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おしぼりで危機一髪

フライト時刻が迫って来た。

上司は当然のように窓側に腰を下ろす。

チケットには窓側は俺となっている。だから本来俺が座るべき。


「あの…… 窓側が良いんですが」

すぐに気分が悪くなるので景色を見てどうにかごまかすのがいつものルーティン。

今回の沖縄出張は飛行機に加え船だから過酷さが増す。

旅のお供に一番ふさわしくない男だ。自覚はある。

「子供か? 俺だって窓側が良いんだ」

やはり上司は俺のことを理解してくれてない。

行きの飛行機で散々説明したのに。もう忘れてるのか?

「しかしトイレが近いと…… 」

「年寄り扱いするな! まだ五十代だって」

見た目は老けてるがまだ五十代だと言い張る。物忘れも酷いんですが。

「しかしですね…… 」

いくら言っても聞きやしない。譲るか。ここは大人しく真ん中の席に座る。

お隣さんが気になるが三人掛けに一人が来るかな? 恐らくただの空席だろう。

まだ来てないしもうフライトの時刻も迫ってることだしな。


「まったくワガママを言うな! 普通、部下が気を遣うものだぞ。

そうだ…… お前には言ってなかったが今回の件に関して悪くない話がある。

実は我が部から一人このプロジェクトの担当者を寄越すように言われてるんだ。

たぶんもうすぐにでも撤退だろうが時間も要する。その間の二、三年。

要するに後始末に駆り出されるんだがどうだお前? 」

そう言って今度はおしぼりで足元も拭きだす。

うわああ…… 何をやってんだ? だから爺さんって言われるんだよ。

「しかし…… 俺にも都合が…… 」

「いい話だと思うがな。上手く行けば出世間違いなしだ。

下手打たなければある程度評価されるさ。たぶんな」

どうもこの人の言ってることは軽いんだよな。適当過ぎて信用できない。

出世を餌に俺を地方に飛ばす気では? 

観光には不便で住むにはもっと不便。そんな離島に撤退までとは言え行けと?

第一帰って来れる保証がない。何としても転勤だけは避けなければ。

せっかく引っ越したのに無駄になってしまう。

彼女との関係までおかしくなる。別れると言われたらどうする? 冗談じゃない。


「うーん。その…… 」

いきなり言われても断れるなら断りたいが社命なら選択の余地はない。

「はっきりしろって。それによお前は独り身じゃないか。気楽に行って来いって」

職場の皆はほとんどが妻子持ち。お子さんが生まれたばかりの奴も居るぐらいだ。

俺だってもうすぐ…… 


「俺に務まるでしょうか? 」

「務まる。務まる。しっかりやって来い! 」

「でもな…… デーヴィットは何て? 」

「悪いな。彼は君とは比べものにならにぐらい優秀。いい加減諦めろって! 」

「だったらネトはどうですか? 興味を示してましたよ 」

「駄目だって。許可できない決まりだ。それくらい知ってるだろう? 」

「だったらトンズラビッチは? 」

「ははは! もう姿を消した」

くそ! 同僚にはロクな奴がいない。

「ではスーザンは? 」

「産休に入っただろうが」

駄目だ。完全に俺しか残ってない。ここは潔く従うのがいい。


「あの俺…… 実は彼女が…… 」

「ない。ないって。お前には彼女いないだろ? 紹介してやるぞ」

やはり俺を舐めてやがる。まったく来年には…… 

日頃の行いが悪いのか信じてもらえない。

確かに誰にも話したことなかったけど。

「俺にだって将来…… 」

「はいはい。まあ前向きに考えておいてくれ。眠いから寝るわ」

そう言うと俺の隣の席におしぼりを投げる。


あの汚いおしぼりを処分せずに放り投げるとはさすがは爺。

まさか俺が片付けるのか? 嫌だな。

おしぼりぐらい持っててくれよ。

いい度胸と言うか大胆不敵と言うか異常と捉えるべきか。

面倒見の良い上司かもしれないが常識が欠如した異星人でしかない。

「着いたら起こせよ! 」

睡眠不足らしく私に後を任せて夢の中。

昨日眠れなかったと言ってたがただの遊び過ぎだろ?


「ちょっと! 何これ? 」

憤慨した女性がこちらを睨みつける。

俺がやったと思ってるらしい。何てタイミングが悪いんだろう。

当の本人はいびきを掻き始めた。どうせ寝たふりだろ?

さあどう対処しよう? 面倒なトラブルに巻き込まれた。

「何で私の席におしぼりが? あんたが捨てたんでしょう? 」

いきなりのクレームに頭が真っ白に。


そう彼女こそがこの通路側を確保したトナラ―。

この後災いをもたらす悪魔のトナラ―。


              続く

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