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第八話 奇跡という名のシステムバグ


 並んで立った二人は、二柱の像を見上げた。


 柔らかく微笑む女神像と、凛々しい表情で大剣を握り立つ戦神の像。天井ギリギリに届く大きさであるのに、二つの像からは不思議と圧迫感や威圧感を感じなかった。


(女神様、高台さんに似てる気がする)


 柔らかく微笑んでいる顔が、笑っている椿の顔にそっくりに見えて樹は照れくささを隠して咳ばらいをする。


「ん、んんっ」


「大丈夫?」


「だ、大丈夫」


 心配するようにのぞき込んでくる椿の視線から逃れるため、慌てて顔をそらす。左胸のポケットに押し込んだ玄武が小さくつぶやく。


「バイタル、特に心拍数が急上昇」


「一々いいって。黙ってて」


 玄武を無理に黙らせて樹は、深呼吸をした。


「緊張せずとも大丈夫です。お二人が気持ちが通じ合っていること、見守っていただきたいことを伝えれば女神さまも戦神さまも聞き届けてくださいます」


「はい」


 神父の言葉に椿は素直にうなずく。


 椿はその場に跪いた。樹も片膝をつき、右手を胸に当てる。番になる宣誓をする時のポーズだ。


「女神様、わたくしは、三橋樹を我が騎士にいたします。我が身、我が心を預け共に困難に立ち向かう番として、どうか彼に加護をお与えください」


「戦神様、わたしは、高台椿を我が魔女として生涯守りぬくことをここに誓います。この誓いを糧に、どうか彼女にも加護をお与えください」


 互いの加護をそれぞれの神に願うこと。それが番の宣誓。愛で結ばれる契約である。


「……ん?」


 離れてみていた教官の一人が異変に気付いた。

 樹と椿は慣例通りに目を閉じて頭を垂れているため気づいていない。女神像と戦神の像が、七色に輝きだしたのだ。


「どういう、ことだ? 誰かシステムを起動したのか?」


 騒然とする場で年かさの教官が慌ててスマートフォンを取り出す。システム介入するためのアプリを起動し命令を下す。


「大聖堂の番システムを止めろ」


『……命令を実行できません』


「何を言っている? 私はシステム管理権限を持っているんだぞ?」


『命令の意図が分かりません』


 機械音声は淡々と教官へ告げる。


『現在、起動している番システムはありません』


「そんなはずはない! 大聖堂の、女神像と戦神の像だ! システムを停止しろ」


『命令を実行できません』


 エラーメッセージが流れつづける。混乱する教官たちを置いて神父は頬をほころばせた。


「……やはり神は見ていらっしゃるんですよ。システムだとか、AIだとか、頼りすぎなんですよ。人間は」


 七色の光に包まれた二柱の像から、二人の頭上へ祝福するように花びらを模したホログラムが降り注ぐ。ホログラムは二人の体を包み、通り抜けていく。


 そして。


「ん?」


「あつい?」


 目を閉じていた樹と椿がそれぞれの手の甲に感じた痛みのような、熱さのような感覚で目を開けた。樹は左手の甲に、椿は右手の甲にそれぞれ番の証となる紋章を刻まれた。


「これ……え?」


 樹が像を見上げると二柱の像が七色に輝いている。


「……システムを、起動してくれたの?」


 椿が振り返るが教官たちは、それぞれのスマートフォンを操作しては手ごたえのない状態に悲鳴を上げていた。


「どういうことだ?」


「何故、何故システムが言うことをきかないぞ!」


「勝手にシステムが起動することがあるのか?」


「重大なバグだ! すぐに技術者を!」


 大騒ぎする教官たちを尻目に神父が二人に声をかけた。


「おめでとうございます。女神さまと戦神さまがお認めになってくださったんですね」


「あ、ありがとうございます。神父様が、何かしたんですか?」


 樹が尋ねると神父は首を振る。


「いいえ、私は何も。ああ、でも」


 神父は何処か楽し気に笑った。


「奇跡が起こればいいのに、とは願いましたね」

 

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