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第七話 変わらない0%と思わぬ救世主


 モニターを眺めていた教官たちは、誰一人として言葉を発していなかった。


「まさか……こんなことが」


 Aランク魔獣の討伐を訓練生が成し遂げるのは異例だった。


「教官の補佐もなく……? ありえない」


 通常は教官の指揮や一定の補佐をうけて臨むものだ。


「これは、認めるほかないのでは?」


 一人の教官が呟いた。その言葉に、一人、一人と頷き始める。


「見事、としか」


「ああ。素晴らしかった」


 拍手が起こる。しかし、沸き起こった拍手も怒号によってさえぎられる。


「馬鹿をいうんじゃない!」


 一番年かさの教官だった。


「認めてはならない。神託は、絶対だ!」


 彼が取り出したのは、二人の相性を示した結果用紙だった。


「神託システムがゼロと出したんだ。事故が起こる」


「……システムが間違っていた可能性は?」


「貴様、正気か?」


 発言した教官の胸倉をつかみ、血走った眼でにらみつける。


「我らが女神と戦神の疑似人格をインストールした高性能AIシステムだぞ?」


「……診断結果を出すのは、それを補助する演算システムです」


「女神と戦神の診断を加味している! その上での判断だ!」


 つかんでいた手を離して教官は告げた。


「女神と戦神の判断だけでは、不十分だと上が決めたんだ。それぞれの魔力の波形だけを見ていると」


「それならば、どの道不十分だったのでは?」


「間違いがあってはならないんだ。これまで、神託で決まった番は成果を上げている。勿論、例外もあるが」


 年かさの教官は、じっと一人一人の顔を見つめて呟く。


「神託システムは完璧だ。演算システムも加えた、効率化がよく、合理的なもの。そうでなければならない」


「そうでなければ……」


 教官はモニターを睨む。互いの無事を喜ぶ樹と椿の笑顔が映されているモニターを。


「これまでの結果が、間違っていた可能性が生まれてしまう。そうなれば、我々は終わりだ。認めてはならない」



 樹と椿は再度大聖堂に来ていた。


「お疲れさまでした」


 女性教官は笑顔だった。


「よく……がんばりましたね。きっと他の先生方も認めてくださいますよ」


 女性教官の言葉に二人が笑みを浮かべた時だった。大聖堂の扉が乱暴に開かれ、教官たちが入ってくる。先陣を切っているのは、一番年かさの唯一反対を述べていた教官だ。


「実力は認めよう。だが、君たちの相性数値は相変わらずゼロを叩きだしている」


 年かさの教官が数値が書かれた紙を樹と椿の鼻先に突き付けてくる。樹が紙を取り、内容を見つめた。


「……相性数値、ゼロ」


 何度見てもそれだけしか書かれていない。


「他に、判断要素とか書いてないんですか?」


「神託システムは絶対だ。必要なことしか書かない」


「話にならないわ」


 椿が眉を吊り上げ、教官を睨む。


「そもそも、約束したはずですよね? 認めると」


「教官全員が認めれば、な」


「それでは、お手本見せてくれるんです?」


 樹の言葉に対し教官は首を振った。


「聞こえていなかったのか? 実戦訓練に関しては見事と評価をした」


「なっ! ずるいです、それ。評価はするけど、番にはさせないなんて」


「この数値を覆すほどの何かがなければ無理だ。君たちは、確かに戦闘面においては相性がいいのだろう。だが、番に関してはそれだけではだめだ」


 教官は後ろ手で手を組むと首を振った。


「君たちの気持ちをないがしろにしたいわけではない。だが、我々は君たちの身の安全を維持することを義務としている」


「さっきの暴走した魔獣を止めなかったのに?」


「それについてはすまなかった。システム不備があったようだ。そこは認め、謝罪しよう。君たちにケガがなくて何よりだ」


 樹の指摘についても、言葉一つでかわしてみせる。


(これは、出直すしかないか?)


 だが、他に打開策があるだろうか。樹が考えを巡らせている時だった。


「随分と騒がしい。ここは、祈りを捧げる場ですよ。あなた方にとっては、番というシステムの確認作業場のようですが」


 何処か棘のある言葉が聞こえた。樹と椿だけでなく教官たちも声がした方向を見る。大聖堂の右側の壁にある扉のついていない出入り口から神父服をまとった男が現れた。


「愛を誓い、女神さまと戦神さまに加護を願う神聖な場です。あなた方ときたら、システムだなんだと……かの二柱をなんだとお思いで?」


「神父さま、騒がしくして申し訳ありません」


 椿が真っ先に謝罪すると神父は細い目をさらに細くして椿を見つめた。


「おや、あなたは高台さん。毎朝、説教を聞きにきてくださってありがとうございます」


「いえ、こちらこそ勉強になるお話をありがとうございます」


 顔見知りらしい。樹は戸惑いつつも黙って頭を下げておく。


「おや、君は?」


「……三橋樹といいます」


「私がパートナーになりたい人です」


 椿が胸を張って言うと神父は顔をほころばせた。


「おやおや。それなら、どうぞ女神さまと戦神さまに宣誓をしていかれればよろしい」


「いいのですか?」


「待ってほしい、神父」


 年かさの教官が喜ぶ椿を押しのけて神父へ詰め寄った。


「勝手な真似をしないでほしい。あなたは、あくまでもこの場所の管理を任されているだけで」


「ええ、そうです。私が責任者ですよ。責任者の私が許可を出した。それの何が問題なので?」


 にらみ合う二人の間に入ったのは、女性教官だった。


「宣誓くらい、いいではありませんか。システムの起動権限は神父様にはありませんし」


「いや、だが」


 口ごもる年かさの教官に他の教官も口添えをする。


「先ほどの魔獣のトラブル、彼らが無事治めなければ大事になっておりました。それくらい、許可しても問題ないのでは?」


「……それで気が済むなら、いいだろう」


 分が悪いと思ったのか、それ以上食い下がらなかった。二人は神父に手招きされ、大聖堂の中央の壁に並んで設置されている女神像と戦神の像の前に並んで立った。

 

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