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第十九話 椿、初めての遠出


『間もなく、難波街行き魔導新幹線が出発いたします』


 AIアナウンスが車両内と駅構内に響き渡る。


「……」


 椿は、栗色の瞳をキラキラと輝かせながら車内を見回している。


「すごい……椅子もふかふかで。ええと、シートベルトは?」


「着いている車両もあるみたいだけど、これはついてないね」


 樹が答えると椿は固まる。


「え、え……危なくない、ですか?」


「ふおっほっほ。お嬢ちゃんや。新幹線は法律ではシートベルトの着用義務はないのじゃ」


「ない? でもでも、事故とかあったら」


 椿が心配していると樹のポケットから玄武が飛び出し、広げていた簡易テーブルの上に乗る。


「新幹線は、乗客が必ず座っているとは限らん。そんな時にシートベルトで固定しておくと万一の事故の際に、物や人が飛んできて避けられずかえって危険、という説がある」


「説、ですか」


「うむ。もっとも、万一衝突しても新幹線のボディ自体がかなり頑丈に作られておるでな。めったなことでは新幹線自体が破壊することはない。そういう安全設計なんじゃ」


「特にこの魔導システム導入タイプはAIが適宜運航ルートチェックしてるから。新幹線同士でぶつかることはないよ」


 樹の説明に椿は、ただただ驚いている。


「……もしかして、初めて?」


「あ、はい。実は」


「飛行機とかのほうが多いの?」


「いえ。その、実は、遠出自体が初めてで」


 椿の言葉に樹は目を細める。


「……そっか」


 樹は、それ以上は椿に尋ねなかった。


(もしかして、九条くんは知ってたのか? 椿さんが、旅行したことないこと)


 この国の富裕層でもトップ層とは聞いている。黙っていても情報が入ってくる立場とも。


(だから誘ってあげろって言ったのかな)


 樹の中で納得しかけたが、ただ、疑問がもう一つ。


(椿さんのご両親にうちに泊まってもらうこと、知らせようと連絡先聞いたら拒否されたんだよなあ)


 本人が言うからとのことだったが。


(普通、娘がよく知らない男の実家に泊まるの、心配じゃないのかな)


 樹の中で椿の両親への疑いが広がっていく。とはいえ、番になったとはいえデリケートな問題だ。本人が話してくれるまで待つしかない。

 樹は玄武と難波街にある有名な食事処や名物の話をしている椿を、しばらく眺めていた。



 難波街に到着すると、椿は言葉を失う。


「なんですか、この、駅から出たらお店がずらっとあるなんて」


 店員が活気のよい声を出しながら客引きをしている店が並んでいる。その光景が椿には新鮮だったらしい。


「昔は商人の街と言われておったからなあ」


 玄武が樹のポケットに入って笑う。


「今もそうじゃな。養成校がある大江戸が国の中枢ではあるが。難波街は活気があって人が多い」


「そう、ですね」


 道が広く、大勢が行き来しているのに狭苦しさを感じない。それが難波街の良いところである。


「ここからは、地下鉄に乗るよ」


「地下鉄?」


「地下に魔導列車があるんだ。運転手がAIで深夜二時まで自動運転してる」


 樹が椿の手を握る。


石ノ霧町(いしのきりまち)ってところで下りるよ。ついてきて」

「は、はい」


 二人で地下鉄に入る階段を下りる。椿の持ってきたスーツケースを樹が持って階段を降りていく。


「ごめんなさい、荷物が減らせなくて」


「気にしないで。むしろ、よくこれ一個と肩掛けバックでおさめたね」


「母上殿は旅行すると大荷物じゃからなあ」


 玄武が笑って丁度やってきた魔導列車に乗り込む。


「……」


 電光掲示板を眺めて熱心に文字を追う椿を見て樹は笑う。


「珍しい?」


「そう、ですね。商品の説明文、ですか?」


「今はね。色々流れるよ」


 話していると、目的の石ノ霧町に到着した。

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