いなさ
退屈だった。ただ見下げるだけの毎日をつまらないと思った。だから地に下りてみた。
人間の地だったらしい。わんさかと人間がいる。かしましい。耳障りに思い、違う地に行ってみようかと思った。だが、止めた。なぜか、ほとんどの者が同じ顔をしている。奇妙に思った。人間はみなこの顔で生まれて変わらないままなのかと思った。少しだけ気になって留まる事にした。
留まってみれば、この顔になるのは、大抵嬉しい時や楽しい時だとわかった。
美味しいものを食べた時。好いている人間に出会えた時。面白いものに遭遇した時。赤子が生まれた時。願いが叶った時。理由は千差万別にもかかわらず、行きつく先はこの顔。
ふと湧いた欲求。その顔を向けられたい。
冷ややかだった自分の目を引くその顔を直接、自分だけに向けてほしい。
そうしてくれたらどう思うのかを知ってみたかった。
さて、問題はその顔を向けさせるにはどうすればいいかだった。
美味しいものが作れるでもなく、好かれているでもなく、面白くもない。
まずは赤子に変化してみて道端に横たえていれば、素通りか、見たくはない顔を向けられるかのどちらかだった。その時点でやる気は大いに殺がれた。なにしてんだかと冷やかさが増した。でもせっかくだから、願いを叶えてはどうだろうと、変化を解き、抱いてくれていた人間になにか願いはないかと訊いた。人間は目を白黒させながらも、雨が降らなくて困っていると告げた。雨を降らせるのが願いかと問えば、そうだと頷かれたので望みを叶えてやった。すればその人間は顔を一変させたのだが、見たい顔ではなかった。
こいつはだめだ。ならあいつはどうだろう。違う人間に試せばまた違う顔を向けられる。しかも先程とは違う顔だ。同じ顔ばかりかと思いきや、存外顔も千差万別あるらしい。
もう止めた。飽きた。違う場所に行こう。どうしても向けられたい顔ではない。向けられたらどうなるか気になっただけ。
そうしてこの地を離れようと宙に浮いたら奇声が耳に入ったので見下げると、小さい人間が見たい顔をこちらに向けていた。
奇声を聴かされたからか、奇妙な気持ちだった。ふわふわしている。もっと見ていたい。
飛んだら、もっと喜ぶ小さな人間。
見たい顔を見れた。奇妙な気持ちになる事もわかった。ならば、もういいか。
今度こそこの地を離れようとしたら、人間に声をかけられた。小さな人間ではない。
この子を喜ばせてくれた礼をしたいから家に来てくれと言う。
まあいいかと思ったのだ。退屈しのぎになるとついていったら、目まぐるしく人間が現れた。
見たくない顔で迫って来た。
蹴散らしてさっさと離れようと思ったのだが、小さな人間の顔がちらついて、どうしてかできなかった。
小さな人間の顔が見たくない顔に変わってしまったからだ。見たい顔になれば、さっさとこの地を離れる。そう決めて、あれやこれや、小さな人間の願いを叶えようとしても、なにもないと言う。私はなにもないから、みんなの願いを叶えてくれと言う。
みんなの願いを叶えれば、私は嬉しいと言うから、片っ端から叶えてやった。叶えてやったのに、小さな人間はあの顔を見せない。
最初に会った時の顔を見たい。痺れを切らしてそう単刀直入に言えば、もう見せられないと言う。
小さな人間は小さなまま、あの世に去って行った。
人間はこりごりだと思い、魔界に行ってみた。妖怪どもに勝負を挑まれて、鬱憤晴らしに返り討ちにしてやった。すると次には挑んできたやつには負けてしまった。勝って、負けて、勝って、挑んできた妖怪をすべて打ち負かせるようになったら少しは気が晴れたので、また違う地に行ってみる事にした。
陰陽師という不思議な力を持つやつに出会った。なかなかに力があったので少し本気を出したら、国自体が半壊してしまった。静かな場所で眠る事にした。
(2019.7.28)




