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南町さんの家庭事情(2)

 山を下りると、南町さんとすずみ、『Moooon』のメンバーが駅前で待っていた。

「お前ら!無事かよかった…。」

南町さんがすんごく心配そうに話しかけてきた。

「ほんとすいません…。」

「おい、そっちの男。」

鰒逝さんが声をかけてきた。うわ、すごいオーラ…。

「僕ですか?」

「そう、お前。いい根性してるじゃないか。」

「…ありがとうございます。」

いかにも軟派っぽい感じのドラマーも声をかけてくる。

「あの状況でほっといたら、確実にそっちの女の子は脱がされるだけじゃ済まなかったからなぁ。男だねぇ、お前さん。」

「は、はぁ…。」

ベーシストの人がスマホをいじりながら言う。

「にしても、あんた飛んだのはやり過ぎじゃあないか?ネット上じゃ化け物扱いだぜ?」

え…。そんな…。でもあの状況じゃそうするしかなかったくね?力を駆使して人混みこじ開けて逃げたとして、ケガ人出る可能性もあったし…。けど、磨夏は助けないといけなかったからやっぱ飛ぶしかなかったんだよな…。

「…けど、最小限の被害で抑えて磨夏を助けるためには、あれしか僕は考えられなかったので…。とりあえず磨夏を無事に助けられたなら、僕は何と言われても気にしませんよ。」

「なっ…!」

隣で磨夏が真っ赤になる。思わず声まであげていたようだ。僕は気づかなかったが。ドラマーがハハハハと笑う。

「お前さん、やっぱいい男だよ。こういう人は大切にしてあげな、彼女さんよぉ。」

「はっ、はひゅぃ!?!!?」

磨夏がまた真っ赤になって声をあげている。すずみも驚いた顔でいる。どうやらこのドラマーの方は大きな勘違いをしているようだ。

 「さて、人もだいたいいなくなったな。もう1曲やるか?」

鰒逝さんが言う。えっ、マジで?僕達だけが聞けるシークレットライブ的なもの?

「おう。ヘイ、トラック!!もう1回準備だぜぇ!」

「んじゃ、いくか。」

こうして、『Moooon』は僕達だけにロックを奏でてくれた。

「おぉ、『花』じゃん。」

南町さんが言う。『花』は、男性が彼女を誇りに思う気持ちを歌ったハードロックの曲である。

 曲が終わり、時間が押していることから『Moooon』のメンバーはすぐにトラックに楽器や機材を積み込み、去っていった。

「ちょっと、俺に付き合わないか?」

メンバーと父親が去るのを見送ってから、南町さんが言う。僕達は当然のように同意した。

 2時50分ちょっと前くらいに、僕達は公園に着いた。向かい合ったベンチに座る。

「久しぶりに間近で父親みたらさ…昔のこと思い出しちゃって…暗い過去なんだけどね。」

そう言って、南町さんは語り出した。

「俺、いっつもでけぇスピーカー2つひっさげて戦ってるだろ?あれ、母親のなんだ。父親も母親も、Moooonのメンバーだった。俺が7歳の時だったかな。当時、Moooonは内部対立の真っ只中だった。まだ全国的な有名バンドじゃなかったから、この辺に家族全員住んでた。家庭内もピリピリしててさ、父親がギターで母親を殴り飛ばそうとまでしてた。それを俺は許さなかった。まだガキだったのに、『本物のロックを教えてやる!』とか言って父親のギターを掻き回すように弾いた。それが、どっちの心にも良かれ悪かれ影響を与えた。母親はMoooonから脱退した。父親は、曲を書いた。その曲が爆発的に大ヒット。その曲ってのが、『only help me』。それからもどんどん超特大ヒット飛ばして、今となっては日本を代表するバンド。母親の脱退でメジャーになったんだから手放しには喜べなかった。しかも、行方不明だった母親は東京で死んで見つかった。クスリ飲みまくったんだそうだ。部屋には俺と父親の写真が並べてあったそうだ、切り裂かれてな。よほどムカついたんだろうな、7歳にしてかじりかけのロックを語った俺が。何をしたか知らないが、内部対立を起こした父親が。そのあと、東京からスピーカーが2つ送られてきた。遺品扱いで。父親はそれを僕にくれた。父親は、超有名になっちまったから東京に出ていった。親戚に世話を任せたらしいが、その親戚も頼りない。だから、俺は家に置いてあったギター1本とスピーカー2つに任せて、ロックに浸った。ほんとに、つらいことだった。けど、おかげで?そのせいで?ロックンローラーの才能を開化できるようになった。そのおかげで、今構築されている人との繋がりがある。まあ、そういうことなんだ。」

「…お母さんの死に方、悔しんでいますか?」

僕は聞いてみる。

「んー…よく分からん。ただ、もういない人悔やんでも意味ないじゃん。だから、気にしないことにしてる。」

強い人だ。素直にそう思った。僕は、いっつも悔やんで悔やんで悔やんで…。南町さんが、ギターをつま弾き始める。『Moooon』のデビュー曲『俺が明日死んでも…』だった。

「…道踏み外して路頭に迷って 野垂れ死んじゃうなんてダッサイよ 家族も他人に顔向けできないだろうしね かと言って派手に死んだって 皆悲しむよね…」

そのあとの歌詞を、南町さんは歌えなかった。スピーカーだけが、悲しい旋律を奏でていた。

 歌が終わると、南町さんはこう言った。

「これからも戦いは続くし、お前らとは長い付き合いになると思ったから、今言ったんだ。何か隠してたら、失礼かなと思って。今日は悪いね、暗い話ばっかりで。」

南町さんの暗い過去。すべてを知って、僕達の団結はまた固くなった。南町さんは自分の過去をきちんと話してくれた。仲間のために。僕の家庭の事情も、いずれ皆に明かさなきゃいけない。けど、まだ早いよね…。

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