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姫と騎士  作者: いつき
番外編
105/127

お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~真意に届く~

 どこが山場なのかそろそろ分からなくなってまいりました。

 相変わらず、物語の盛り上がりどころを外してしまう。

「なぁに企んでるんですか? 姫様」

「企んでなんかないわよ。エイル」

「嘘言わないでください。証拠を破棄した事実も、王がそんなことをさせた事実もありません。勝手に自分の父親悪役にしない」

 グレイスが出て行ったあと、長いカーテンから人が出てくる。

 淡い金髪は彼女らと似ているようで、違いが見え隠れしていた。明らかに王族の色ではないそれだったが、彼の顔によく似合っている。

「そうね。選択をしやすくさせたってとこかしら?」

「いつからグレイスさんの完全なる味方になったんですか」

 先程まで苦しげな顔をしていたティアは、今ではもういつもどおりの微笑に戻っている。そのうえでエイルは聞いていた。

「別に、味方になったつもりはないのだけれど。どちらにしろ大臣達の文句があるなら、グレイスに選ばせてあげようかと思っただけよ。

どちらを選んだって、わたしの目的さえ邪魔しないならいいもの」

 ティアは真紅のドレスを翻し、それからエイルに向かって手を差し出した。

「で? あっちの動きはどう?」

「そうですねぇ。ボッコボッコでしたね。今見に行ったら。何ていうか、あそこの兄弟の実力半端ないです」

 あらあら、と困ったような声を出しつつ、その顔は嬉しくてたまらなさそうだ。

 自分が予想したとおりの成果に、思わず顔が緩んでいた。それを見て、エイルは小さく『抜け目がないな』と呟く。

「マントの色でばれてるんじゃないですかねぇ。何せラインが入ってない、どちらかと言えばあまり優秀じゃない人たちばかり集めて配置してるんですから」

「エイルとプルーなんておいたら、アレクはさておきセシルはついてこれないわよ、多分。逃げ出せなくなるじゃない」

 マントの下方に一本白いラインが入っているなら、それは騎士団所属騎士の証。

 それがないということはつまり、あまり優秀ではないということ。本当にその部屋に留め置きたいなら、そんな甘いことしない。

 ティアは当たり前でしょうというように笑った。

 自分の計画は完璧ではないが、ある程度の成果を期待できるものだと信じている。それは今までだってずっとそうだったことだし、これから変わらないと信じていた。

「それに、逃がすのは二の次。まずはアレクの実力を知らしめることが目的だもの」

「次期王はやることが違いますね」

「間違わないでちょうだい。わたしは、国主になりたいわけじゃない。

自分の地位を精一杯使うためには、『全騎士から一目置かれている』アレクが必要なの。父が生きていれば、王になる必要もない」

 呆れたような声に、ティアは精一杯の反抗を示した。真紅のドレスを翻し、それからエイルに向き直って彼の予想を求めた。

「予想でいい。二人が行きそうなところは?」

「地下か、王様のところか。はたまた姫様の自室か。あー、絞り込めませんね。残念ながら」

 エイルが笑って、自分の予想を述べる。

 どこまでもふざけているのか、真剣なのか見分けのつかないその笑顔に、ティアは頭を抱えつつ優秀な騎士を見た。これさえなければ、文句なしでいい人材なのに。

「エイル。一人であの兄弟の相手、してみる?」

「冗談は止めてください。真面目に。殺されちゃいますよ、俺なんて」

 きちり、と腰に佩いた剣を鳴らして、エイルは心の底から笑っているような笑顔を見せる。

 そんなことを言いつつ、その辺の騎士が束になったところで勝てる人間ではないので、ティアは同意をせずに扉に向かった。

 型はバラバラ、剣の使い方はでたらめ。

 足運びは淀みなく、剣の振りに迷いは一切含まれない。

 剣を振るうその瞳は、時折ぞくりとするほど恐ろしくて、ティアは本当の意味でエイルを騎士として見ることはできなかった。

 そこに含まれた狂気が、何のためか知ったのはほんの最近だったので、それも当然だろう。

「さて、どうしたら彼女の言う『最善の選択』ができるんでしょうね」

 誰も傷つかないなんてありえない。そんな選択肢存在しない。

 物事はひどく多角的で、誰かが幸福になれば、その一方で必ず不幸になる人間がいる。不幸とまでいかなくても、幸福になれない人が出てくる。

 それは悲しいが、仕方のないことなのだ。

 戦でも同じことだった。勝つ国があれば、負ける国が必ず出てくる。

 王になるものが出れば、王になれないものが出てくる。みんなが幸せに? そんなの、今幸せな人間でなければ思えない。

「彼女が、もしかしたら出すかもしれませんよ? その『最善』を」

「それならいいんだけどね」

 誰も傷つかないのならば、それが一番いいに決まってる。だけど自分にはその方法が分からない。

 それが分かっているからこそ、ティアは『できるだけ多くの人』を幸せにしようとしていた。その『不幸』が少しでも軽くなればいいと願った。

 それはどこまでも自分本位だと分かってはいたが。

「それ以外の方法を、わたしは知らない。教えても、もらえなかった」

