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勇者の魔法使い ─自力で行う異世界転移─  作者: 篳篥
第1章 懐かしき『コーラル』
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第3話 欠陥魔法・【異世界召喚】


 現状を説明するためにも、俺の目的を整理してみよう。


 その場合まず念頭に置く必要があるのが、かつて俺が巻き込まれ、今回も使われたと思われる魔法【異世界召喚】である。

 これは空間魔法と召喚魔法を組み合わせて構成された魔法であり、その効果は文字通り、異世界から対象を召喚することだ。

 かつて、これは消失魔法ロストマジックの1つだった。消失魔法ロストマジックとは、世界から失われた魔法の総称である。


 消失魔法ロストマジックは大体2つに分類される。

 1つ目は、欠陥があったり代償が大きすぎたり倫理的にアレだったり……そういう要因があって封印されたり破棄されたりしたもの。これらは消失魔法ロストマジックの中でも特に、禁忌魔法とも呼ばれている。

 2つ目……というか禁忌魔法に分類されるもの以外は、単純に魔力消費がデカ過ぎたり構造が複雑すぎたりして使用者が中々現れず、自然と廃れて行ってしまったものだ。


 肝心の【異世界召喚】はと言えば、とんでもない欠陥を抱えた禁忌魔法の1つだった。

 まぁ、【異世界召喚】は魔力もバカみたいに消費する上に構成する魔法式も複雑だから、例え欠陥が無かったとしても結局は消失ロストしていたかもしれないような代物だったけど。


 そして【異世界召喚】の欠陥とは、『召喚した異世界人を任意の場所、時間に落とせない』ということだ。

 つまりどういうことかというと、召喚したはいいがその後は知らんぷり、なのである。これを知った時には、この魔法の開発者をしばき倒したくなったし、実際に使いやがった奴に至っては氷漬けにしたくなった。


 開発者に関しては恐らく、この欠陥を把握していたんだろう。だからこそこの魔法を封印していた。なのにそれを見付けたバカが欠陥を理解せぬまま復元させて使った、というのが事の顛末だったらしい。

 この時に異世界召喚された俺たちも、落ちた場所もタイミングもバラバラという酷いとしか言えない状況だった。うん、酷い。大事な事なので2回言った。

 異世界召喚ってだけでも規模のデカすぎる誘拐なのに、アフターケアすら皆無って……。

 

 さて、いきなり見知らぬ場所に放り出されて、俺が最初に出会ったのはアルフィという男だった。俺よりも2つ年上の、まだ少年と呼ばれる年代だった彼が、後の俺の無二の親友にして相棒の勇者となる男なのだが。

 何はともあれ、アル……あ、アルフィのことね。そいつとその地元・ルルス村の村人たちに保護された俺は、そこが日本では無く、地球ですら無い事を知る。

 そして恐らくは俺と同じようにこの世界に来ているであろう父さんや姉貴を探すため、更には元の世界に帰る方法を探すために旅に出た。


 言っとくけど、まんまRPGや少年漫画のノリだとか言ってワクワクしてる場合じゃ無いからな。

 旅に出る前にルルス村の人達がしばらく世話を焼いてくれて少しだけ会話も教えてもらえたし、状況を理解して旅に出る時もアルが付いて来て色々教えてくれたから助かったけど、それらが無かったら常識解らなくて早々に詰んでた。異世界パない。


 けどまぁ、紆余曲折を経て仲間も増えて行って、姉貴とも再会出来た。姉貴の無事を知って、俺はそりゃもう喜んだね。

 そして同時に、父さんの死を知ってショックを受けた。

 召喚時に互いに抱き合っていたからか父さんと姉貴は異世界に落ちた時も一緒だったようで、けれど落ちた場所が悪く、父さんは姉貴を庇って死んだらしい。山賊に殺されたのだ。


 良い子のみんな、異世界にあんまり夢を持っちゃいけないぜ。お兄さんとの約束だ。剣と魔法のファンタジーと言えば聞こえはいいけど。それってかなりバイオレンスだからな。マジで異世界舐めんな。


 その時まで自覚していなかったけれど、アルというお人よしに拾われて善良なルルス村の人達が親身になって接してくれていた俺は、実は類稀なレベルで幸運だったらしい。


 けど、そんな幸運は早々無い。


 後に調べてみたら、あの時異世界召喚に巻き込まれた人々の多くは早々に死んでいた。父さんのように。

 そうでない人も、大半が辛酸をなめていた。姉貴のように。

 俺のように、苦労しながらとはいえ初めからそこそこ順調に活動できていた奴なんて、本当にごく僅かしかいなくて。


 そして俺はかつて日本に帰って来る前、【異世界召喚】を再び消失ロストさせた。以前のように封印するのでは無く、完全に破棄した。もうあの魔法が使われることが無いように。俺たちのような目に遭う人が出ないように。


 しかし現実として【異世界召喚】はまた行われ、多くの人々が連れて行かれてしまった。これを見過ごすわけには行かない。


 だから俺の目的は大きく分けて2つ。


 1つ目が、召喚された人々を元の世界に戻すこと。実はこれが、すごく難しい。

 いや、元の世界に戻すことそのものは難しくは無いんだ。かつて作った【異世界転移】さえあればOKなんだから。【異世界転移】自体はぶっちゃけ【異世界召喚】以上に扱いの難しい魔法ではあるけど、使い手はここにいるわけだし。

 じゃあ何が難しいかといえば、原因は【異世界召喚】の欠陥にある。【異世界召喚】によって連れてこられた人々は、『コーラル』という世界の中ならば時間も場所もバラバラに落とされてしまう。

