第16話『屍の盾』
ケネス卿の執務室へとやってきた俺とアーデ。相変わらずこの男は不機嫌な様子を隠すそぶりもない。
「相変わらずのようだな、テオ」
「残念ながら」
スキル発現のための強い意思。いまだ、俺の中で答えは出ていない。
「構わん、想定済みだ。荒療治だがこちらで用意したものがある。これを」
使用人から紙を受け取り、目を通した。
……これは。
「お父様。正気ですか?」
「無論だ。この程度こなせなくては使い物にならん。死んだらその程度だったと諦めろ」
「私も行きます」
「ならん、ここに残れ。奴等相手に軍を出す必要もない。貴様の助力も不要だ、アーデルハイト。そもそも呼び出したのは剣士ひとりのはずだが?」
「……しかし」
「無駄話を続けるつもりはない」
悔しそうに唇を噛むアーデ。大丈夫だ、死ぬつもりは毛頭ない。
書かれていたのはひとつの依頼。
依頼というより、ディアドラ領主から直々に下された要請と言う方が正しいか?
ともかくそこには、グランデル盗賊団を討伐するよう指示があった。目的地の地図も別紙で加えられている。
向かわせるのは俺ひとりだ、という指定も添えて。
「鬱陶しいグランデルの顔の皮を剥ぎ、首を城門に吊るせ。私を侮った罪はそれだけでは贖えぬだろうがな。元はと言えば貴様が蒔いた種だ、貴様が始末を付けろ」
……蛮族狩りは蛮族になるって法則でもあるのか?発言がいちいち物騒過ぎる。
「……首はお持ち致します」
皮を剥ぐとか無理でしょ!怖い怖い!呪われるって絶対!
俺の了承を得たケネス卿は、前と同じような子供じみた笑いを浮かべた。
「結構。成果によっては私を利用した罪を帳消しにしてやる。では行け」
「……待ってるから」
ケネス卿の命を受けた俺は、グランデル達と思いもよらぬ再会を果たすことになってしまった。
◇
城門を抜けて荒野へやってきた。ケネス卿はわざわざ馬車を用意してくれた。ここへ来ると、かつて三日ほど掛けてエリゥにやってきた事を思い出す。
騙したとはいえ、送り届けてくれた盗賊を殺すのは気が引ける。多分向こうは俺のことを殺したくて仕方ないんだろうけど。
死にたくないから殺す。シンプルで良い。俺は出来るだけ相手の立場や境遇を考えないよう努めた。
荒野をある程度進んだところで馬車を下ろされ、一人残された。
……ここからは、仕事の時間だ。
放っておいても盗賊たちは向こうからやってくるはずだ。
それにアジトの場所は分かっていても、盗賊の人数が不明瞭だ。多少は誘い出して、人数を減らすのが定石だろう。
しばらく待つと。予想通り、四人の盗賊が俺の前に姿を現した。グランデルの姿はない。
「テメェは……テオ!」
「どのツラ下げてここへ来た?死んで詫びてェってのか?」
開幕からブチ切れる盗賊たち。そうだよね、あの時は本当にごめん。
「グランデル討伐の依頼を受けた」
「許すわけねェだろ、そんなもん!テメェがカシラと会うことはねぇッ!」
めいめいの武器を構える盗賊たち。装備自体はそれなりに良い物ばかりだ。これだけ集めるのに、一体何人の命を奪ってきたのだろう?
人を騙してきた俺と、人から奪ってきたコイツら。そこには何の違いもない。どちらも他人を不幸に陥れる害虫だ。
同じ穴の狢ってヤツだろうな。ケネス卿がアーデを向かわせたくなかったのも分かる。
だが、騙すくらいしか出来なかった無力なあの時とは違う。俺は慣れた手つきで腰の剣を抜いた。戦闘開始だ。
短刀をかざして走ってきた盗賊の腹をすれ違いざまに斬る。すると、あっけなく胴体が二つに分かれた。
まずは一人。
喉元を目掛けて突かれた槍を弾き、右下に振りおろす。槍持ちは血飛沫と臓物を撒き散らして膝をついた。
……二人目。残るは剣持ちと、後方に控えた弓持ちだけだ。
「……ッ!」
一番奥の弓持ちが矢を放ってきた。瀕死の槍持ちを空いた左手で掴み、盾にして防ぐ。
まだ立ち上がろうとしていたのか、体は思いの外簡単に持ち上がった。ドスッという鈍い衝撃と共に槍持ちの体が跳ねる。
距離を詰めようとしても残りの一人に阻まれるだろう。弓持ちは最後に殺すしかない。俺は役目を果たした槍持ちを手放した。
剣を持ったもう一人は、間合いを取って様子を見ている。弓持ちが俺を殺すのを待っているのだろう。
俺は円を描くようにして動き、剣持ちが弓の射線と重なるように近づいた。
走り寄った俺は剣先を下げ、盗賊の攻撃を誘った。引っかかった剣持ちの突きを躱して、逆に剣を突き入れる。
血反吐と返り血が肩に掛かった。むせかえるような匂いだ。
三人目……!
カウンター気味に相手に刺さった剣は、いくら引っ張っても抜けない。
自分の剣を諦めた俺は、事切れた盗賊の剣を使わせてもらうことにした。剣の持ち主の死体を担ぐようにして掲げ、矢から身を守りながら弓持ちに近づく。
「やめろ!近づくな……ッ!」
半狂乱で矢を飛ばし続ける四人目。残った盗賊はコイツで最後だ。
革の防具をまとった死体の盾は優秀で、どれほど矢を受けても貫通はしない。
やがて矢の尽きた盗賊は、諦めたように地面にへたり込んだ。
「殺すな!……殺さないでくれッ!アジトの場所だって吐く!それでいいだろッ!」
命乞いを始めた男の脇に死体を投げる。うつ伏せになった死体は、刺さった矢をへし折りながらぐしゃりと地面に落ちた。
少しヒヤヒヤしたが、腹に深々と突き刺さった俺の愛剣は無事のようだ。
「ヒッ……!」
「アジトの場所は知ってる。人数は」
「ろっ……。六人だッ、カシラを入れて!あんたが減らしたから三にん——ぎぃッ!?」
弓持ちの太腿を突き刺す。動脈を切ったのか、鮮血が傷口から溢れ出した。
「あぁッ……ぁああ!十ッ!じゅッ、じゅうッ!!」
絶叫したコイツは正確な数字を教えてくれた。もう用はない。
「いいや、九人だな。もう一人減るだろ」
「な、なんで……ッ!ちゃんと話し——」
必死に抗議する弓持ちの首元を薙ぐ。首が転がっていったが、コイツのは必要ないな。
俺は頭部を失った弓持ちの体から離れると、隣に転がった剣持ちの死体の元へと歩いた。
どうにか愛剣を死体から引き抜き、袖で拭いながら考える。九人は流石に多い。さて、どう攻め入るべきだろうか。
剣を拭き終えて腰に納めた俺は、死体から槍を拝借してアジトへ向かった。




