↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女に呪われた少女と、美しい支配人と  作者: 柳葉うら
第二部 秘密の庭の肖像画
77/77

後継ぎ令嬢は仮面芸術祭を迎える

 夕陽が橙色に染めた空に、一番星を縫いつけた紺碧の紗のような宵闇が降(お)りてゆく。

 今宵、仮面芸術祭の日を迎えたディルーナ王国の王都は、海に浮かぶ宝石の如く美しい。

 

 街の至る場所に飾られている水晶で造られた花がは内側から光っており、その光の色は場所によって異なる。

 空にはいくつもの魔法のランタンが浮かんでいて、街を照らす。


 バルバート邸にあるロゼッタの部屋では、縁に金の装飾が施された姿見の前で、ロゼッタが体を捻りつつ自身の装いを確認していた。


 髪は編み込みを織り交ぜたハーフアップで、結び目には色とりどりの鳥の羽をあしらっており、髪全体には真珠を散りばめている。

 

 目元は、白地に金で装飾やバラの絵が描かれた美しい仮面で覆っている。

 この仮面は、仮面芸術祭の必需品だ。


 身に纏うドレスはボルドーのベルベット生地を基調としたもので重厚感があり、ドレス全体に施された金糸の刺繍はロゼッタが動くと煌びやかに光る。

 胸元や袖口にはたっぷりのフリルが縫い付けられており、華美なデザインだ。

 

 仮面芸術祭では、貴賤問わず華美で豪奢な服を身に纏って参加する。

 ロゼッタもしきたりに合わせて見た目も着心地も重厚感のあるドレスをきているのだが、あまりにも重いため、初めて祭に参加した年はすぐに疲れてしまった。


 鏡越しに、うっとりとした表情で自分を見つめてくるナナの姿が見える。

 

「ねえ、ナナ。わたくしの仮面、ズレていないかしら?」

「ええ、ズレていませんよ。それに、とてもよくお似合いです!」 


 ナナから見て仮面がズレていないのであれば、問題ないだろうと安堵した。

 仮面をつけると視界が狭まるため、自分で鏡を見ても、きちんと仮面がついているのかわからなかったのだ。


「ブルーノさん、お嬢様のお支度が終わりましたよ!」


 廊下側の扉を開いたナナが声をかけると、外で待ってくれていたブルーノが部屋の中に入ってきた。


 鏡の中に映る自分の背後に、息を呑むほど美しく着飾ったブルーノが立つ。


 護衛する際の動きやすさを重視してか、彼は光沢感のあるサテン生地のフロックコートとスラックスを着ている。

 色味はロゼッタと同じボルドーを基調としており、刺繍の色も揃えて金色だ。

 クラバットに繊細な模様のレースを使っている。 


 彼の仮面は片目だけ空いているデザインで、右目にあたる場所にはロゼッタの髪色と同じ深紅バラの飾りがつけられていた。


 元より生きた彫刻のように整った顔立ちのブルーノが着飾ると、どれだけ称賛の言葉を尽くしても足りないほど綺麗だ。


 見惚れていると、彼もまた自分を見ていることに気づく。


「……ロゼッタ様、とてもお美しいです」

「ブルーノも素敵よ。ずっと見ていたいほどだわ」


 心を込めてそう言うと、鏡に映る空色の瞳がいつもより柔らかなものになる。


「さあ、ダンテを迎えに行きましょう」


 今日もオークションがあるため、ダンテは『ギャラリー・バルバート』にいる。

 これから彼を迎えに行って、その足で祭に参加する予定だ。


 屋敷を出たロゼッタとブルーノは、使用人たちに見送られるなかゴンドラに乗り、運河へと出る。


 大通りがある方角から華やかな音楽が聞こえてくる。

 祭はもう始まっているのだ。


 ブルーノのエスコートでゴンドラに乗ったロゼッタは、バルバート家の漕ぎ手(ゴンドリエーレ)に微笑みかける。


「ダンテを迎えに行くから、『ギャラリー・バルバート』までお願いね」

「かしこまりました、お嬢様。今宵はいつにも増してお美しいですな。旦那様より先にお嬢様の衣装を拝見してしまったので、今年もまた旦那様に嫉妬されてしまいますな」

「ふふっ、あまり長い間みんなに嫉妬しないように、明日は一緒に出かける約束をしていますのよ」

「そうでしたか、それはありがたいです。旦那様はきっと、早くも明日を楽しみにしていらっしゃるでしょう」


 彼と雑談を交わしている間に、ゴンドラが橋の下をくぐる。

 暗闇が続く中、不意にブルーノがロゼッタの肩に触れて自分の方へと引き寄せてきた。


 急に抱き寄せられてドキリとしたが、ゴンドラに取り付けられているランタンの明かりで彼の固い表情が見えたため、すぐに平静を取り戻した。


「どうしましたの?」

「……なにかがおかしいです。いつもなら、もうとっくに橋の外に出ているはずですが、いっこうに街の明かりが見えません」


 見回してみると、たしかに暗闇のままだ。

 それに、いつの間にか祭の喧騒が聞こえなくなっている。


「何者かの魔法で惑わされているようです。――屋敷へ引き返してください」


 ブルーノの指示を受けた漕ぎ手(ゴンドリエーレ)が頷き、ゴンドラの向きを変える。

 漕ぎ進めるが、橋の下から抜け出せる気配がない。


「まさか、魔法で作られた空間に閉じ込められてしまいましたの?」

「……そのようです。攻撃魔法を使って、破壊してみます」


 攻撃魔法を一点に集中させるためにブルーノが片手を上げたとき、 目の前に一艘の大きなゴンドラが現れた。

 闇の中に溶け込むような漆黒のゴンドラの上には、色鮮やかな衣装に顔全体を覆う白い仮面をつけた大人が五人と、水色のドレスを着た子どもがいる。


「他にも迷い込んだ人がいるのかしら?」

「違いますよ。私がロゼッタ様をここに誘い込んだのです」 

「その声は……アリス?」


 聞き覚えのある少女の声がしたので眼を凝らすと、水色のドレスを着ているのは、銀色の仮面で目元を覆っている白金色の髪の少女。


 ドレスは、よく見ると魚の鱗のような虹色の照りのある生地が重ねられていたり、キラキラと輝く宝石や真珠が縫いつけられたりしていて、まるでセイレーンを彷彿とさせるデザインだ。


 少女が仮面を外すと、どこかほの暗さを孕む微笑みを浮かべたアリスの顔が現れる。


「こんばんは、ロゼッタ様。またお会いできて嬉しいです。今宵、あなたを秘密の庭にご招待するために迎えにきました」

更新をお待ちいただきありがとうございます!

季節の変わり目ですのでお体にお気をつけてお過ごしくださいませ!


そして、他作ですがお知らせです。

書き下ろし作品『死に戻りの侯爵夫人は夫に別れを告げて魔導書の写本師となる』の完結巻の配信が開始しました。


▼書籍情報

ASIN:B0HD7MG8TK

出版社:ミーティアノベルス


こちらも魔法世界ならではのお仕事に励むヒロインが主人公です。

もしよろしければ本作もお楽しみいただけますと嬉しいです…!

よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。