第十一話 正しき番の証明
「……申し訳ありません」
椿は九条に頭を下げた。
「私には、もう番がいます。貴方の手を取ることはできません」
しんと静まり返る。九条の取り巻きらしい女子生徒たちの視線の矢が突き刺さる。
「……うそでしょ」
「だって、神託は絶対って」
驚きとも、恐怖とも取れる囁き。けれど椿の答えは揺らがない。
顔を上げて九条を見つめる。
「神託が何といっても、私は、私にとっての運命は、樹くんです」
椿の宣言を聞いて九条は立ち上がった。
「おや、これは。困ったなあ」
眉を下げて首を傾げつつも、その瞳に楽し気な光が宿ったのが椿にはわかった。
「君の言う運命の相手。名前は、三橋樹だったっけ?」
「そうだけど」
椿は、急に聞こえた声に驚いて振り返る。振り返った先には眠そうな顔で玄武を肩に乗せた樹が立っていた。
「おや。君が。今日は運がいい日だ」
「……あんた、誰?」
樹の問いかけに、彼の後ろにいた男子生徒が慌てた様子で叫んだ。
「馬鹿! あの九条グループの御曹司だよ!」
「偉い人?」
「まっじで、お前、なんも知らないのな」
男子生徒の叫びをうるさそうに聞き流して、樹が椿の隣に立った。
「で? 神託がなんだって?」
「神託では僕と彼女が運命と出たんだ。君と違ってね」
「あっそ」
樹はあくびを一つして九条を睨んだ。
「それを、あんたは、嬉々として受け入れたってこと?」
「神託は絶対だ。間違いなどない」
「間違いくらいあるだろ。所詮人間が作った機械のシステムの一つ。完璧じゃない人間が作った道具が決して間違わないなんて、誰が決めた」
樹の言葉に九条の表情が変わる。まるで、異端者を見つけたというように眉をゆがめ、顔をこわばらせる。
「我が国の技術の粋を結集して作り上げた、いわば知の結晶。それを、君は侮辱するのか?」
「してないよ。してないからこそ、使い方を間違えるなって言ってるの」
言いながら樹は椿の手を取った。番の証を通して互いの魔力が流れる。
「こんな道端でしゃべってたら遅刻する。じゃあね。行こう」
「あ、はい」
椿は手を引かれるまま樹と共に学校に向かう。足早に校門へ向かう樹についていくため、椿もいつもより足を速く動かした。
*
自分の前から去ってしまった二人の背を見送っていた九条へ、そっと話しかける者がいた。
「いかがいたしますか?」
「いかがとは?」
振り向かずに九条が聞けば、黒服の男が再度口を開く。
「あの、三橋樹というものです。坊ちゃまへの愚弄、後悔させましょうか」
「やめたまえ。彼や彼の家族に何かしたらお前を解雇する」
「坊ちゃま?」
九条は男に視線一つ向けないまま告げる。
「腹いせの報復など、九条家の品位を落とす。馬鹿なことを二度というな」
「……失礼いたしました」
「お前の忠心にはいつも助かっているが、こういう時はダメだな。冷静でいてくれ。僕の目付役なのだろう? 仕事をしてくれ」
「真に、おっしゃる通りです。失礼しました」
頭を垂れた黒服へ、やっと九条は顔を向けた。
「だから、この件には手出し無用だ。僕は、僕の方法で勝つ」
「と、いうと?」
九条は美しい顔に笑みを張り付けた。
「はっきりと実力差を見せようじゃないか。片や日常訓練しかしていない一般候補生」
「片や、プロと実戦訓練をしている僕。実力差なんて、明白だろう?」




