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第24話『姉、襲来』

 決闘の日から一週間ほど。


 紆余曲折の後、ユーゴの身柄はディアドラ騎士団に引き渡されたそうだ。


 ケネス卿は使えるものは何でも使う性分だ。それこそ、俺みたいな素性の知れない人間を拾うくらいには。


 そんな彼は、今回の決闘を見てユーゴのことも使えると判断したんだろう。この采配は結果的に良かったと思われる。


 逆恨みでパワーアップしたユーゴが復讐にきたりしたら面倒そうだしな。

 それだったら目の届くところに置いておいた方が良い。


 もし侵略民の討伐とかがあれば、そのうち一緒に仕事する機会もあるかもな。



 それはそうと。

 俺はいま、酒場『クランベリー』にお邪魔している。


 前回の約束通り、残業を終えたオスローさんと飲みに来たという訳だ。飲み始めてから少し経っているが、中々に面白い話が聞けた。



 彼は子爵家の次男で、幼少の頃からアーデの従者として仕えているらしい。


 騎士としての経験は浅く、ディアドラ騎士団に入ってから一年も経っていないそうだ。


 とはいえ、昔からケネス卿の下にいるからか、やたらと雑務を押し付けられているんだとか。


 ブラック企業も真っ青なディアドラ家で働き続けた彼の気苦労は計り知れない。


 せめて今日だけは精一杯労るとしよう。


 

「ぷは〜!沁みるッ!!」


「オスローさん結構イケますね。もう一杯いかがです?」


「や、かたじけない!……んぐ。それはそうと、オスローで結構ですよ。同じ主に仕える立場ですから」


「子爵家のご令息と雇われ冒険者じゃ、立場は全然違うと思いますけどね。そういう事なら俺も呼び捨てにして下さい」



 オスローさん、いやオスローは相当ストレスが溜まっていたのか、どんどん酒瓶を空けていく。



 ◇



 みるみるうちに時間は過ぎていき、何度目か数える気も起きなくなった乾杯のあと。


 オスローにペースを合わせて飲んでいたら、いつの間にか二人して出来上がってしまったようだ。



「だからぁ!娘の着替えなんてやらせんなっての!俺ぁ騎士だぞ?なんなら番兵だって業務外だろうがぁ!」


「あ〜?役得じゃねーか!みんなズルいズルいズルい!こっちはナンパだって出来なかったんだぞ!」



 酔っ払い二人が拳でテーブルを叩く。

 見るに堪えないとはこの事だろうか?


 追加の酒を持ってきたウェイターさんがドン引きしているが知ったこっちゃない。


 終わらない泥沼の愚痴大会を続けていると、客のひとりがテーブルに向かってきた。



「何やら楽しそうね?わたしも混ぜて頂けないかしら」


「んあ?……今日は女性に奢るような気分じゃないんすよ。余所を当たってくれます?」


「あら、お堅いのね?剣士さまは。そちらの騎士さまはいかがかしら」



 女性は断られたにも関わらず、ニコニコと楽しそうな顔をしている。


 口説いてみたいくらいに綺麗な人だが、今日はマジでお呼びじゃない。

 せっかく野郎二人で楽しんでるんだ。放っておいてくれ。


 そんな事を思いながらテーブルに向き直った。

 ……のだが。



 女性が来てからオスローの様子がおかしい。美人過ぎて酔いも覚めたか?


 俺は挙動不審になったオスローを訝しむと、エールを喉に流し込んだ。



「あッ……、姉上!!」


「ブッふァ!」



 想定外の展開に驚き、口に含んだエールが気管に入り込んでしまった。俺は涙目になりながら咳き込む。


 オスローのお姉さんらしき人が背中をさすってくれた。女神かな?


 咳が落ち着く頃には、俺の方もすっかり酔いが覚めてしまっていた。


 オスローの家族なら邪険には扱えない。



「失礼しました、テオと申します。先程の無礼を重ねてお詫びします」


「ふふ、いえいえ。オスローも良いお友達が出来たようで何よりね?お酒には気をつけた方が良いと思うけれど……」


「姉上!子供扱いは止めて頂きたい」


「ご忠告痛み入ります。彼にはいつも助けられてばかりでして。ご挨拶代わりに一杯いかがです?」


「あら、お上手なのね?お言葉に甘えてしまおうかしら。……では、白ワインを」



 注文を済ませた俺は、オスローの隣に座った姉らしき人物に改めて目を向ける。

 おっとりとした優しそうな美人さんだ。


 弟そっくりのプラチナブロンドの長髪が店内の照明に反射して輝き、淡い緑のややタイトなワンピースがスマートな曲線美を演出している。


 優雅に腰掛けた彼女の姿は、大衆酒場の喧騒からは若干浮いている。

 一際目立つのは目元だろうか。


 慈愛を感じる瞳は透き通った碧に輝き、時折伏せられる目元は何かを誘っているようにも見える。


 俺が碧の瞳に釘付けになっていると、彼女は白い指先でグラスを傾け、ワインをひと口含んだ。


 ほう、と満足気に息をついたお姉さんの唇から俺は目が離せない。



 俺の視線を感じたのか、オスローの姉君は首を傾げて小さく微笑んだ。

 妖艶に細まった瞳を向けられると何だか変な気分になってくる。


 先程優しげと彼女を評したが、間違いだ。

 いったい何なんだ?この色気は。



「テオさま?そんなに見つめられると照れてしまいます。それとも、わたしを困らせて喜んでいるのかしら」


「いッ、いえ。決してそのようなことは」


「姉上。困っているのは彼の方でしょう」



 魔性だ。この女性はおそらく、後世に傾国の美女と呼ばれる類の人物だろう。

 