 かつて【異世界転移】を開発する過程で【異世界召喚】についても研究したため、少しは絞れる部分もある。時間に関しては、『コーラル』にて【異世界召喚】が使われてから1~2年以内だ。

 でもそれ以外は本当にランダムで、予測も付かない。


 そして2つ目の目的が、【異世界召喚】の消失ロスト……昔、完全に消失ロストさせたはずだったのに、何故かまた使われちゃったからね。今度こそやり遂げないと、また同じことが起こるかもしれない。

 つまりは、【異世界召喚】が再び世に出た原因と使われた理由を突き止めて根を断つ、ということである。


 話が長くなったが、この2つが俺の最終的な目的だ。


 そしてこの2つを成そうと思ったら、俺はそれなりに長い期間を『コーラル』で過ごさなければならなくなる。

 

 少なくとも召喚された人々を元の世界に戻すために召喚が行われてから1~2年の間は世界中に気を張たなければならないし、【異世界召喚】に関する諸々を探るのは1日2日で出来ることじゃない。


 だから俺は【異世界転移】するにあたり、召喚魔法が使われる1~2年ほど前の時間軸を目安とし、転移先は『コーラル』における俺の家に指定した。


 俺の家、とは言っているが、そこは元々俺たちのパーティが作った隠れ家だった。それが紆余曲折を経て俺個人の所有物となったのだが……まぁ、この辺の細かい事情は割愛する。

 俺が日本に帰るとなった時、その家は誰も入れないように封印した。この時点では『コーラル』に再び来るつもりはさらさら無かったため、破棄するという選択肢も有るには有ったのだけど。

 でもその敷地内には父さんや姉貴、それに散って行った仲間や友人たちの墓も作ってあってね……流石に壊す気にはなれず、封印に至ったというわけだ。

 その家はかなりの僻地……と言うのすら烏滸がましいほどのとんでもない場所にある上に、当時最強の魔法使いであった俺の魔法と最高の錬金術師であった仲間が作り上げたマジックアイテムをふんだんに使用した結界で何重にも保護していた。それはもう王城の守りですら目でも無いというレベルの凄まじい仕様だと自負できるため、恐らくはそのまま残っているだろう。

 

 日本に帰る時、俺はあらゆる物をこの家に残して行った。衣類も武器も防具も装備品も素材も金銭もだ。

 例外は食料や薬草・薬といった生ものだろうか。いやだって、やっぱそういうのを腐らせるのは勿体なかったし。だからそれらは【収納】――下級空間魔法の一種――で日本に持ち帰った。

 とにかく何が言いたいのかというと、家に行けば金も装備品もそれなりに揃っているということだ。いくら大賢者と呼ばれていても俺は神では無くただの人、先立つものが無ければ話にならない。主に金とか金とか金とか。


 しかしそれが失敗だった。

 

 先も述べたように、俺の家には凄まじいレベルのセキュリティが掛けられている。そして俺たち当時の仲間は、鍵と呼んでいたマジックアイテムを使ってそこに出入りしていた。

 鍵とはその名の通り鍵の役割を持ったアイテムで、魔力を流し込むことで個人を登録、結界に弾かれずにすり抜けるようにする一品だ。そして俺は日本に帰る時、この鍵も家に置いて行ってしまっていた。だって帰る予定無かったから。

 日本に帰還しておよそ2年半。そのことをすっかり忘れていた俺は以前と同じような感覚で家に入ろうとしてそして……ものの見事に弾かれ、『コーラル』には無事辿り着いたが指定先とは全く別の場所へと落ちてしまった。

 誰に対しても容赦しない、流石は俺の張った結界だぜ! ……なんて言ってる場合では無い。


 つまり現在の俺は、俺の家に俺が施したセキュリティによって入れなくなっているのである……つまりどういうことだってばよ? 文字通りの意味だってばよ。

 誰だよ、あそこまでガッチガチの結界張ろうとか言い出した奴は! ……あ、俺だわ。他の皆が『何もそこまでせんでも……』とちょっと苦笑いしてたのを、俺が『やるなら徹底的にやらなきゃ面白くないだろ!』と謎のテンションを発揮してノリノリで結界張りまくったんだった。

 

 結論。我が現状は自業自得なり。あ、目に汗が……。


 と、あらゆる意味での自分のアホさ加減を嘆いていてもどうにもならない。もうこうなったら気を取り直してその先の方針を立てよう。


 正直に言えば、家の敷地内に入ることは一応出来るのだ。俺が全力を出して結界をぶっ壊せば、多分何とかなる。

 ただしその場合、結界をぶっ壊した余波で我が家ももれなく吹き飛ぶだろうけど。

 なのでこの案は却下である。そもそもは先立つものを手に入れて、なおかつ折角なので墓参りもしようと思って家に入ろうとしたのだ。だというのにそれを吹っ飛ばしては、本末転倒である。

 そうでなくとも、家はともかく墓を吹っ飛ばすのは流石に忍びないし……。


 となると、別の入り口から入るしかない。一応こんな時のために、結界にも一カ所だけ穴を開けておいてあるのだ。そこから入ろう。ちょっと……いや、かなり面倒な手順を踏む必要があるけど。


 うん……やっぱり面倒だな、家に行くの……。もうこの際、家に行かなくてもいいか? 冒険者としてギルドに登録すれば、資金を稼ぐことぐらいは出来るだろうし。

 いやでも、問題は装備か。家にあるのと同レベルの品物なんて店には売ってないよなぁ、質的に。


 …………よし、決めた。


 まずは人里に行こう。そして流通してる装備品やアイテムを見て、家に行くかどうか決めよう。

 さて、そうと決まれば動き出すとしますかね。

 

 俺は青空を見上げ、1つ頷いた。



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