変な方向への道(2)
いつも通り、磨夏から預かっている例の本を女子部室に届けに行く。
いつも通り扉をノックして入る。普段は「どうぞ~。」と中から聞こえてきてすぐ入れるのだが、今日は違った。コンコン。特有の金属音が響く。
「ふふぇぁあ!?」
何だ!?すずみの声だ。何か今入ったらまずそう。一瞬扉から離れる。
「ちょっと待ってくださーい!」
磨夏の声に従って、扉の前で待つ。中からヒソヒソと話し声が聞こえる。何か仕掛けられてるのか?
「いいですよー。」
「わかった。入るよ。」
警戒しつつ扉を引く。いきなり視界が真っ白に。背中が固く冷たい扉に当たる。うげっ、股間に骨っぽいの直撃してる痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!!!!!!!!!
「す、すすす、すいません!!」
磨夏の大きな声で我に帰る。えっと…磨夏が僕の上に馬乗りになっていて…手にはエロ雑誌、あぁ、大体状況はわかった…。
「もー、まなったらドジなんだからぁ。」
そう言うすずみの方を見て唖然とする。制服を途中まで着た状態で、下着やら素肌やらが丸見えだった。それに気づいたのか、すずみが恥ずかしそうに後ろを向く。僕は無言でうつむく。やっぱ状況がよくわからない。
「…えっと…どうなってるの?」
すずみがちゃんと着替え終わってから聞いてみる。
「すずみが着替えてる時に斬さんがノックしたんで、少し待たせようとしたんですけど、すずみが…アハハハは、すす、うへへ、はは……」
笑って言葉になっていない磨夏。すずみが顔を真っ赤にしながら事実を告げる。
「スリルのある着替えを…」
「え?」
耳を疑う。
「スリルある着替えをしたかったんですぅ!!」
「んなもんにスリル求めるなよ…。」
「まなが斬さんに雑誌被せてる間に着替えようとしたんだけど、まながドジったから…。」
「まぁ、そうなのか。とりあえず、磨夏。僕から下りてくれないか?」
磨夏は今気づいたかのように急いで立ち上がる。股間がすごく痛い。磨夏の膝め。
「あ、すいません!!別に変な目的とかやりたい願望とかじゃないですからね!!」
「…あえてスルーするよ。はい、本。」
「…ありがとうございます。」
「にしても…これで3巻だが一体何巻まであるんだ?」
「18です。」
さらっと言う磨夏。
「…そんなにあんのか。」
全巻隠しきれればいいけど。ここで渡してることとか。杏から見つけられたらどうしよう。
「よかったら読みます?」
「はい!?」
「私もー!」
すずみがすごい笑顔で言う。
「すずみに先に読ませていいよ。…僕は考えとく。」
「本当ですか!?ありがとうざいます、斬さん!」
すずみの笑顔がすごい。どんだけ嬉しいんだよ。
「んじゃ僕は戻るよ。」
あ、そう言えば僕に磨夏が被せたエロ雑誌はどんな内容だったんだろう?ま、いいか。磨夏に馬乗りされた時はマジで驚いたな…。いい香りしたし。
…もしかして今、人生絶頂期?女子部室に呼び出され馬乗りになられ、ちょっとした裸状態も見ることができた。いいねぇ…。
悦に浸りながら扉を押して出ると、唯一女子部室が見えやすい辺りに同級生の牧田星夜と2年4組の委員長、岸田京奈がいた。やべぇ、目が合った。そいつらと逆方向に行く。そして、何事もなかったかのように教室に入った。
5分後くらいに、星夜も入ってきた。何事もありませんように…。こうして、朝の会が始まってその日は何事も無かった。セーフ。
次の日。部室を出ると、ちょうど見える位置に人だかりができていた。やべぇ!!!逃げろ!!!この事を広めたのはどう考えてもクソ委員長の方だ。去年僕と同じクラスであいつが副委員長やってたけど、口の軽さはクラス1だった。あの野郎!!!!!!
早足で歩いて、もう少しで教室というところで捕まった。囲まれた。終わった…。
「よりによって女子部室にお持ち込みですかぁ?趣味悪いねぇ。え?」
相手の神経をわざわざ逆撫でするような口調。うぜぇぇぇ…。去年から変わってない。
「何やってたんだ教えろ!」
「朝っぱらからとかさ、マジかよ。」
「わかんねぇよ、夜中あの狭い部室でお泊まりかもよ?」
「ふざけるな!!」
「斬になりたい。」
「俺出てきた女子の方も見たけどどっちもスタイルはいいけど胸は微妙だったぜ?片方は出っ張りの存在の確認すらむずかったぜ?」
「マジかよ。」
「待て、斬ってそういう趣味?」
男子の欲まみれの言葉が聞こえる。それに混じって女子の冷たい意見やちょっと興味を持ったような声も聞こえる。
「委員長がんなことやってんじゃ、終わりじゃん。」
「成績優秀委員長はまさかの性欲の塊…。」
「ねぇねぇ何があったの?」
「斬が女子部室でやらかしたらしいよ。」
「マージでー!?」
「斬ってそういう人だったの?」
説明した方いいのかな?それとも無言を貫き通して冷めるのを待つ?いっそぶち切れる?
「何か言えよぉ、性欲委員長?」
言った方いいの?
「無言ってことは、マジなの?」
これは説明した方いい流れかな。
「まぁ待て待てギャラリー。ここは斬の説明聞こうよぉ。なぁ、斬よぉ?」
何かいい嘘無いかな。よし、これだ。
「ほら、卓球部って人数少ないから男女合同だろ?だから、全員帰った後の忘れ物チェックとかも2年男子が部室見て回るんだよ。つっても、皆帰っちゃうから僕が部室チェックしなきゃいけないわけ。でも昨日その時にカバンにぶら下げてた僕の家のカギ落としちゃって、今朝探しに入ったんだよ。そしたらあの2人の女子部員がいたんだ。わかった?」
「本当かよ。」
「待て、じゃあ何で近くの廊下にいた俺らにまで聞こえる大声が聞こえたんだ?」
その件についての言い訳は考えてなかった!!どうしよう。ええと…。
「やっぱ何かしたんだろ。」
「この変態!!」
「待って声って何?喘ぎ?」
「あの位置から廊下まで聞こえる喘ぎ声!?」
「激しすぎるだろ。」
「よくやったぞ斬!!」
あ、いい言い訳思い浮かんだ!
「その声は!!」
大声で会話を断ち切る。
「その声は、僕が部室で盛大に」
「盛大に噴射!?」
「盛大!?」
「そういうのじゃなくて!!ただ、盛大にスッ転んで、棚の角で手首切って結構血が出たんだよ。それでも僕最初気づかなくて、気づいた後輩が大声出して驚いたってこと。その後輩、出血とか苦手な人だったから。」
そう言って、昨日湖のチャリを修理した時についた傷を見せる。この言い訳に納得して人混みから去る人もいた。けれども、大半の人は疑念を持った目でまだ僕を追求する。
「赤い液体ではなく白い液体に驚いたのでは?」
「その可能性、大だな。」
チャイムが鳴り響く。よし、タイムアップだ!!
「仕方ない、時間だ。教室に戻るぞ。」
その辺はしっかりしているクソ委員長が声をかけ、全員が各教室に散る。よし、助かったー。あー、けど絶対変な噂たつよなこりゃ。なんとかなるだろうし、ま、いいか。