 オスローが釘を刺してくれなければ、俺は喜んで彼女に溺れていただろう。



「テオさまには、ひと言お礼を申し上げたくて。この間までユーゴさまに色々と迫られていて大変だったのよ?」



 あー……。

 そういうことかぁ。


 白昼堂々と伯爵令嬢を連れ歩いていたユーゴの事だ、こんな美人放っておかないに決まってる。


 ……色々と迫られた内容が気になって仕方ないが、聞くのはよそう。


 聞いたらユーゴをもっとシバいておけば良かったと後悔するだろうしな。


 しかし美人に感謝されるのは悪い気分じゃない。調子に乗った俺は、ちょっとだけカッコつけて返事した。



「仕事ですから。ですがこのテオ、姉君からの感謝のお心は喜んで頂戴しましょう」


「姉君だなんて。そう距離を取ったような呼び方をされると、寂しくなってしまいます」


「へ?……あ、ハイ」



 カッコつけてみたものの、仕返しを食らって変な声を上げてしまった。


 これじゃ俺の決め台詞が台無しだ。



「申し遅れました、わたしはリーンダリア・ガードナー。親しみを込めてダリア、とお呼びくださいね」


「えー……。では、ダリア様で」


「んー?」



 不満そうに顔を寄せられてしまった。

 ……近い。


 そう寄られると彼女の長い睫毛が嫌でも視界に入る。不服そうに突き出した唇に映る、控えめな艶が俺を狂わせようとする。



 ……いや、エッロ!!!!



 これは良くない。

 俺はダリアさんの醸し出す色気に、なす術もなく虜になっていた。


 この状況なら呼び捨てにしても許されるのか……?


 彼女からの了承は得てるんだし、むしろそう呼ばない方が失礼じゃないか?

 判断力が鈍っているのも酒のせいだろ。


 俺はパウルを見習って楽観的に考えることにした。



「えーと。……ダリア?」


「まあ、嬉しい!ふふ、本当に呼んでくださるのね!」



 ……やらかした。

 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


 彼女は少しからかうつもりだったんだろうが、それを真に受けて呼び捨てにしてしまった。


 男の勘違いほど見苦しいものもないと思うが、今さらさん付けも変だしどうしようか。


 いい歳こいて中学生みたいな気恥ずかしさを抱えて悶々としている俺に、オスローが助け舟を出してくれた。



「姉上、彼は少し酔いすぎたようです。お戯れはそこまでになさったらどうです?」


「あら、ごめんなさい。テオさまの反応が面白くって。けれど、今さら他の呼び方をされると寂しくなってしまいそうね」



 悪戯が上手くいった子供のように微笑むダリア。俺は思わず見惚れてしまう。


 せっかくのご厚意なんだ、これからも名前で呼ばせて頂こう。


 ……っていかんいかん、駄目だぞ俺!


 オスローのお姉さんだったから良かったものの、これがもしハニートラップの類だったらどうするんだよ!


 少しはケネス卿の仏頂面を見習わないとな。




 ……そういえば。

 オスローは長いことディアドラ家に仕えてるんだし、ダリアと会うのも久々なんじゃないか?


 居座って姉弟の再会を邪魔しちゃ悪い。

 なにより、これ以上オスローに恥ずかしいところは見せられない。



「彼の言う通り、少々酔いすぎたようです。そろそろ失礼します」


「テオさま、もう行ってしまうの?」


「はは、明日もありますので。それじゃオスロー、また」



 俺はキメ顔でそう言うと、酒代をテーブルに置いて店を出た。


 金はちょっとだけ多めに出してきた。

 これくらい良いだろ、男は見栄を張りたい生き物なんだよ。



 それにしてもオスローと飲み明かすつもりが、完全に主導権を握られてしまった。


 リーンダリア・ガードナー。

 恐ろしい女性だ。


 俺はまだ酔っていたのか、彼女にうつつを抜かしたまま宿へ帰った。



 ◇



 翌日、ディアドラ邸にて。


 パーティメンバーと合流し、二日酔いで痛む頭を押さえながら執務室へ入ると、ケネス卿が待ち構えていた。



「来たか。早速だが貴様等に仕事だ。近日中に北方民族に対して防衛作戦を実施する。参戦の準備をしておけ」



 早速すぎません?

 いや、やりますけど。



「これに際して帝国騎士団の援軍を要請した故、協力するように。ではお連れしろ」


「はッ」



 俺と同じくグロッキーな様子のオスローが扉を開けると、帝国の人が入ってきた。


 カツカツと規律の整った足音が響き、デスクの前でピタリと止まる。


 やってきたのは見事な装飾が施された、やや軽装の鎧を身に着けた女騎士だ。


 胸元まで伸びたプラチナブロンドの髪と揺れる碧眼。

 昨日の今日だ、忘れるはずもない。



「ご機嫌よう。帝国第二騎士団副団長、リーンダリア・ガードナー。要請に応じ参上致しました」




 そこには昨夜とは打って変わり、凛とした空気を纏ったダリアの姿があった。

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