動きなし
彼女が突然俺の前から姿を消した。
どう考えても不自然だ。彼女は今一体どこにいるのだろう?
もう俺の力ではどうすることも出来ない。
ただ帰りを待つしかない。祈り続けるしかない。
「ではお任せください! 」
そう言って自信満々なお巡りさん。
でもどうせ調べないんでしょう?
俺は分かってるんだぜ。あんたらが積極的に動かないって。
残念だが事件性がなければ警察は動かない。いや動けないさ。
そんなことは百も承知。
だが地域の安全を守る役割が彼らにはある。
警察には俺の周りの不審なトナラ―たちの一斉捜査を進言する。
そうすれば彼女だって帰ってくるはずだ。
ただの推測でしかないがクロに決まってる
だがいくら俺が進言したところで警察が本気にならなければ無意味。
とにかく今は警察に言われた通り様子を見ることに。
可能性は低いが数日後に突然姿を見せることだって。
まあ現実的ではないな。彼女は自ら失踪したのではない。
何らかのアクシデント或いは悪意によって姿を見せられずにいるのだから。
悩ましい現状。相談することさえ躊躇われる。
このことを誰に伝えるべきか迷う。
母にはもうすでに話してある。
でもまったく取り合わない。
「彼女が居なくなった? それは今に始まったことじゃないだろ。
馬鹿言ってないで戻って来な! 」
今月から彼女と同棲生活。
そのせいで実家に寄りつかなかくなったものだから不満があるらしい。
だからと言って俺の彼女の存在を消し去るなんて酷い。
前にも紹介したはず。一度や二度ではない。
それに前回は覚えてたじゃないか。
いくら気に入らないからと言って記憶から消去するなんてありえない。
これでは気軽に相談できそうにない。
もちろん会社にも迷惑はかけられない。プライベートだしな。
では一体誰に相談すればいい。
親も会社も頼れないならやっぱり……
それなら思い切って彼女の両親に……
いやそれは無理か。まだ紹介もされてない。
こうなる前に一度は挨拶に伺うつもりだったがついタイミングを逸した。
後回しにしてしまった。
彼女も無理しなくていいと言ってくれたからそれに甘えてしまった。
だから連絡先だって控えてない。
ああどうしたらいいんだ。
いや待てよ…… 確か電話番号は確か……
メモに書き写していたのがあった。
さあこれで彼女の両親と連絡が取れるぞ。
だが力が入らない。
あれどうしてしまったんだ俺?
そうか…… 娘が失踪してるのに呑気に電話出来るはずがない。
何をやってるんだと叱られるのは目に見えてる。俺が原因だと思われてしまう。
多少は仕方ないものの情けない奴だと思われたくない。
ネガティブな感情しか湧いてこない。
こんな時はどうしても積極性に欠けてしまう。
彼女ではないがすべて人任せで自分では選べないし決められない。
まあいいか。その内警察から連絡が行くよな。
俺が今電話して下手に騒ぎ立てるよりも警察に任せるのがいい。
とりあえず一週間待つことにした。
その間も彼女探しは継続。
どこにいるのか分からない。もしかしたら何か不満があり友だちの家に?
ははは…… きっとそうだよ。俺を困らせようとしてるんだ。
まったく子供じゃないんだから。
ついお隣さんを疑ってしまった。
あーあまたやったかな。いつもの早とちり。
そうやって都合に良いようにストーリーを組み立てる。
一種の現実逃避だが心を保つには必要なこと。
あっと言う間に一週間が過ぎた。
「ちょっとどうして何も調べてないんですか? 」
失踪届は受理された。
だからと言って警察が何か積極的に動いたかと言うと大いに疑問がある。
「いえ…… 今総力を挙げておりますのでご心配なく! 」
笑顔を絶やさない地域に根差した親切なお巡りさん。
「でも一週間も経ってるんですよ? 一週間もですよ。まさか受理しただけ? 」
「ははは…… まあ落ち着いてください。今お茶を出しますので」
「彼女が失踪したんですよ? 落ち着てられるか! 」
いくら警察に言っても始まらない。それは痛いほど分かっている。
しかし思いを伝えないことには重い腰を上げるに至らない。
いまいちどころかまったく信用できない警察。
きっと受理しただけなんだろうな。
続く




