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第17話『軍隊蟻』

 目的の場所へ歩いて行くと。アジトは荒野のただ中にあった。


 巨大な岩の影に穴が掘られており、盗賊たちは地下にアジトを構えているようだ。


 それを見た俺は頭を抱えた。これじゃ偵察なんて出来たものじゃない。

 中へノコノコ入っていったところで、ここをホームにする盗賊たちに地の利では敵わないだろう。

 

 どうにもならないので俺は呼びかけてみることにした。



「グランデル!領主より討伐の命を受けて来た!貴様等の悪行の数々、死罪すら生温い。この地で疾く果てよ」



 ……返ってくるのは沈黙のみ。

 返事代わりに矢が飛んできた。


 どうしようか、魔法でも試してみるか?

 俺は力を込めて、地下に空いた穴めがけて魔法を詠唱した。



火球(ファイアボール)……やっぱり無理か」



 俺に魔法の才能は無い。それでも、試さずにはいられなかった。

 もう打つ手がない。こうなれば、向こうから出てきてもらう他ない。


 手に持った槍をアジトの入り口に放り投げる。

 穴の近くに落ちた槍は、カランと小気味良い音を立てた。



「四人だ。弓使いは必死に命乞いしながら死んでいった、他の二人は矢の盾にした!まだ死体は残ってる、探してやったらどうだ?」



 しばしの静寂の後。

 弓の盗賊の言葉通り、九人の盗賊がアジトから出てきた。

 

 一番後ろの男が俺を睨んでいる。

 グランデル……!



「俺を騙すだけじゃ飽きたらず、子分どもを殺したな?この落とし前は高くつくぞ」


「いつぞやは騙して悪かったな、グランデル?殺したら話せないだろうからな。今のうちに謝っておくよ」


「黙れ。思えば、アレのせいで冷血卿に目をつけられちまったようなもんだ。テメェには死んで詫びてもらう」


「やってみろ。他勢に無勢などと(あなど)るなよ」


「侮りなどするものかよ。楽に死ねると思うな」




 もう話すことはない。

 剣を抜いて集団へ駆け込む。


 会話に気を取られていた盗賊へ、奇襲じみた一撃を見舞う。


 白刃が煌めき首が飛んだ。鮮血が吹き出して周囲を朱に染める。


 返す手で、それを呆けて見つめるもう一人の頭蓋を砕く。剣の柄がめり込み、脳漿が散った。


 身体の指示系統を失った肉塊を利用して、死角から三人目の胴体を下から突き上げる。

 肝臓の位置を貫いた。刃をねじり込んでから引き抜く。


 

 ここでようやく盗賊たちが反撃に出た。


 喉を食い破らんと飛んできた槍の穂先を、剣の根元で上へ逸らす。


 かち上げられた腕めがけて愛剣を振り抜くと、両の腕がごとりと落ちる。


 自由落下する槍を片手で掴むと、脇に抱えて力任せに押し込んだ。

 後ろにいたもう一人を巻き込み、勢いのまま突き抜ける。


 二人の盗賊は腹に槍を受け、仲良く地面に縫いつけられた。




 現時点で残った敵はグランデルを入れて四人。

 剣は盗賊共の体液と脂を吸ってナマクラ同然だ。この愛剣であと何人殺せるだろうか?



軍隊蟻(アーミーアント)



 突然口を開いたグランデルに、俺は混乱した。

 ヤツが言った単語は一体何だ?


 魔法を使った様子は無い。

 だが、明らかに何かがおかしい……!


