第26話『シモンズ隊』
翌日。
俺は歩兵隊との顔合わせをするべく、訓練場にやって来た。
チラッと中を覗くと、騎士たちが防衛に向けて訓練していた。二人一組になって組み手をしているようだ。
彼らの出す掛け声と熱気が外まで飛んでくる。暑苦しくて仕方ないが、不思議と嫌な気分にはならない。
俺もこうしちゃいられないな。
「たのもう!」
上がるテンションのままに、柄にもなく大声を出して訓練場へと踏み込んだ。
突然の乱入者に困惑する騎士たちに心が折れそうになったが、俺の勢いは止まらない。
「俺は剣士テオ!防衛作戦でこちらに配置された者だ、これからよろしく!」
「あ、あぁ……?」
「早速訓練したいんだが余ってる奴はいないか?俺も混ぜてくれ!」
「待てって、落ち着けよ。そろそろ隊長がお越しになる。その後にしてくれ」
騎士のひとりに冷静に切り返されてしまった。サウナの中で冷や水をぶっかけられた気分だ。
出鼻を挫かれて悶々とする俺に、後から入ってきた細身の男が声を掛けてきた。
「おう!威勢が良いな、新入り。兄貴の言ってたヤツだな?」
兄貴?質問の意味が分からないが、この男が隊長だろうか。
手の甲から顔面にかけて全身に残った数々の傷痕。
歴戦の手練れだ。
伸びた銀髪は無造作に纏め上げられており、どことなく侍めいた武人の風格がある。
「ん、兄貴ッつっても分からんか。俺ぁケネスの弟だよ。シモンズだ、ここの隊長もやってる」
げェーッ!
この人、ケネス卿の弟かよ!最悪だ!
「……!失礼致しました、シモンズ隊長。テオと申します。此度の作戦、ご一緒出来て光栄です」
訓練モードを強制終了した俺は慌てて膝を折ろうとする。
「やめろやめろ。そんなガラじゃねェんだ、俺はよ。オイお前ェら、ここでの作法を見せてやれ」
「「承知、シモンズ兄ィ!」」
シモンズ隊長の号令を受けて集まった騎士たちが仲良く肩を組み、円形に並び始めた。
隊長もそこに入っていき、円陣に混ざる。
「真のディアドラの守護者は誰だ?」
「「我らシモンズ隊なりッ!!」」
響く轟声に、俺は目を丸くする他なかった。訓練する者の中には平民もそこそこ混じっていると思ったが……?
「ウチじゃこれが普通なんだ。テオ、歓迎するぜ。俺の隊に同行するなら、家族同然だ」
何とも漢気溢れる人だ。
シモンズ隊長は身分を問わず、隊員たち全てを戦友として尊敬しているようだ。
隊員にアニキと慕われるこのカリスマ。彼らが心酔するのも頷ける。
……血は争えないということか。
貴族扱いを嫌がるアーデは、もしかするとこの人の遺伝が強いのかもしれない。
円陣を解いた騎士たちは、目を輝かせてシモンズ隊長の言葉を待っている。
「よし、こっからは作戦のハナシだ。異能持ちってのは兄貴から聞いてる。ちょっと見せてみな。お前ェらもキッチリ見とけ」
「承知。……赤熱」
シモンズ隊長に促されるままに剣を抜き、魔力を通す。
すると隊員たちは感嘆の声を上げ、真紅に光る刀身に釘付けになった。
なんだか覚えたての手品を見てもらっているような感覚でこそばゆい。
俺のスキルを確認したシモンズ隊長が、前方を指し示した。
その方向を見ると、鎖帷子を着せられたカカシが立っている。
斬ってみろということらしい。
俺はカカシの所へ歩いていき、構えた剣を袈裟斬りに振る。
「ふッ……!」
ミスリルソードは易々と鎖を灼き斬り、カカシを両断した。
カカシの上半身が完全に分離したのを確認した俺は魔力を流すのを止めて、ミスリルソードを鞘へ収めた。
シモンズ隊長がそれを見てパチパチと手を叩く。
「見事見事!良いスキルじゃねェか」
「派手なのは色くらいのもんですけどね」
「その色で俺らの士気は上がるんだ。やはり異能持ちはひと味違うってな、羨ましい限りだぜ」
「その、隊長は」
「持ってねェよ。貴族の次男坊で異能持ちなんて、帝国騎士団が放っておかねェからな」
なるほど。
帝国騎士団の強さはやはり、帝国各地から召集した異能持ちがカギということか。
同時に諸侯の戦力も削れるのだからタチが悪い。皇族からすると、反乱を抑える人質の意味もあるのかもしれない。
……そのせいで弱体化した国境へわざわざ帝国騎士団を派遣するのは本末転倒じゃないか?
そう思わなくもないが、政治とはそんな単純なモノじゃないんだろう。
「俺の身の上は良いとして。作戦は二週間後だ、それまでにテオは素手での格闘戦に慣れておけ。稽古は俺がつけてやるよ」
「二週間、お世話になります」
期限つきではあるが、こうしてシモンズ隊としての活動が始まった。