「まぁ、俺もありえないと思ってますからね。そんな選択肢(モノ)。でも、あればいいとは思いますよ。希望を持つのは、俺たちの自由だ。誰かに強制されない」

「そうね。ありがたいけど、ひどく面倒だわ。『希望』というものは」

 あの二人、どうにかして止めたいんだけど。

「希望ついでに、二人を一気に捕まえてみない?」

「姫様、結局俺に面倒ごと押し付けたかっただけでしょう?」

「たまにはあなたも給金分働いてちょうだい」

 彼らの出番は『今』じゃない。

「計画を潰されるなんて嫌だもの」

 『今』じゃないけど、彼らは必要だった。

「わたしの『最善』を尽くすわ」

 ティアはそう言って、扉を開けた。

 そして嬉しそうな顔をして、その目の前にいた二人を見つめる。

「探す手間、省けたわね」

 扉を開いてすぐ目の前、今から探そうとしていた二人が揃っていて、二人してティアを見つめていた。一人は隠しきれない怒りを内包して、一人は読めないその表情から本心を探り出そうと。

 そのどちらもよく似た輝きを持ち、自分の意思を曲げない強さがある。

 その強さが、ティアには嬉しくてどこか悲しかった。二人して、彼らは自分の味方ではない。それがよく分かっていて、ティアは笑うしかなくなる。

 二人とも、一人の少女を救おうとしていた。

「ティア。グレイスを返して」

「グレイスは、グレイスの意思でわたしについてきた。あなたにとやかく言う資格はない。控えろ」

 低い声に、威厳を込めてティアはセシルに言った。以前ならそれだけで怯んだというのに、今のセシルはびくりともしなかった。

 それを喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか、ティアは一瞬悩む。

「俺は、彼女が大切だ。だから、彼女の意思を無視してでも、彼女をここから出したい」

「そう。わたしには関係ないことだわ」

 足止めは必要だった。

 ティアは目配せだけして、ゆっくりと自分の部屋に戻っていく。それに付き添うように、アレクとセシルも部屋の中へ入っていく。

 セシルより後ろにいたアレクが扉から部屋に入った瞬間、それまで扉の近くでその様子を見ていたエイルが扉を閉めた。

「なっ」

「エイル!」

「悪いな。王女命令だ」

「ここが自室でよかった。他の部屋なら扉破られかねないから」

 四者それぞれがまったく違う発言をして、それぞれの発言に腹を立てる。素早く扉を閉め、内扉から鍵をかける。ついでにその鍵はエイルの手の中だ。

 がちゃがちゃとセシルがその扉を開けようとし、それが無理だと改めて考えると、怒りの込めた声でティアの名を呼ぶ。

「ティア!!」

「控えろ、と言ったはずよ。王女に剣を向けるほど、あなたたちは愚かでもない」

 にやり、とティアが笑う。いつもなら人前で絶対にしない笑みだった。しかしここへいるのは長年の幼馴染二人と気心の知れた騎士が一人。

 己の本性を隠す必要もない。

「ティア。グレイスさんは関係ないよ。解放して欲しいんだ」

「勝手ね。あなたたちが決めることじゃないとさっき言ったわ」

 アレクの発言を跳ね除けて、ティアは笑みを潜める。それからエイルに向き直り、確かめるように声をかける。

「エイル。グレイスがここから出て行って、十分な時間は経った?」

「そうですねー。接触しててもおかしくはないですけど。もうちょいですかね」

「ならもう少しここでお話してましょうか。ボールウィン家の子息たち」

 今にも掴みかからんばかりのセシルに笑いかけ、それからよく出れたわねと嬉しそうに言う。

「大方、グレイスを探して走り回ったけど見つからず、わたしを探しに来たってところでしょうね。

あぁ、あなたたちがボコボコにした騎士たちはエイルの計らいで、無事に治療されてるから」

「ティア! 俺はこんな時間さえ惜しい」

「そう。わたしは始めから時間が惜しかった。あの子がセシルと出会う前に、色々していればよかったと思ってるもの」

 セシルが手を握り締めて、ティアに言うがティアはまったくといっていいほど取り合うつもりがない。取り付く島もないその言葉に、アレクは首を傾げる。

 何を考えているのか、今の彼にも分からない。分からないのが歯がゆくて、つい兄にも負けず声を荒らげた。

「ティア。いい加減にしないと、エイルを叩きのめしてでも鍵を奪うよ」

「ですって、エイル。覚悟できた?」

「できませんね。まず。アレク相手だと」

 重心を落として、今にもエイルへ飛び掛ろうとするアレクを見て、ティアはエイルへと向き直る。声をかけられたエイルはエイルで、さっそく逃げようとしていた。

「あ、でも姫様。そろそろいいかも」

「じゃぁ開けてちょうだい」

 ぎいっとわずかに扉が軋み、ついで大きく開かれた。

 先程まで鍵まで閉めて二人を閉じ込めようとした扉は、今やこれでもかというほど大きく開いている。それをぼんやり見つめつつ、セシルは呟いた。

「いつまで経っても、君の考えが分からないよ」

「それでいいと思うわ」


 向かうは一点。救うは一人。


 辛い思いをするのは、一体誰?

 会話分ばかりだと、わたしがしょんぼりします。

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