EP 8
光の差す場所へ――泥まみれの王道
昭和15年(1940年)冬。
帝都・東京。冷たく澱んだ空気の立ち込める地下監房の階段を、近衛文麿(若林幸隆)と日野輝夜は、並んでゆっくりと上っていた。
背後の奥深くからは、もう赤山天人の泣き喚く声は聞こえない。
分厚い鉄扉とコンクリートに完全に封鎖されたあの空間は、彼が望んだ通り、誰の介入も許さない「永遠の暗闇(玉座)」となった。
彼に同調した権力者たちも、幸隆の放った『掃除屋』たちによって完全に無力化され、帝都を覆い隠そうとしていた影は、夜明けと共に完全に払拭されたのだ。
「……よかったのですか、総理」
階段を上る途中、輝夜がふと足を止め、静かに問いかけた。
「憲兵隊という組織を解体し、あのような荒事を使ってまで……。あなたの経歴に、決して消えない泥を塗ることになってしまいました」
「今更じゃろう」
幸隆は、振り返らずに短く笑った。
「ワシは最初から、歴史の教科書に『立派な政治家』として載る気なんぞ微塵もねえ。……この国を、そしてお前の信じる『誰も見捨てない世界』を守るためなら、ワシは喜んで泥でも血でも被ってやる。それが、ワシの選んだ『覇道』じゃ」
幸隆の背中は、どんなに過酷な決断を下しても決して揺るがない、巨大な山のように頼もしかった。
「……はい」
輝夜は、その広く逞しい背中を見つめ、ふわりと微笑んだ。
「あなたが泥を被ってくださるなら。……私はその泥ごと、あなたを光で照らし続けます。それが、私の選んだ『王道』ですから」
「クックッ……ホンマに、おどれには敵わんわ」
二人は再び歩き出し、ついに地下からの最後の扉を押し開けた。
「……おお」
扉の向こうに広がっていたのは、澄み切った冬の冷たい空気と、帝都・東京のパノラマだった。
東の空から、燃えるような巨大な朝日が昇り始め、無数のビルヂングや工場群、そして行き交う人々の営みを、黄金色に染め上げている。
かつて、史実(未来)において焼け野原になるはずだったこの街は今、二人のチートプレイヤーの手によって、外からの暴力にも、内からの腐敗にも、そして未来からの悪意にも屈しない「完全無欠の不沈国家」として、圧倒的な生命力を放っていた。
「見ろ、輝夜」
幸隆は、眩しい朝日に目を細めながら、愛用の『ピース』に火を点けた。
紫煙が、冬の青空へと真っ直ぐに吸い込まれていく。
「あの赤山のクソガキは、人間を『欲に溺れる弱い生き物』だと嘲笑った。……確かにそうかもしれん。じゃが、その弱さや欲を全部ひっくるめて、泥臭く前に進んでいくのが、人間の『業』じゃ」
幸隆は、輝夜の方へと振り返り、極上の笑みを浮かべた。
「ワシと、お前で。……この泥まみれで、最高に愛おしい国を、最後まで導いてやるぞ」
「はい、総理」
輝夜は、朝日の光をいっぱいに浴びながら、力強く頷いた。
その澄んだ瞳には、地下の暗闇を打ち払った、どこまでも優しく、そして決して折れることのない『月の光』が宿っていた。
「私たちの、泥まみれの王道は……ここからです」
太陽と月が、同じ空の下で並び立つ。
最強の悪党政治家と、静かなる革命家。
二人が紡ぐ、誰も見たことのない大日本帝國の歴史は、いかなる影をも寄せ付けない圧倒的な輝きとともに、これからも永遠に続いていく。




