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第6話 たくさんのドレスと思いやり

「さぁ、クローゼットを開けて見てご覧なさい。足りない物があったらすぐに手紙を書くのですよ」




 私は頷きながらクローゼットを開けた。そこは色とりどりのドレスやワンピースで溢れかえっていた。ラバジェ伯爵家にいた頃は、それほどドレスを持っていなかった。今、目の前にしているドレスの半分もなかったと思う。少しでも綺麗で新しいドレスを買ってもらうと必ずココに奪われたからよ。




「さぁ、着てみなさい。ちょうど良いと思うわ。まずはこのダンス用のドレスからよ」


 ボナデア伯母様はエメラルドグリーンのシルク生地に、ゴールドの刺繍が施されたドレスを差し出した。スカート部分は広がりを持ちながらも透明感のあるオーガンジーのインナースカートが重ねられており、踊るように体を回転させると、優雅な動きを演出できた。とてもダンスが上手に見えることだろう。




「素敵です。それに体にぴったりだわ。どうして私の体のサイズがおわかりになったのですか?」


「ラバジェ伯爵家に、ビニ公爵家の侍女を送り込みました。ソフィから手紙をもらってすぐに向かわせたのよ。新しく入った侍女にリゼという女性がいたでしょう? あれはビニ公爵家の者です。ソフィを見守らせていました。もし、あなたに危険があったら、すぐに助けるようにとも言ってあったのよ。ドレスのサイズもリゼの見立てです」




 そう言えば修道院に送られる三日ぐらい前から、とても良くしてくれた侍女がいた。まさかボナデア伯母様が寄こしてくださっただなんて・・・・・・伯母様が私に全く興味がないのだと思っていたのは間違いだった。




「ボナデア伯母様、ありがとうございます。私、誰にも今まで気にかけてもらったことがなかったので嬉しいです」




「これからは私がいますよ。それにね、実は私の夫のエルバートも、ソフィに会いたがっていますよ。あなたの自分に投資をしてくれという申し出が愉快だったみたいです」




 私は恥ずかしくて頬が染まった。あんなことを書かなくても、きっとボナデア伯母様は私を助けてくださっただろうに、失礼なことを書いてしまって本当に反省している。




 次に渡されたのはパウダーブルーのシルク生地を使用したドレスで、胸元や袖口のレースやフリルが繊細なデザインだった。ウエスト部分に、ほどよいシェイプが施され曲線美を引き立てていた。色彩は柔らかだけれどビーズの装飾も華やかで、細部まで美しさを極めたつくりだった。




 深い紺色のシルクに星形のスパンコールをちりばめたものは、腰にシルクのリボンがありウエストラインをひきしめてくれる。スカート部分は広がりのあるデザインで、歩くたびに星が煌めいた。どれも素敵でとても高価なドレスやワンピースがぎっしりだ。




「これで足りるかしら?」


「ボナデア伯母様、多すぎるくらいです。これで充分です。もしくださるのなら本とか、お勉強に使うものを頂きたいです。専門書などはとても高価ですけれど、自分の本があれば、お勉強もはかどるのでお願いします」


 ボナデア伯母様は首を傾げた。




「専門書や教科書は当然買ってあげるものでしょう? わざわざお願いしなくて良いのですよ。学生はお勉強するのが仕事です」




 ボナデア伯母様は既に教科書やら専門書、さらには勉強に必要そうなものをたくさん買いそろえてくださっていた。それは机の引き出しや壁側に備え付けられた本棚を見て初めて気がついた。




「ありがとうございます。すっごく嬉しいです!」




 私は嬉しくてたまらない。初めて新品の本をもらった。今まではお兄様が使っていた本や辞書を貸してもらうことが多かった。


 お母様が女の子に学問は必要ないという考えだったからよ。家庭教師もいたけれど主に礼儀とマナーを学び、文学や詩の世界に触れるぐらいだった。音楽や芸術に関する授業もあったけれど、どれも深くは学ばせてもらえなかった。




 ボナデア伯母様に申し上げると、朗らかだったお顔が一変した。口角が下がり眉間に深いしわができており、目に怒りをにじませている。




「お勉強のしすぎは頭でっかちになるからだめだ、と言われたのですって? 頭がからっぽのお馬鹿さんよりずっと良いです。どうせ、ドレスや宝石には湯水のようにお金を使っていたのでしょう? なんて愚かなヴィッキーなんでしょう」




 ボナデア伯母様はお母様を『頭がからっぽのお馬鹿さん』と呼んだ。私はボナデア伯母様と一緒に声をあげて笑ってしまった。




「ソフィは笑顔がとても可愛らしいわね。笑っている方がずっと良いわ」




 そう言われたことが嬉しかった。ボナデア伯母様は私を褒めてくださる。もっと褒めていただきたくて、私はお勉強を絶対に頑張ろうと思うのだった。



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[良い点] 叔母様マジで人格者
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