪先が、私の顔の手前五センチで停止した。

 私の顔は見るも無残な状況になる事を回避出来た様だ。

 ペンギンは網を振りほどこうと暴れたが、暴れれば暴れるほど足が網に絡みついてゆく。

 ペンギンは全身に網をまとった形で動けなくなっていった。

 ライトのおかげで無惨な顔になるのを免れた私が、ケージのふたを開ける。

 ライトはペンギンをケージの中に入れた。

 任務終了だ。


「あかり、大丈夫か?」

「うん、助かったよ。ありがとう」

 ふたりでペンギンを入れたケージを押し始めると、周りを取り巻いていた観衆も思い思いの方向に去って行った。

 人垣が崩れるとみらいとルナさんが近付いて来た。

「ペンギンだ~! かわいい」

 みらいがケージの中のペンギンを見ながら無邪気な子供みたいにはしゃいでいる。

「かわいくなんかないよ! 私、大変なことになるところだったんだからね!」

「でも、かわいいよ。ほら、手足バタバタさせているよ」

 妹の危機にこの態度は無いでしょう。まったく!

「ご苦労様。なんとか回収出来たね。このペンギンは私とみらいちゃんで届けておくから。あんた達はお台場観光でもしてから帰っておいで」

 ルナさんが紙袋に入ったライトと私の服を手渡しながら言った。

 

 トイレで着替えを済ませた私とライトはお台場の海を見ていた。

「あかり、最近悩み事でも有るのか?」

「えっ、どうして?」

「ジオ東京の件以来、ボーッとしているときが有るだろ。何か考え事をしているみたいに……」

「うん、あれからいろいろ考えちゃうんだよね。毎日こんなことしていて未来は大丈夫なのかな? なんてね」

「どんな風にしていたって『未来』は『俺達の未来』なんだから、それで良いんじゃないか?」

「そうだね。ありがとう。ライトは私のことちゃんと見ていてくれるんだね」

「決まっているだろ。これからもずっと見ているからな。あかりも俺のことちゃんと見ていてくれよ」

 ライトの腕が私の肩を抱き寄せた。

「うん」

 そう答えるのがやっとだった。うれしくて涙が出そうだったからだ。

 でも私には分かっている。みらいとルナさんが物影からこっちを見ていることを……。



 翌日、川島さんに呼び出された。学校帰りのわたしが品川の国際平和管理機構の事務所に着いた時には、みらいとルナさんとライトが既に来ていた。

「遅くなってすみません。また新しい事件ですか?」

「あかりさん、ご苦労さま。今日は新しい任務の話では無いのです。今回の事件や、今後の事について少し話をしておきたいと思って集まってもらいました。最近、皆さんの担当した事件では、皆さんが不安に成る様な事が続きましたからね」

「未来のことですか? 私達が何かする事に依って未来が変わってしまうといった様な事でしょう? タイムチューブとかペンギン型のエネルギーボックスとか、変なものが出来ているみたいですよね」

 ルナさんがそう言うと、川島さんが私達の顔を見渡した。みらい・ライト・そして私は頷いてルナさんの発言を支持した。川島さんは優しい微笑みで私達を見ながら話を始めた。

「今日、話しておきたいと思ったのもその未来の事なのです。私は、山崎萌絵さんや日野早苗さんの居る未来が、私達の未来であるとは思っていないのです。もしも私達の未来なのだとしたら、彼女たちが私達の時代に現れたり、何かしらの関与をしたりした時点で未来は大幅に変化してしまう可能性が高いと思うのです」

