001 神さま、娯楽をください。
筆者の初作品です!
慣れない部分もありますが、ぜひ読んでいってください!!
魔法とは。
魔力を媒介に炎や水や風などの事象を、自然法則や物理法則を無視して発生させる術のことである。
これ位なら世間一般で言うところの常識というものであり、そこら辺の鼻水垂らしたガキンチョでも理解していることであろう。
累計発行部数一位である初心者向け書物、「魔法使いになろう! ~入門編~ 」にすら書かれていない、そんな常識である。
ちょっとした火を点けるだけの生活魔法から戦争に使われる大規模魔法に至るまで、この世には何千何万種類と魔法が存在し、人類と魔法とは切っても切り離せない、そのような関係を築いている。
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「――ついに、ついに完成したか」
グラテロル子爵家の一室にて。まだ十歳にも満たない黒髪の少年はひたすらに走らせていたペンを止め、書いていた書物を手に取った。
時刻は朝の四時半。
早起きではない、当然夜更かしである。
寝不足のせいか目元には薄っすらと隈ができており顔色も悪く青白いが、その色鮮やかな瞳にはどこか達成感と未知への好奇心を孕んでいた。
「苦節五年。………この世界に転生してからだともう十年かぁ。なんだかんだでいろいろあったなぁ」
そのような意味不明な独り言を呟くと黒髪の少年はおもむろに立ち上がり机に置かれていた大きな羊皮紙を両手で抱え床へと広げていく。
そこには不気味な模様がびっしりと刻まれていた
「でも、今日で研究生活とはもうおさらば。 俺は、――ノア・グラテロルは、ついに成し遂げたのである!!」
片膝立ちで両手を紙の上に乗せた少年は、その宣言とともに人の子のものとは思えない量の魔力を羊皮紙に流し始めた。
魔力が回路を流れ、あふれた魔力が部屋中に充満する。
期待と高揚感で浮ついた心臓をふうっと一つ深呼吸をして落ち着かせ、一息間をおいた少年は覚悟を決めたのかゆっくりとその口を開く。
「フィールド魔法、発動」
魔術回路の描かれた羊皮紙から光が漏れ、薄暗がりの朝方に灯がともった。
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「やった! やったぞ!! ついに俺は、フィールド魔法を完成させたんだ!!」
静寂に包まれた薄暗がりの一室から一変。がやがやとした喧騒に包まれる。
どこを見ても色とりどりの光が点滅し、爆音で流れる電子音が軽やかにリズムを刻み少年の鼓膜を揺らしていた。
ある家族は機械のレバーを動かしてぬいぐるみを掴もうと試行錯誤しており、メダルの入ったケースを抱える少年たちはタイミング良くボタンを押しそのたびに一喜一憂している。
剣と魔法の世界にはあってはならないアミューズメント施設、
俗に言うゲームセンターという場所に少年は立っていた。
「異世界。……嗚呼、異世界。……神様、夏休みだからと調子に乗って、飯も食わず、睡眠もとらず、ゲームのやり過ぎで死んでしまった愚かな私をこんな素晴らしい世界に転生させていただき本当に感謝しております」
少年はそういうと何もない天井を見上げ、神に語り掛けるかのように恍惚とした表情で言葉を続ける。
「あまり領地は大きくないですが裕福な貴族の三男に生まれ、優しい両親と正義感あふれる兄弟に見守られながら、大きなけがや病気など何一つない健康な身体で育ちました。前世であれだけ渇望した魔法も使え、食事はおいしく屋敷で働くメイドたちもとても美人で、何一つ不自由なく素晴らしい毎日を過ごしています」
その姿はまるで神に祈る信者のようで、機械と電気配線に囲まれた騒がしい部屋には全くもって似つかわしくないのだが、その様な奇行に走る少年に誰一人として気がついていないのか、はたまた、ただ単に危険人物との距離を置いているだけなのか、少年の存在など初めから無かったかのように気に留める者などいなかった。
「……ただ。」
少年が目蓋を伏せ言葉を呟く。
その眼には先ほどまでのとは違う物言いたげな感情が見てとれる。
「……ただ!! ……ただ!! 不満を言ってもよいというのであれば。……この世界に私の本音をぶつけてもよいというのであれば!! ――どうか、どうか、」
これだけは言わせてほしいと。せめてこれだけは分かってほしいと。おもむろに少年は立ち上がる。
瞳を伏せ、呼吸を整え、意を決したかのように顔を上げると、天井に向かって言葉を告げた。
『――娯楽を作ってください!!!!』
少年の叫びが機械の騒音を打ち消して、広い部屋中に木霊する。
「ゲーマーには……。生活リズムがくるって死んだような人間には、チェスとトランプだけの生活なんて…………暇すぎて死んじゃいますよ!!!!!」
魔法もある。メイドもある。だが、ゲームが無い。
望みが叶ったはずなのに、娯楽が無いのだ!!!!!
……だが終わったと。そんな世界はもう終わったと。
崩れ落ちた膝を奮い立たせ、少年は再び立ち上がる。
何のために研究を続けてきたのか、何のために生きてきたのか。
……全ては変えるためである。
目の前にはたくさんのゲーム機器。
ああ、オアシスはここにあったのか。
この世界で娯楽を探すのではなく、自分の手でゲーム機を作ればよかったのだ。
一歩、また一歩と。ゾンビのように、水を求める屍のように。
うつろな瞳で、おぼつかない足取りで、光るその媒体へと近づいてゆく。
「あ、あれ?」
あと数センチ。夢をこの手で掴むまであとほんの少しのところで、急に少年の視界が歪む。
方向感覚を失い、まるで貧血を起こしたかのように少年は地面にパタリと倒れ込んだ。
睡眠不足か、はたまた運動不足か。
こもりっきりの研究生活に二徹という荒業は、成長期真っただ中の十歳の子供にはさすがに負荷が大きかったのか、その場に伏したままだんだんと意識が薄れていく。
「………体力、つけなきゃな――」
そう遺言のように言い残すと少年の意識は完全に途絶え、再び世界に光が灯るとフィールド魔法は消滅し、機械であふれる騒がしい世界はもとの静かな書斎へとその姿を戻していた。




