車トラブル
始まりはモール。そこで家を世話した縁で親しくなったらしい。
お爺さん曰くしつこくまとわりつくから迷惑だと。
「ああそこだ。奴とはそこで知り合った。確か先月の…… 」
日付まで正確に思い出せると言う。記憶力はまだ衰えてないどころか化け物級。
この年齢では信じられない。
嘘を吐いてる様にも見えないし貴重な証言。信用できるだろう。
「あの日は風が強くしかも最悪なことに儂の車が何者かに傷つけられてな。
結局修理に出す羽目になった。だから儂はあの日のことをよく覚えている。
お気に入りの車だったのに傷つけやがった。本当に頭にくる」
今でもその時の何とも言えない怒りの感情が蘇るそう。
血の気の盛んなお爺さん。これ以上怒って興奮すれば危険。
血管が切れないか心配になるほど。
「それは不運でしたね」
この一言で片づけたのが気に入らなかったのか被害状況を詳しく語って見せる。
「儂は愛車を大切にしてるからなるべく人のいない遠い場所を選び駐車しとった。
だが車に戻ると傷跡くっきり。要するにわざわざ隣に駐車した馬鹿がいたんじゃ。
ふざけてるだろう? それで謝らず逃げて行った。あり得るのかこんなこと?
儂はわざとやったのではと疑っとる」
「それはお気の毒に。大変でしたね」
「他人事だと思って。あんたも愛車が傷つけられて黙ってられないだろう? 」
同情を誘おうと必死なお爺さん。実際他人事だから何とも。
「まあそうですね。続けてください」
いつの間にかお爺さんの愚痴を聞く羽目に。
それはまた次の機会で。失踪事件に関連した話をしてくれないか。
「まったく最近の奴は傷つけても謝りもしない。見つけたらただではおかん! 」
お怒り気味の老人。すぐに頭に血が上るのは体に良くない。
血圧だって急上昇。抑えて抑えて。
「だから彼女を誘拐した? 」
「はい? 何か言いましたかな? 」
ふざけたことを抜かすなと怒鳴られる。
「あんたも警察の端くれじゃろ? 滅多なことを抜かすでない! 」
怒りで紅潮した顔を近づける。気持ちは分かるが今はその話をしてる時じゃない。
「これは失礼しました。それであなたはここ一帯の大地主と伺いましたが」
車の話はもういい。次に行く。その前に取り敢えず落ち着かせる。
「誰がそのようなことを? 」
「名前までは。違うのでしょうか? 」
「ははは…… 奴め何勘違いしたか。確かに奴に勧めた家は儂が所有しておった。
いやまだ権利は儂にある。じゃがそれがなぜ関係する? 」
この一帯を所有する大地主ではなくごく一般的な年金生活者とのこと。
その家も古くなったのでリノベーションしてから売りつけるつもりとのこと。
どうも男の話とかみ合わない。
「ではこれくらいで…… そうだ。ご近所に不審人物の心当たりは? 」
「不審人物? それならあの外人さんたちじゃろな。どうも人が多すぎる。
深夜にここまで騒音が響いてくる。どうにかならんかお巡りさん。
それからごみの捨て方もなってない」
どうやら騒音トラブルを抱えてるようだ。
さっそくその当事者にお話を伺う。
表札はアルファベットで書かれておりお洒落。
よく分からないので取り敢えず鳴らすことに。
「おーポリス! 何の用ですか? 」
片言の日本語を操り対応に出たのは愉快な外国の方。
お国を聞くがそこは頑なに拒否。怪しいので職務質問をする。
「おお! 日本語難しいね」
日本語学検定一級所得済みとなっている。
何だ通訳がなくても通じるじゃないか。
それでも分からない振りするのは相当な知能犯。
何か良からぬことを計画してるかふざけているか。
「あなたお名前は? 」
「ブブンカって言うね。以後お身を知りおきを」
どこで覚えた挨拶か知らないが古臭くて今の日本人では理解できるのは僅か。
「それでブブンカ。君に頼みたいことがあるんだ。
出来たら夜の騒音とゴミの分別には気をつけてくれないか」
「ソーリー。でもそれ自分じゃないね」
自分は関係ないと言い張るブブンカ。
「とにかく近所からクレームがあったんだ。これから気をつけて」
優しく注意する。果たして理解しただろうか?
とにかくここまでは順調。問題はこの後。
続く