 川島さんがそこまで話した時、みらいが口を挟んだ。

「萌絵さんや早苗さんが来る事も歴史に含まれているっていう事は無良いんですか?」

「その可能性が無いとは言えませんが、どうでしょう? 私個人の考えですが、その確率はかなり低いと思っています。彼女達が来ることが出来るのならば、もっと未来の人達は、もっと気軽に時間旅行を楽しむのではないでしょうか? 私達が外国旅行を楽しむように……。それくらい時間旅行が一般的になったら歴史だってそれを拒むことは出来ないでしょう? それに、歴史で決まっているのだとしたら、私達の行動や決断の全てが、あらかじめ決められている事になってしまいます。究極の運命論ですよね。その様な考え方も有るのかも知れませんが、私は彼女達が私達の未来からでは無く、私達の世界とは別の世界、つまりパラレルワールドから来たと考えたいと思っています」

 私は川島さんが何を言っているのか解らなくなって来ていた。時間旅行もパラレルワールドも、どっちにしても現実的とは考えられない。どちらにしても、SF小説やアニメ・映画などではよく見かけるけれど、それと現実がリンクするなんて考えられなかった。

「あかりさんはダークマターって聞いたことは有りませんか?」

 突然の問いかけに私はうろたえた。しかし、ダークマターという言葉は聞いたことが有った。

「聞いたことは有ります。アニメとかゲームとか……そんなところで……」

「ダークマターはSFだけのものでは無く、現実の科学でもその存在は確認されている様です。このダークマターとは、われわれ人類にとって、見る事が出来ない物質の事なのです。この宇宙に存在する物質の中で、われわれが確認する事の出来る物質は、十五パーセントしかありません。残りの八十五パーセントがダークマターと呼ばれている物質だと言うことです」

 ライトが驚きの声をあげた。

「十五パーセントしか見えていないんですか?」

「そうなのです。しかし、これは物質として考えられている物だけに限ってなのです。宇宙全体を考えると、私達が見ている物質とダークマター意外にもダークエネルギーと呼ばれている正体不明のものが存在するらしいのです。全体の割合は、通常物質が約四パーセント、ダークマターが約二十三パーセント、そして正体不明のダークエネルギーが約七十三パーセントだそうです。つまり、私達は全宇宙の四パーセントの中で生きているようなものです。私は科学者では無いので、実際のところは解りませんが、四パーセントの世界で生きている人が居るのならば、他の九十六パーセントの中で生きている人達が居たって不思議じゃないと思うんですよね。そこにパラレルワールドが存在したって不思議ではないと思っています」

 私にはますます理解できない話になって来た。みらいとルナさんも頭の上に巨大な『?』を浮かべている様に見える。ひとりだけ真剣な顔で川島さんを見つめていたライトが私を見て、ニヤニヤしながら言った。

「あかり、何を言っているのかさえ解らないって顔になっているぞ」

「なによ! どうせ私にはわからないよ。だって、ダークマターとかダークエネルギーなんて、科学者にだってわからないものでしょう? 私にわかるはず無いじゃない!」

「なにを怒っているんだよ。川島さんはダークマターやダークエネルギーの事を理解させようとしている訳じゃないだろう? 俺達はそんな訳のわからないものだらけの世界に生きているんだ。だから未来の事なんか気にしないで、自分達がやるべき事とかやりたい事をやれば良いって事を言っているんだろう? そうですよね、川島さん」

「その通りです。皆さんが山崎萌絵さんや日野早苗さん達の世界のことを気に病む必要は無いということです。皆さんはこれまで通り、私達の世界の平和を維持する為に活動して下さい。よろしくお願いします」


 なんだかわかった様な、わからない様な変な気分だけれども、まあ良いか。これからも今まで通りで良いんだよね。今まで通り、週末はエージェントってことで……。

「あかり、これからルナさんとスイーツ食べに行くんだけれど、あんたも行くでしょ? 難しい話を聞いちゃったから、脳みそに糖分補給をしないとね」

「行く行く。ライトも行くでしょ?」

「あ、うん」

 私はライトの手を引っ張って、みらいとルナさんの後を追った。



最期まで読んでいただきありがとうございます。

ご意見・ご感想・ご指摘などを頂けたら嬉しく思います。

ついでにブクマ・評価も頂けると狂喜乱舞します。


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