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魔女に呪われた少女と、美しい支配人と  作者: 柳葉うら
第二部 秘密の庭の肖像画
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跡継ぎ令嬢は王宮で病弱王子と対面する

 ロゼッタは憂鬱な面持ちで王宮の中を歩き、王室警備隊の騎士の案内で、お茶会の会場へと向かっている。


 庭園の東屋の前に辿り着くと、国王とファウストがすでに席についてロゼッタを待っていた。


「ディルーナ王国の太陽である国王陛下にご挨拶を申し上げます。ロゼッタ・バルバートが参りました」

「よく来てくれたね。私は堅苦しいのは苦手だから、気楽にしてくれるといい。……そうだな、叔父だと思って接してくれ」

「お、叔父……」


 いくら本人が許してくれようと、国王を自分の叔父と思うなんて到底無理な話だ。


 これは社交辞令と受け取っておこうと思いつつ、ロゼッタは自分の頬が引き攣りそうなのを、頬に力を入れて堪えた。


「お気遣い感謝いたしますわ」


 それにしても、とロゼッタはこのお茶会のメンバーを眺めて内心溜息をつく。


 国王と、シルヴェストリ公爵閣下と、一介の男爵令嬢である自分。それに、まだ姿が見えないが王太子が加わるのだ。


 どう考えても自分はこのお茶会に場違いな人間である。

 

(このお方たちは、いったい何を考えているの?)


 どうしても警戒してしまうが、一先ずお茶会を楽しむ素振りを見せなければ相手方に失礼だ。

 ロゼッタは出してもらった紅茶やお菓子にちびちびと手をつけつつ、国王とシルヴェストリ公爵ことファウストから矢継ぎ早にくる質問に答えていた。


 特に国王はロゼッタに興味津々で、ロゼッタが紅茶を飲む暇も与えないくらい話しかけてくる。


「ロゼッタ嬢はバルバート男爵の後継者として幼い頃からオークションハウスの仕事を学んでいるようだね」

「ええ、早く従業員たちに跡継ぎとして認めてもらえるように日々学んでいますの。ポルカーリ工房の魔導士たちや工房の職人たちからも作品について教えてもらえますので、毎日とても楽しいですわ」

「なるほど。君は実に勤勉だ」

「いいえ、わたくしはただ好奇心が旺盛なだけですわ」

「……そうか。好奇心旺盛……ね」


 国王はロゼッタの言葉を吟味するように呟くと、ロゼッタをじっくりと見つめる。


(ああ、まただわ)


 もうこの世にはいない、ローゼことジルダの姿をロゼッタに重ねている眼差し。

 

 心に影が落ちるものの、その視線を気づかないふりをしてやり過ごした。


(それにしても、こんなにもむさくるしいお茶会は初めてですわね)


 これまでに参加した事のあるお茶会は基本的には貴族令嬢や貴婦人たちがいたものだ。

 それなのに、このお茶会はロゼッタが紅一点となっている。


「そういえば、アリステア殿下はいかがされましたの?」

「ああ、遅れてすまないね。数年ぶりに同い年の子どもとのお茶会ができて、張り切ってしまったんだよ。どうか許してやってほしい」

「そうですのね。どうかお気になさらず」

「お、噂をしたら来たようだ」


 国王はロゼッタの背後を見遣ると、口元を歪めた。

 まるで何かを企んでいるような表情だった。


 それは一瞬の事で、ロゼッタが気付いた時にはいつもの泰然とした表情に戻っていた。


「遅いぞ、アリステア」


 この国の王太子の名前を聞いたロゼッタは、弾かれたように振り返り、遅れてやって来た人物の姿を捕らえて瞠目した。


「申し訳ございません。薔薇を選ぶのに夢中になってしまいました」


 王太子――アリステアは中性的な顔立ちの美少年で、その面影はどことなくローゼに似ている。


 癖のある白金色の髪に、アイスブルーの瞳を持つ美少年。

 病弱と噂されているが、やつれているようには見えない。


 何よりも目を引くのは、彼の美貌だ。


(美人ね。将来は傾国の美男子になりそうだわ)


 ロゼッタは目を奪われていたことに気付くと、心の中で自分を叱咤して立ち上がる。

 目上の者に対して挨拶もせずに無遠慮な視線を送るとは淑女らしからぬ行いだ。


「アリステア殿下にご挨拶を申し上げますわ。わたくしはロゼッタ・バルバートと申します。本日はお会いできて光栄でございますわ」


 落ち着き払ってカーテシーをすると、アリステアの頬がほんのりと赤く染まった。


「ロゼ――ロゼッタ嬢、本日は招待に応じてくれてありがとうございます。これからも末永くよろしくお願いします」

「末なが……え、ええ。よろしくお願いいたしますわ」


 末永くとは、と疑問に思ったロゼッタだが、あえて突っ込みを入れない事にした。


 そして、背後に控えているブルーノが微かに冷気を漂わせている事にも、あえて触れない事にした。


「ロゼッタ嬢、どうかお受け取りください」


 アリステアは美しくはにかみながらロゼッタに歩み寄ると、小さな薔薇の花束をロゼッタに差し出した。


 芳醇な薔薇の花の香りが鼻腔をくすぐる。


 どれもロゼッタの髪の色に似た赤い色で、ベルベットのようにすべすべの花弁には朝露が滴っている。

 

「花の妖精であるロゼッタ嬢にぜひこの薔薇を贈りたくて摘んできました。受け取っていただけますか?」

「まあ! 殿下自らこの薔薇を?」


 花束を持つアリステアの手には小さな傷がいくつもあり、薔薇の棘を彼の手で取り除いてくれたのだとわかる。


 薔薇の棘を取り除くことくらい、庭師や使用人に任せられるような立場の人間であるのにもかかわらず。


 ロゼッタは恭しく花束を受け取り、花が咲くような笑顔を添えてお礼の言葉を述べた。


「ありがとうございます。こんなにも素敵な花束をいただけるなんてとても嬉しいですわ。今度、ぜひお礼をさせてくださいな」

「お、お礼だなんて……私はただ、ロゼッタ嬢にこの花を贈りたかったので贈っただけです」


 そう言い、アリステアは耳まで赤く染める。


(アリステア殿下はあ(・)の(・)国王の息子でシルヴェストリ公爵の甥だけど、二人のような曲者ではなさそうね)


 紳士的で純粋な反応を見せるアリステアの姿に、ロゼッタは警戒心を解いた。


「……」


 一方で、ブルーノは警戒を強めたのだった。

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