 盗賊たちの体つきが急激に変化した。腕の血管が濃く浮き出ており、筋肉が肥大化していく。


 いや、腕だけではない。グランデルを除く三人全員の体格が、歪に一回り大きくなった。



……これは、まさか。



「ご明察。こいつはスキルさ。お前が殺しさえしなけりゃ、アイツらだってここに加わってたんだ。残念でならねェよ」



 冗談じゃない。この光景を見るとむしろ、もっと削っておきたかったと思う。


 俺は冷静になろうとした。グランデルのスキルは周囲の人間の強化。

 それだけなら俺も強化対象に入りそうなものだが、体には何の違和感もない。


 どうやら仲間だけが強化される仕組みのようだ。しかし本体のグランデルは体が膨張していない。



 ……わざわざ周りの相手をする必要はない。

 グランデルさえ殺せば強化スキルも効果をなくすはずだ。


 盗賊たちはそのあとで殺せば良い。ヤツを殺すまでを凌ぎ切れれば、なんの問題もない。


 ……勝機はまだある。




 グランデルを殺すべく走り出した俺を強化された盗賊たちが阻む。

 全員丸腰になっていた。どうやら、武器を扱う器用さは無くしてしまうらしい。


 うち一人が伸ばした、隙だらけの右腕を斬り飛ばそうとした。しかし。



「……ッ!?」



 俺の剣は不自然に止まった。刃が肉に食い込んでいるが、骨の部分で勢いを殺された。


 斬れ味が落ちたか?

 いや、それにしてもおかしい。ナマクラとはいえタダの腕だ。斬れないはずがない。


 体制を立て直そうと思い剣を戻そうとしたが、刃が筋肉に挟み込まれて抜けない。


 まずい……!


 もう一人が殴り飛ばそうと拳を振り上げる。俺は剣を手放し、転がるように後ろへ回避した。


 拳が頭をかすめる。こめかみに鋭い痛みが走った。強化の恩恵だろうか、異常な振りの速さだ。これは食らえない。


 最初に斬りつけた盗賊は、自分の腕に刺さった剣をいとも容易くもぎ取って放り投げた。


 剣はクルクルと回転しながら放物線を描いて地面に突き刺さった。……遠い。



 どうにか剣を拾ってグランデルへ直行するか?


 間に合わないだろうな。

 コイツらはスピードだって予測以上だ。




 一瞬怯んだ俺を盗賊たちは見逃さなかった。


 隙を突かれた体に拳がめり込み、吹き飛ばされた俺は砂の地面を転がっていった。


「ぐぅッ…………がッあ……!」


 転がる勢いは岩に当たってようやく止まった。拳が重すぎる。

 肺の空気が抜けて、思うように息ができない。


 ヤツらが動けない俺を囲んで何度も踏みつける。

 強い衝撃に骨が軋んだ。俺は痛みに呻きつつ、両腕で体を守るように抱える。



 まず左の鎖骨が折れた。ここで反撃は不可能になった。理屈は分からないが、鎖骨が折れると腕が上がらなくなるようだ。


 左腕の自由が効かなくなった。

 仰向けのまま残った右腕で体を庇う。

 

 が、たった一本の腕で守れる範囲などたかが知れている。空いた脇腹を、側頭部を靴底が打つ。


 眉の辺りを蹴られて血が目に入ってきた。思わず目を瞑ってしまった俺は、もはや最低限の防御すら出来ない。


 自分の体に響く打撃音だけが聞こえてくる。

どこに攻撃が当たっているかも分からない。

 


 やがて、段々と音が小さくなってきた。攻撃が止んだのか?


 ……いや、俺の耳が使い物にならなくなってきているんだろうな。そろそろ痛覚まで鈍ってきた。


 とどめを刺そうと近寄ってくるグランデルを、何とか目を開いて視認する。


 しかし霞んだ目では距離感も掴めない。最期にグランデルだけは、と思ったがそれも無理そうだ。




 ああ、これじゃ無駄死にだ。


 結局、意思がどうとか見つける前に時間切れになりそうだ。


 俺を通して世界を見たがったエスメラルダ。その思いに応えることはもう出来ない。

 

 俺は女神に詫びながら、意識を手放そうとする。





 …………いいや、まだだ。

 まだこんな所じゃ終われない。

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