第四話 判定0%番外れ、脅しは録音済ですが
「君たちの相性は神託によれば0パーセントだ」
「はあ?」
椿と共にパートナー登録に来た本日。大聖堂と銘打たれてはいるが、小さな教会のような内装の部屋にて樹は声を上げた。
絶対におかしい。先日の、椿が魔力暴走を起こした時に、魔力をやり取りした感覚。まだ、覚えている。
調整がうまくいった後の心地よい温かさ。あれが、ゼロパーセントの感覚とは思えない。
「……いいから、登録を」
何か上の指示で嫌がらせをしているだけだ、と樹は判断した。
「ダメだ」
「なんで?」
教官は土気色の顔を決して縦には振らなかった。
「ゼロパーセントということは、魔力同期してしまうと事故がおこる」
「そりゃまたおかしな話じゃのう」
樹の左ポケットに押し込まれた玄武が顔を出す。
「お前さん、正直に言うてみたらどうじゃ」
「なんだ、この亀は……ああ、健康管理AIか。子供が持つようなマスコットタイプの」
「じゃかあしいわ。ええから、正直にいうてみい」
玄武の声に教官はわざとらしいため息をつく。
「はあ……何が言いたいのかわからないが」
「わざとなのでしょう?」
一歩後ろで見ていた椿が樹の隣に立つ。
「先生だってご存知のはずです。彼は、私の魔力暴走を収めてくれました」
「そんな話は初耳だ」
「ふおっほっほ。なんじゃ、スマホを持っとらんのか?」
「うるさいAIだ」
教官はしっしと手で追い払う仕草をする。
「相性が悪すぎて魔力同期ができないなら、先日の暴走で彼はここにいません。私も」
「ともかく、規則だ! 一定以上のパーセンテージを出せなかった者たちは、どれだけ望んでも番にはなれん」
取り付く島もない。樹がどうしたものかと考えを巡らせていると、玄武がぽそりと呟いた。
「わし、こんななりじゃが……録音機能くらいついておるが?」
「勝手にしろ。そんなもの、脅しにもならん。規則は、規則だ」
「主よ。なんなら、この音声データ、今、話題のカクカクくんとやらに送ってみるか?」
「炎上系インフルエンサーじゃん」
「取り上げてくれるかもしれんぞ?」
「まて」
教官が手で制する。
「そんな真似をすれば退学だが」
「なるほど。それなら……そうじゃな。普通に主のご両親に送るか。それがいい」
「庶民ごときが何ができる」
「お、今の音声も送るかの」
玄武の言葉に教官のこめかみがぴくぴくと引きつっていく。椿が冷静につぶやいた。
「先生。生徒の出自を差別するような発言はハラスメントとみなされますよ」
「主の両親が訴えた場合、解雇じゃろうなあ」
「う、うるさい!」
教官の顔には脂汗が浮かんでいる。それでも、彼は頷かなかった。
「とにかく、ダメだ! お前たちをパートナーと、番だと認めることはできない」
「なんで? かの女神さまと戦神さまは、お互いに思いあっていた夫婦だ。番はお互いを思いあっていれば、それが力になるって話じゃなかった?」
樹の言葉に、椿の頬が赤く染まる。樹の顔も若干赤いが、彼は今、教師を説得するため真剣な顔を維持するほかない。
「ええい、そこまで言うなら実戦訓練で証拠をみせろ!」
教官が大聖堂内に響くほど大声で言い切った。
「実戦訓練で一定の、いや、全教官が納得する結果を出せば認めてやる」
「言ったな?」
玄武の目が青く光る。教官の顔が真っ青になった。
「今のも、録音? 旧式のAIが、時間を置かずに録音など。いや、それよりこんな自然な会話を、どうやって」
「ふおっほっほ。何を小さい声でぐちぐち言っておるか分からんが、聞いたからな。録音もばっちりじゃ」
玄武の言葉を聞いて樹は頷いた。改めて、教官をまっすぐ見つめる。
「結果を出せば認める。聞きましたから」
「ぜ、全教員が認めねばダメだ」
「いいですよ。実戦訓練で成果を出せばいい話だ。それよりも、そちらも忘れていませんか?」
樹は、目を細める。それだけで何故か室内の空気が冷めていくような錯覚を覚える。
「訓練成果を否定するなら、お手本を示すんでしたよね?」
「っ!」
教官の顔から完全に血の気が無くなった。
「素晴らしいお手本が見られることを期待してます、先生」
樹は言い捨てると椿の手を引いてその場を後にした。




