存在証明
失踪事件は急展開を迎える。
失踪したと思われた彼女は新居に住んだ形跡が見られない。
それもそのはず新居自体が存在しないのだから。
今までの捜査は無駄の極みだと言うことなる。
捜査もこれまで。
暇な時間を使って独自に調べていたがこれ以上誰にも迷惑はかけらない。
重い足を引き摺りながら自転車で帰還。
「帰りました」
「おおどうした? 疲れた顔して。大丈夫かよ? 」
張り切っていたからな…… 今の姿を見ればそう思うのも無理はない。
「それが…… 大変な事実が分かったんです」
「おおそれは朗報じゃないか。座れ座れ! 」
まずは麦茶でもと優しく励ましてくれる。
「それでそれで」
「大変言いにくいのですが実は…… 」
同僚は朗報だとはしゃぐがただの失態。大失態だ。
「嘘だろ? 存在しないだと? はあ何を言ってるんだ? 」
同僚も男とは会ってる。だから彼の証言が丸っきりの出鱈目だとは思わない。
「だって存在しないものは存在しないんです。我々は男に嵌められたんですよ」
「おいおい落ち着け。まだそうと決まった訳ではないだろう? 」
あれおかしいな? 同僚は男の狂言だと見抜いてなかったか。
それなのに今更態度を変えるのか?
「確かにそうですけど」
「とにかくもう一度男に会って真意を確かめるしかない。そうだろ? 」
男は大事な資料を落とした関係で来ることになっている。
だから当然このまま逃走するとは思えない。
そもそも我々が真実に気づいたと知られた訳ではないのだ。
「そうですね。詳しい話を聞くとしましょう」
「ああ。俺はあいつが嘘を吐いてるようには見えないんだよな。
あの話しぶりは演技ではない。お前もそう思うだろう? 」
同僚も私と同じ考えらしい。
存在しない失踪者の謎。
失踪対象者が存在しなければ失踪事件は起きない。
殺人事件もそう。被害者がいなければ殺人事件とはならない。
もちろん例外もあって明らかな殺人の証拠がある場合は別。
それでも立件となると一段と難しくなる。
被疑者が罪を認め自白して死体が見つかれば恐らく。
それだって明確な動機と凶器がなければ裁判でひっくり返される。
その点失踪事件は対象がいなければただのいたずら。
警察をおちょくったに過ぎないがそれは決して許されるものではない。
明らかに業務を妨害した場合は罪に問われることも。
いたずらで百当番するようなもの。
「存在しないってのは本当なのか? 」
「見てきたんですよ。失踪現場を」
本来慎重に捜査するよう義務付けられている。
だが男の鬼気迫る演技に失踪現場にまで足を運ばずに確認を怠った。
これが正式な捜査ではないところが盲点。
失踪事件として正式に捜査していれば人員も確保できただろう。
その日のうちに現場に足を運んだであろう。そこで気づくことも出来た。
だが今回はそうではない。
事件性のないただの一失踪事件など受理するだでけで様子見するのが普通。
もしかすれば手掛かりがあるならと思うが男の証言では引っ越ししてきたばかり。
今月から正式に住むと。だから男の証言以上の手がかりなどないと踏んだ。
捜査だって男に無理矢理頼まれて隣人たちから話を聞いてそこで分かったこと。
男もこうなることを予測したはずだ。あまりに幼稚でふざけた男の行為。
だが本当にただの悪ふざけなのか? 男による狂言で事件は無事解決なのか?
どうであれ男にもう一度直接会って真意を確かめるしかない。
気づいて逃走を図ったとしても必ず捕まえてやる。
「お疲れ様。とにかく事件解決できた良かったな」
同僚が同情して優しい言葉を掛ける。
うーん。本当にこれで事件は解決したのか?
色々な人を巻き込みどんどん大きくなってしまった。
仮に男による狂言だとしても責任を取る必要がある。
「ほらほら暗いぞ。落ち込むなよ。一杯飲めば気分も落ち着くぞ」
「勤務中ですから」
「だったら銭湯にでも行って来い! これ届け物だ」
私の不在中に落としも物が届いたそう。
「分かりました」
再び外へ。見回りついでに落とし物を届ける。
同僚はついでに銭湯でゆっくりしてこいと。もう相変わらずお節介なんだから。
どうしようかな……
続く




